55.実りの多い園遊会
後書きにお盆休み?のご案内があります。
ノルディスとゼファス様が会話を交わしつつお茶を飲むのを、見るともなしに眺める。
『ゼファスともっと会話すればいいのに』とシマが茶々を入れてくるけど、無視。
もうこれ以上しゃべると、なんかとんでもないこと口走りそうな気がする。
それにしても、こうやって実際に接してみるとゼファス様は割と話をしてくれる。
寡黙キャラだと思っていたけど、あれはマリーアンジュ王女に対して敬愛のあまり碌に話すことが出来なかったとかそういうことだろうか・・・。
さっきの態度を見る限り、その線が濃厚そうよね。
う、思い出すとなんか落ち込んじゃう。ちょっとその辺は置いておいて。
そもそもシャルリアとは全く接点がなくて、初対面イベントすら起きなかった。
その場合ゲーム上では強制的イベントで出会うのだけれど、それはこういうものだった。
いつもマリーアンジュ王女が好んでつけている髪飾り。
それを学院での体術の時間、壊したら嫌だからという理由で(なぜか)シャルリアが預かることになる。
その髪飾りはゼファス様が初めて魔道具以外を作った記念すべきもので、マリーアンジュ王女を想って作成したもの。
最上級の品ではないものの、繊細で美しいその細工をよく見ようとしてシャルリアは(なぜか)うっかり落としてそれを壊してしまう。
たちまち取り巻きーずや周囲の生徒に囲まれてそれを責められ、挙句の果てにゼファス様本人まで現れて無言のままその髪飾りを取り上げられる羽目に。
そこへマリーアンジュ王女が現れ「私が悪いのです、どうかシャルリアを責めないで・・・」と涙目で周囲を止めてシャルリアをかばう。
なんてお優しいマリーアンジュ様!友達をかばう姿はまるで女神のようだ!
ゼファス様もその姿に改めて惚れ直し、壊れた髪飾りを一層美しく修理してまたマリーアンジュ王女にプレゼントする・・・。
あ、なんだか思い出して悲しくなってきた。
どうして?!シャルリアってそんなに粗忽者なの?!そんなに粗忽者なら、そもそもなんで大事なものを預けるわけ?!
って、ゲームに向かってつっこんだ記憶がよみがえってしまった。
そんな最悪な出会い方をしたせいで、その後ゼファス様と関わることがほとんどないままストーリーは進んでしまう。
これは何度やり直してもそうなってしまい、ゼファス様を攻略するルートはないのだろうかとまで思っていたんだった。
だけど・・・と、私はちらりとゼファス様を見る。
ノルディスと話しているゼファス様は、ごく普通の少年だ。無口でも不愛想でもない。
結局前世では初対面イベントを起こせなかったので、これが初対面イベントなのかはわからない。
だけど、こうやって穏やかに一緒にお茶を出来たのだから、いいんじゃないかな。
多分また学院で出会ったら、マリーアンジュ王女を見つめるその碧の瞳に切ない思いをするのかもしれないけど、こんな風に出会えたことを感謝したい。
実際に推しに会えて、話が出来ただけ十分じゃないかー!っていう、有希の叫びが聞こえそうだわ。
やがてゼファス様はレモンパイを食べ終わると「ごちそうさま」と立ち上がった。
「シマ、いくぞ」
「ピューイ」
シマは少し不満げに鳴いたものの、残っていた菓子くずをちょんちょんとつついてあっという間に食べてしまうと、パタパタッと羽ばたいてゼファス様の肩にとまる。
私とノルディスもつられて立ち上がると、ちょうど夕刻を告げる鐘の音が聞こえた。
「もう終わりの時間ですね。・・・今日はお会いできてうれしかったです、ノルディス様、ゼファス様」
そう言って、深くお辞儀をする。
これは本当の気持ちだ。話すことをあきらめていた友人と話せたし、姿を見れればいいと思っていた憧れの人と話すことも出来た。
「こちらこそ、シャルリア殿」
そう言ってきちんと挨拶を返してくれるノルディス。
また明日会うけどね!そんな思いを込めて笑いかけると、苦笑が返ってきた。
「シャルリア殿、シマのこと感謝する。また学院で会おう」
『またね、シャル』
ゼファス様が言ってくれた。
また学院で会おう。
その言葉がどんなに嬉しいか、きっとわかってもらえないだろうけど。
「はい、ゼファス様!必ずお会いしましょうね。シマも、また遊びに来てね」
「ピュイ!」
私、それを楽しみにして、この1年を過ごすことになりそうです。
侯爵様たちの集団へと戻る2人とそこで別れて、私は父様と母様がいるあたりに戻る。
エスタンス伯爵とパティ様が一緒におられるのもわかり、いそいそと近寄る。
「お疲れさまでした、パティ様!」
「おつ・・・お疲れさまでした?ふふっ、そうですね。疲れましたね」
あれっ、普通に挨拶したつもりなんだけど笑われてしまった。
こういう時って、なんて言うのが普通なんだろう?
