54.死亡フラグかと思うほどの幸せ
ゼファス様に話しかけられた・・・!
そんな場合じゃないのに、ただただ目の前の姿に目を奪われる。
さっきも遠くから見つめてはいたけど、盗み見状態で。
こんな近くで、しかも目と目を合わせて向かい合う日が来るなんて。
『シャル、ほら、ゼファスが話しかけてるよ』
わかってるよ!わかってるんだけど、声が出ないんだ。
何を言っていいのかもわからないし、何を聞かれたのかもわからない。
何を聞かれたんだっけ・・・この小鳥を知っているのか、だよね。
小鳥ってシマのことだから・・・。
頭の中が完全にパニックになってしまい、その場に固まったまま動けない。
そんな私にゼファス様は少し眉をひそめる。
ああっ、変な女だと思われた?!それは困る!それは困る!!!
私はシマをそっと自分の肩にのせ、気合を奮い立たせてカーテシーをする。
うつむきつつ大きく息を吸って吐き、呼吸を整える。
顔を上げて姿勢を伸ばし、きちんとゼファス様の顔を見つめた。
「シャルリア・フロンターレと申します。・・・はい、この小鳥を知っています」
返事が返ってきたことにほっとしたのか、ゼファス様はひとつうなずくとこちらへ近づいてきた。
「ゼファス・アルトゥースだ」
律儀に挨拶を返してくれる。そういうところも好きだ。
ゼファス様はシマを見つめつつ、続ける。
「その小鳥は、2年ほど前からうちの工房に住み着いていた。俺や皆が餌をやったりしていたのだが、去年の冬月からいなくなっていたので心配していたのだ」
「そうでしたか・・・」
シマめ・・・やっぱり心配されてたんじゃないの!早く帰ればよかったのに!
いや、一緒にいたかったのは私も同じだけど・・・。
「つい先日戻って来たので驚いていたのだが、ひょっとして君のところにいたのだろうか」
「は、はい」
私はうなずいて、説明した。
「冬月に我が領に迷い込んで来て、雪の中にいたのを保護しました。ずいぶん弱っていたのですが、しばらくすると元気になりました」
「それはよかった」
ほっとしたような顔をするゼファス様。くぅ~優しいなあ!
「ひょっとして、数日前にわざわざ王都まで連れてきたのか?」
そう聞かれて少し返事に迷う。シマと話してアルトゥース工房に戻るために連れてきたのだけど、それはさすがに説明のしようがない。
「その・・・私にとっては、数少ない友達なので・・・王都にも一緒に、と」
小鳥が友達なんてぼっちすぎる!
寂しい女だと思われたくないけど、仕方ない!
「そうか。ありがとう」
「いえ!全然!」
あれ。なんか意外に好印象を与えたようで、ゼファス様の瞳が柔らかく細められる。
あああーこれ、嬉しい時の顔だよ~!
そんな顔を私に向けてくれるなんて、もう死んでもいい!いや、死にたくないけど!
感動している私そっちのけでシマは、呑気に肩で『シャル、このお菓子食べていい?』とか言ってるし。なんなんだよ。
でもある意味、こうやってゼファス様と話が出来るのはシマのおかげだ。
ここへ彼を誘導してくれたのも、シマなんだよね。シマ、恐ろしい子・・・!
なので、ご褒美かねてお菓子をあげることにした。マーカス作じゃないけど、これも美味しいからね。
「シマ、食べるならこっちのパイが美味しかったわ。でも、レモンクリームがのっているから外側だけね?」
パイを切り分けて、外側の部分だけ細かくして皿にのせる。
シマは大喜びで肩から飛んで降りると、器用にくちばしでつまんで食べ始めた。
その様子を訝し気に見ていたノルディスが、シマを覗き込むようにして言う。
「・・・鳥がパイを好むのか?」
「嬉しそうですよ。ほら」
シマは『美味しーい!』と歓喜しながらひたすらパイをつついている。
ゼファス様もテーブルの傍までやってきて、シマを見つめる。
そういえば、というように私の方を向いて彼は聞いてきた。
「シマ、というのはこの小鳥の名前なのか?」
あ、やばい。めちゃくちゃ普通にシマって呼んじゃってた。
「あ、はい、そうです。すみません、勝手に名前をつけてしまって」
「いや。うちの工房では誰も名前などつけようとしなかったから構わない」
あの鳥とかそこのチビとか呼ばれてたから、とゼファス様。
魔道具職人って男性ばかりだと聞くし、『循環』の関係でシマが工房に住んでいたのだとしたら、ペットのように名前をつけようなんていう女性は存在しなかったのかも。
「シマ、か。いい名前をもらったな」
「ピュイ」
ゼファス様の言葉に、返事をするように鳴くシマ。
いい名前って言ってくれた・・・!ゼファス様が気に入ったのなら、シマって名づけてよかった!!
もちろん、シマも気に入ってくれてるならいいんだけどね。
そこへ気の利く侍女さんがゼファス様の分の紅茶を運んで来てくださり、なし崩し的にお茶を飲みながら話をすることになった。
ゼファス様がふと気づいたように聞く。
「そういえば、ノルディス殿とシャルリア殿は知り合いなのか?・・・ひょっとして、邪魔だっただろうか?」
シャルリア殿、だって・・・!
推しが自分の名を呼ぶ。これほどまでに素晴らしいことがあるだろうか。
今の部分だけ録音して、何度でも聞きたいぐらいだ!
っていうか、今聞き捨てならない部分があったな。そこは否定しないと。
「・・・シャルリア殿とは遠い親戚にあたるので、挨拶していただけです」
あ、先にノルディスが上手く説明してくれた。
さすが、こういう時は頼りになる。
「だから、その、邪魔なんかじゃないですから!お菓子もどうぞ!」
自分が用意したわけじゃないけど、お菓子もすすめておく。
あ、ゼファス様って甘いものとかあんまり食べないんだった。
えーっとえーっと、何か甘くないもの・・・あ、このレモンパイ。
「こっちのレモンパイは、あまり甘くないのでお好みに合うかもしれません!あ、でもちょっとは甘いのでダメなら食べないでください!」
ああああもう、なんか何言ってるのかわからなくなってきた!
1人であたふたしていると、砂糖も入れずに紅茶を飲んでいたゼファス様がふっと笑った。
笑ったー!!!
いつもは大人びた顔つきなのに笑うと急に年相応の「男の子」の顔になる。
そんなギャップが大好きだった。
「シマが今日、なぜか俺から離れなくて」
パイをつつくシマを見ながら、ゼファス様が言う。
「王城までついてきてしまってどうしようかと思っていたら、着いたとたん木の上へと飛んで行ってしまった」
私がおすすめしたレモンパイを1つ取って、半分に割って外側の部分を少しシマにあげるゼファス様。
「さっきまた戻ってきたら、今度はなんかどこかへ誘導するように周りを飛ぶんだ。なんとなく呼ばれてる気がしてついてきたら、ここへ着いた」
ゼファス様はそう言って、私を見てまた少し笑った。
「シャルリア殿にお礼を言わせたかったんだろう」
なんだろうこれ。
ひょっとして、私また今日死ぬんじゃないだろうか。
だから神様、いや精霊王様が不憫がってこんな幸運を授けてくれたんじゃないだろうか。
胸がいっぱいで返事が出来なくて、黙って首を振るので精一杯だった。
明日は日曜日なので投稿お休みします。
10日は更新しますが、16時ごろの予約投稿になります。
よろしくお願いします。




