58.護衛のナタリーさん
シェアト兄様が買ってくれた緑茶と、アームズ様が買ってくれたきんつばのような和菓子を王城まで届けてくれるようお願いして、私たちはその店を後にした。
学院に入学したらまた来ます、と言うと店員の女性は大変喜んでくれた。
次は、パティ様やデイジー様と一緒に来れたらいいな!
「いやあ、悪くなかったな。シェアト、今度また来ようぜ」
アームズ様の誘いに、兄様もうなずく。
「ああ。あまり混んでいないからいいな。シャル、その時はまた何か買って送るよ」
「あ、俺もその時は一緒に買うわ。シャルが気に入ったみたいだからな」
兄様とアームズ様がにこにこしながらそう言ってくれたので、嬉しくなって「ありがとうございます、ぜひ!」と返す。
そんな兄様方をノルディスが少し呆れたような顔で見て、やれやれと首を振る。
「シェアト殿はともかく、兄上まで・・・シャルに対して甘すぎないか」
おや。どうやらノルディスも、このメンバーの前では取り繕わなくていいと思ったのか私を愛称で呼ぶようだ。
うふふ、友好度UPした感じ?乙女ゲームっぽいね!
なーんて、それも嬉しいけど、ますます仲良くなれたような気がするのが純粋に嬉しい。
「俺はね、前から妹が欲しかったんだよ。生意気じゃなくて、あんまり出来もよくなくていいから可愛い感じのね!」
それって、生意気で出来がいいノルディスに対する嫌味なのかしら?
上機嫌なアームズ様の言葉がおかしくてクスクス笑っていると、兄様がちょっとムッとしてアームズ様に言い返した。
「シャルは生意気じゃないけど、出来はめちゃくちゃいいからね?」
・・・あれ、私、ディスられてたの?
「そういう意味じゃない!違うからな、シャル?」
慌てて言うアームズ様に、笑いながらうなずく。
「はい、わかってます!」
「・・・いや、君は怒っていいぞ?兄上は少々口が過ぎる」
横から口を出すノルディスに、アームズ様はむくれたようにぷいと横を向く。
そんな感じでワイワイやっていると、声が降ってきた。
「若様方、あまりお時間はありませんよ。もう散策はいいのですか?」
見ると、後ろに立っていたのはハーディエンス家の護衛である、ナタリーさん。
今日の街歩きのお供についてきてくれて、さっきのお店では外で控えていてくれたのだ。
女性の護衛と言うのはめずらしいのだけど、普段はハーディエンス侯爵夫人付きの護衛として住み込みで雇われているのだとか。
夫人は王都住みの高位貴族なのだからお茶会やらの誘いや開催も頻繁にあり、そこへ無骨な男性護衛は連れて行くのに抵抗があるかららしい。
私たちが王都見学に行くと聞いて、夫人がナタリーさんに声をかけてくれた。
街歩きにアームズ様とノルディスと兄様がいて、その上に護衛までが男性となったら私が可哀想だからと気を使ってくださったのだ。
ナタリーさんはもともと男爵家の出身で、ハーディエンス学院時代には男性顔負けの剣の腕を誇ったのだとか。
きっと、火のエレメンタルの加護が強いんだろうなあ。
だけど、女性では騎士団に入れず、かといって当時募集されていた王女付きの女性護衛には少し威圧感がありすぎるということでハーディエンス侯爵家に勤めることになったらしい。
確かにちょっと背は高いな、と思うけど・・・そんな威圧感はないよね?