「シャル、パトリシア様。疲れたとは言ってはいけませんよ。『本日は楽しかったですね』『よい勉強になりましたね』そういった表現でご挨拶なさいませ」
さっそく母様に怒られた。そうか、お疲れさまでしたはダメか。
日本では社会人の挨拶としてごく普通だった「お疲れさまでした」は、通用しないのね。
一緒になって首をすくめたパティ様と、顔を見合わせて笑いあう。
パティ様、それからデイジー様と巡り会えたのも今日の収穫だ。
気の合いそうな女友達は学院生活に不可欠で、これならマリーアンジュ王女様の取り巻きーずとして過ごさなくても大丈夫そうだ。
いや、もう取り巻きーずには新メンバーがいたから、私が入る隙間なんてなかったみたいだけどね!
・・・でも、カリーナ様のことは少し気を付けた方がいいかもな。
あの位置だとゲーム内でのシャルリアのように、やたら不利益を被る可能性もあるし。
そうなった時は取り巻きーずから引き離すのも考慮しながら、見ていこう。
私が関わることでもないのだけど・・・ゲームだから許される設定であっても、実際に起こると気分がいいものではないから。
「シャル様、領に戻ったらお手紙を書いてもよろしいでしょうか?」
「まあ、パティ様!もちろんです、私も書きますわね!」
学院に入るまでは文通しながら交流するのもいい。明日、時間があれば王都で可愛いレターセットを探せたらいいな。
「シャルリア殿、うちの茶葉も一緒に送らせるよ。ぜひ領邸で楽しんでくれたまえ」
「エスタンス伯爵様!本当ですか?わあ、ありがとうございます!」
「その代わり、君のとこの名産品をぜひ頼むよ」
そう言って片眼をつぶるエスタンス伯爵に、私は思わずくすくすと笑ってしまう。
「ですって、父様」
そう言って父様を見上げると、父様も笑いながら言った。
「では、邸で眠らせているのをいくつかと、今秋のヌーヴォーは必ず送ります」
「おお!それはありがたい」
ホクホク顔のエスタンス伯爵。ワインが好きなのは、うちの領地にとっても嬉しいことだ。
王妃様による園遊会終了の挨拶があり、王妃様とマリーアンジュ王女様が退出された後は高位貴族の方々から三々五々帰っていく。
これから大人の方々は少し休憩した後、芽吹きの宴の夜会へと赴かれるのだ。
ダブルヘッダーになるうちの父様母様は大変だけど、これも貴族の務めだし仕方ないんだろうな。
エスタンス伯爵とパティ様は領地に残しておられる家族がいらっしゃるため、夜会には出ずにこのまま領地へと帰るらしい。
侯爵様の集団にこっそり紛れながら帰っていかれる姿を見送っていると、その集団から今度はデイジー様が早足で近寄ってこられた。
おう、さすがのドレス足さばき。一見優雅で、でもめっちゃ早い。
「シャル、また王都に来ることがあれば必ず声をかけてほしい」
そう意気込んで言ってくださるデイジー様の気持ちが嬉しくて、笑顔になる。
「はい、必ず。来られなくても、お手紙を書きますね」
「手紙・・・」
不意を突かれたように目を見開いたデイジー様は、ちょっと目を泳がせつつ答える。
「ああ、その・・・私も、手紙は努力する」
・・・これは、アンドレアの血筋というか、ラルフィード様に似て脳筋系だな、デイジー様も。
「ふふ、約束ですよ!またお会いしましょうね」
「ああ!またな!」
最後だけ優雅にお辞儀をすると、また颯爽と去っていくデイジー様。
それを立ち止まって待っていたアンドレア侯爵が軽く手を上げてくださったので、私たち家族もこの場で深くお辞儀をして挨拶をした。
「シャルといい、シェアトといい・・・うちの可愛い子たちはどうして偉い人に好かれてしまうんだろうなあ」
父様がしみじみとおっしゃって、母様がうんうんとうなずかれる。
・・・それは私にもわかりません。
こうして、思いもよらないことがいっぱい起こりつつ、園遊会は終了した。
私にとっては実りの多い、素晴らしい園遊会だった。
いつもご愛読いただき、ありがとうございます。
私事で大変恐縮なのですが、明日11日は私が楽しんでおりますオンラインゲームの大型アップデートが行われます。
それに伴い、12日よりお盆休暇ならぬゲーム休暇をしばらくいただきたいと思っています。
11日 16:00予約投稿
12日~16日 お休み
17日より通常投稿
の予定になります。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。




