52.予想はしていたけれど
なぜって言われましても、知らんがな。
勝手にやってきて勝手にしゃべってたんだけど・・・。
心の中ではそうつぶやいたものの、ここは大人の対応をするしかない。
私は改めてその一団に向かい合うと、深々と臣下の礼を取る。
「申し訳ございません。マリーアンジュ王女殿下のところへいらっしゃるとは思わずに、ついラルフィード様を引き留めてしまいました。お詫び申し上げます」
私の横で、黙って同じように礼をするデイジー様。さすが侯爵家令嬢だ、こういう時の咄嗟の対応には即座に反応してくる。
それに引き換え、ラルフィード様は納得いかないという口調で言う。
「いや、デイジーとシャルは悪くないよ。2人が話しているところに割り込んで、話を始めてしまったのは俺だからさ」
うーん。さすがラルフィード様だ。
真っ直ぐなんだけどなー・・・真っ直ぐですごくいい人なんだけど、ちょっとは空気読めと言いたい。
なぜ私の名前を愛称で呼ぶんだ。そして、むやみに反論するとややこしくなるから「ごめん」って言って済ませてほしい。
「まあ・・・そちらの方々は、ラルフ様とそんなに親しい方々なのでしょうか?」
ほぅら、ツッコまれた!
横のデイジー様もやれやれという感じで、ため息をついたのがわかる。
うつむいたまま、この姿勢をとり続ける私たちの身にもなって欲しい。早く体を起こしたい。
「親しいって・・・俺の妹と、その友達だから。当たり前だろ?」
キョトンとした声色でラルフィード様が答えると、相手が「妹・・・」とたじろいだのがわかる。
そうそう、妹とその友達なんだよ!だから気にしないで!と強く願う。
その時、天使の声がした。
「ねえイザベラ、もういいじゃない。あなたたちも顔を上げて?」
さすがマリーアンジュ王女!この世界に降りた天使!
ぷるぷるしている足をそろっと引いて、まっすぐに立つ。
マリーアンジュ王女様は、美しい微笑をたたえてラルフィード様に言う。
「心配したのよ、ラルフ。スタンがもう交代の時間だって言うのに、なかなか来ないんだもの」
「そっか、それは悪かったね。ごめんね、マリー王女」
ラルフィード様もさすがにマリーアンジュ王女に言われては敵わないのか、素直にうなずいて謝る。
この2人ともう1人、水の攻略対象のクリシュナ様は確か幼馴染の間柄だ。
お互い話す口調から、この時点でもかなり親しいのがうかがえる。
「スタンもありがとう!ここからは俺がちゃんと王女を守るよ」
ラルフィード様にそう言われて、後ろに控えていた男性の中で年若い少年の方の1人が、軽くうなずくと王女に礼を取って行ってしまった。
もう1人は騎士団の制服を着ているから、多分本職の騎士団の人なのだろう。
ラルフィード様とも知り合いなのか、目だけで挨拶した感じだ。
はあ、やれやれ。これでようやく王女集団も行ってくれるだろう。
そう思ったのもつかの間、今度はマリーアンジュ王女は私たちの方へと向き直った。
「ラルフの妹とその友達なの?2人とも、来年学院へ入学するのよね?」
さすがにこれは、無視するわけにもいかない。
そう思ったのはデイジー様も一緒のようで、彼女が先に一歩前へ進み出た。
「デイジー・アンドレアです。マリーアンジュ王女殿下にお会いできて、光栄です」
素晴らしい挨拶。マリーアンジュ王女は満足げにうなずくと、私を見る。
私もデイジー様に並ぶように一歩前へ出て、カーテシーをする。
「シャルリア・フロンターレと申します。よろしくお見知りおきくださいませ」
「ええ、こちらこそよろしく」
王女様は鷹揚にうなずくと、自分以外の3人の少女を順に紹介してくれた。
先ほどの悪役令嬢もどきな取り巻きその1は、イザベラ・バートン侯爵令嬢。
同じようにちょっと気が強そうな取り巻きその2は、アンジェリカ・コックス侯爵令嬢。
最後に、おどおどした雰囲気の取り巻きその3は、カリーナ・ロング伯爵令嬢。
イザベラ様とアンジェリカ様は記憶にあるな。その2人とシャルリアが、マリーアンジュ王女の主な取り巻きだったはずだ。
ゲームの中の知識を総動員してみたが、カリーナ様には会った記憶がない。
ってことは、カリーナ様がシャルリアの代わりに取り巻きになった、といったところか?