不思議に思ったけど、「昔は結構気を張って生きてましたから」とは本人談。
男性に負けまいと一生懸命やっていたものの、女には女のしなやかな戦い方があるということをハーディエンス侯爵夫人を見て知ったのだとか。
さすがの一言に尽きるよね。ノルディスのお母様である侯爵夫人は、エレメンタルプリンセスを目指すうえで、ぜひお手本にしたい1人だ。
「そうだった。シャル、どこか行きたい店はあるか?」
気を取り直したようにアームズ様が聞いてくれたので、私ははーいと手を上げて言う。
「レターセットが買える店に行きたいです!」
「じゃあ、雑貨屋だな。学院の女生徒たちがよく行っている店があるから、そこへ行こう」
アームズ様と兄様が先頭に立って歩き始め、私とノルディスがそれについて行く。
そして、その後ろにナタリーさんが歩いてくれた。
貴族街を歩くと聞いて心配だったのは、目立ちすぎないかということ。
以前フロンターレ領にアームズ様とノルディスが来てくれた時は、私が一緒にいると目立ちすぎるからということで領内を一緒に回れなかった。
今回、王都でも同じようなことになるのでは?と危惧していたのだが。
昨日春の芽吹きの宴が終わったばかりで、平民街だけでなくここ貴族街でも屋台が出たりしてお祭りの雰囲気が漂っている。
そういった屋台を見て歩いているのは、老若男女問わず色々な人たちだ。
宴のために王都以外から来ているのか、お土産らしき大荷物を抱えて歩いている人も多い。
そして驚いたのは、意外に男女ペアで歩いている人が多いということだ。
「ナタリーさん。この辺りはこうやって男女で歩いていても、あまり噂になったりはしないのですか?」
気になって聞いてみると、ナタリーさんも周囲を見回してうなずいた。
「そうですね。普段から学院の生徒たちが遊びに来ておりますし。噂になることはなるでしょうけど、とっかえひっかえ色んな方と遊んでいる方じゃなければさほど気にされないかと」
・・・なるほど。前世での学生時代もそんな感じだったか。
地元は都会ではなかったので、繁華街は限られていた。そこで皆が遊ぶものだから、デートらしき2人連れに遭遇することは多々あった。
「あの2人付き合ってるの?!」と仲間内で噂になることはあったけど、それだけだ。
よっぽど片方が人気者であるとか、決まった相手がいるのに別の人と歩いていたとか、先週も違う子と遊んでいたとか。
そういう事情でもない限り、学校中に広まるなんてことはなかった。
意外に緩いな、と思ったがそうでもないとゲームの中であったような恋愛イベントもそうそう起きないか。
今もアームズ様とシェアト兄様が並んで歩いている姿を、何気に見ていくご令嬢たちはいるものの、その後ろをついて歩いていく私たちはちらりと見られる程度だ。
「ああ、弟妹を連れてきているのか」ぐらいにしか思われてないのだろう。
よかった、と肩の力を抜いてほっとする。
そんな私に、ノルディスが少し眉をひそめて聞いてきた。
「ひょっとして君は、昨日もそれを気にしていたのか?」
昨日って・・・ああ、近くに座るなって言ったあれか。
「そうですよ、そう言ったでしょ?何言われるかわからないって」
「兄上はともかく、私は構わないだろう」
ノルディスの言葉に、何言ってんだとばかりに目を剥いて反論する。
「構わないわけないでしょう?!ノルディス・ハーディエンスといえば天下一品の優良株よ?あの令嬢たちの目を見てなかったの?」
「優良・・・株・・・が何かはわからないが、ほめてもらってるのか?」
「ほめてます!」
私たちのやり取りに、思わずといった感じで吹き出すナタリーさん。
「失礼しました」といいながらも、まだくすくす笑っている。
「本当に・・・シャルリア様は・・・可愛らしい方でいらっしゃいますね」
「可愛いだって・・・」
嬉しくなってノルディスの方を向くと、微妙な表情で顔を逸らされてしまった。
なんだその反応はー!ここはお世辞でも同意するところじゃないの?!
まあでも仕方ないか、とため息をつく。
「ナタリーさん、ありがとうございます。でもね、昨日ノルディス様はこの世の天使にお会いしたのでそれには同意してくれないようですよ」
「はあ?!また君は・・・!」
そっぽを向いていたノルディスがこっちを向いて抗議してきたと同時に、ナタリーさんがああ、とひとつうなずく。
「マリーアンジュ王女殿下ですか。確かにあの御方の美しさには目を見張るものがありますね」
「ですよね?もうね、私なんか同じ女性として生まれてきてすみませんって気持ちになりましたもの」
「シャルリア様・・・」
ナタリーさんはおかしくてたまらないといった風情で笑う。
「確かに王女殿下は素晴らしい御方ですが、シャルリア様の魅力は負けてませんよ」
「ほんとですか?!お世辞でも嬉しいです!」
「お世辞じゃありませんよ」
そう優しく言ってくれるナタリーさんを見てると、なんだかお姉さんが出来たみたいで嬉しくなってそれからもあれこれと話しかけた。
なので、ノルディスが小さな声で「私もそう思う」と同意してくれていたことには全く気付かなかったのだった。