どのあたりまでゲーム通りでどこから違うのかはわからないけど、差し当たってこの辺りは私がエレメンタルプリンセスを目指す分には関係ないだろう。
取り巻き仲間じゃないなら嫌味も激しいかもしれないが、それはそれでまあいいか。
「ラルフ様の妹様でしたのね!よろしくお願いいたしますわ」
「こんな綺麗な妹さんがいらっしゃったなんて、知りませんでしたわ!」
「ぜ、ぜひお友達になりましょう・・・」
さっそくデイジー様にまとわりつく取り巻きーず。
彼女がラルフィード様の妹とわかってからの身の翻し方は、なかなか貴族令嬢らしくて逆に感心する。私には目もくれないのはありがたいけど。
とはいえ、デイジー様が困ったようにこちらを見るので、助け舟を出そうかと思ったその時。
「では、あなたたちも一緒に行きましょう。私、まだご挨拶してない方もいるの」
「・・・はい?」
いきなりのマリーアンジュ王女様の宣言に、キョトンとした周囲。
行くって、どこへ?
聞き返したいのは山々だったけど、マリーアンジュ王女は優雅な歩き方ですいすいと歩いていく。
護衛の2人と取り巻きーずもそそくさとついていくので、私とデイジー様は顔を見合わせる。
「どうします?」
「行くべき・・・だろうね」
「ですよねー・・・」
なんでこんなことになったんだろう?と思いながら、移動する団体について歩くことにした。
マリーアンジュ王女様が目指しているのは、どうやら先ほどの侯爵家などの上位貴族が集まっている場所らしかった。
一番手前で今度はまた違う方とお話しされていた父様と母様が、こっちに気づいてぎょっとしている。
そりゃ、席を外した娘が王女様の行列の後ろについて歩いてたらびっくりするよね。
後で説明するから!と目だけで訴えてそこを通り過ぎると、何人かの子供と親がいる一角があった。
ハーディエンス侯爵夫妻とノルディス、アンドレア侯爵様の姿も見える。
そして。
ゼファス様が。
さっきまでいなかったゼファス様が、そこにいた。
少し小柄だけどガタイのいい、まさに親方!と言わんばかりの風体の方が横にいるので、それが多分ゼファス様のお父様だろう。
その横に立っておられる背の高い女性が多分お母様か。背の高さはお母様ゆずりなのかも。
ゼファス様のご両親が一歩前へ進み出て、マリーアンジュ王女へと深々と臣下の礼を取った。
「遅れまして申し訳ございません」
「いいのよ、アルトゥース候。顔を上げなさい。あなたが忙しいのは、みんな知っているわ」
「お優しきお言葉に感謝します」
顔を上げて、ほっとしたように微笑むアルトゥース侯爵。
そして、そのまま振り返ってゼファス様を呼ぶ。
「倅でございます。・・・こら、挨拶せんか」
父親に言われてはっとしたように姿勢を正したゼファス様は、
「・・・ゼファス・アルトゥースです」
そう言って片膝を地面につける最上級の礼をマリーアンジュ王女にとった。
・・・・・・。
わかってたんだけど。
わかってたんだけど、このシーンはちょっと胸が痛い。
マリーアンジュルートの初対面イベントだ。
ゼファス様は間近で見た美しき王女に、ほとんど一目ぼれ状態になる。
その美しさに似合うものを作りたい・・・!と彼の中の創造力や技術が、ますます風のエレメンタルの加護を受けて強くなった瞬間だ。
よく見れば、ゼファス様の身体を碧のオーラが取り巻いているのがわかる。
ああ、やっぱりそうなんだ。
ノルディスがスチルゲットできなかったから、ひょっとしたらゼファス様も一目ぼれするイベントは起きないのかもって少し期待していた。
やっぱりダメか・・・一目ぼれなんて、止められないよね。
「かっこよすぎる!」と前世のスチルで見てときめいた、ゼファス様の臣下の礼。
それが実際に見ると、こんなに切ないものだとは思わなかったな。




