51.2人目の女友達
ラルフィード・アンドレア。
この国の騎士団団長であるタングステン・アンドレア侯爵の長男。
騎士団はさすがに世襲制ではないが、現在ハーディエンス学院の2年生にしてすでに学院内では敵なしと言われるほどの剣の使い手。
火のエレメンタルの強い加護を受けており、剣術だけでなく攻撃魔法も得意。
いつも明るく前向きな熱血漢で、誰とでもすぐ友達になる学院の人気者。
そんなゲームの設定そのものの、明るい初対面イベント。
でも学院内ならともかく、こんな場所でそれはなかなかすごいなとちょっと思う。
お茶会で初対面の女の子の手を取るなんて、普通あんまり出来ないよ。どんな噂が立つか、わかったもんじゃないからね。
今はあまり注目してる人もいなさそうだし、両親たちも近くにいないから構わないんだけど。
私はさりげなくラルフィード様の手から自分の手を抜き取り、ドレスの裾をつまんでお辞儀する。
「シャルリア・フロンターレと申します。よろしくお見知りおきください」
「兄上、シャルリア殿は可愛らしくていい子なんだ!友達になってもらえたらと思ってるんだよ」
「フロンターレ?ひょっとして、シェアトの妹?へえ、こんな可愛い子が妹にいたとは!」
・・・同時に発言する兄妹に、どっちから処理するか迷う。
迷ったけど、とりあえずまずは嬉しかった方からか。
「デイジー様、嬉しいです!私もぜひデイジー様とお友達になりたいと思いましたの」
「本当かい?よかった、シャルリア殿のような可愛らしい方は、一緒にいるだけで私もなんだか可愛くなれた気がす・・・」
そこまで言って、デイジー様はあっと口ごもってみるみるうちに赤くなる。
・・・そうか、可愛くなりたいのか。
デイジー様はイケメンだけど、女の子だものね。そりゃ、可愛くなりたいよ。
もじもじしちゃってる姿は今でも十分可愛らしいけど、これ以上に可愛くなる要素はいっぱいあると思うから、お手伝いできたらいいなあ。
お化粧やファッションセンス皆無だった前世喪女なので、さすがに前世知識チートは無理だけど。
「はい、一緒にもっと可愛くなりましょうね!」
「い、一緒に?そうだね、そうしよう」
嬉しそうに笑うデイジー様にこちらも微笑んでうなずくと、今度はラルフィード様に向き直る。
「確かに、シェアト・フロンターレなら我が兄です。兄がいつもお世話になっております」
「いやいやいや、お世話なんてしてないよ?!」
私の言葉に、ラルフィード様が慌てて顔の前で両手を振る。
「シェアトはよく剣術模擬戦とかで戦うんだけど、俺が思ってもみないような攻撃をしてきたりするんだよね。終わってから、あんなのどうやって思いついたのって聞いても笑ってごまかされるし」
・・・おぅ。兄様らしい話だなあ。
「俺、もっとシェアトと話したり仲良くなりたいんだけど、いっつも気づいたら居ないんだよ・・・どこに行ってるのか聞いてない?」
「学院内の話はさすがに・・・」
そういえば兄様は姿をくらますのが得意だ。
幼い頃は、かくれんぼで兄様を発見できたことがなかった。
大きくなってからも、いたずらがサマンサに見つかった時などはいつの間にかいなくなっていて、私だけが怒られたりなんてこともあった。
「そっかあ。シェアトに言っておいて?俺もシェアトと仲良くなりたいって」
「・・・そうですね、伝えておきます」
あーこれはいい傾向かも?
友達の妹ってのは、親密度を上げるのにちょうどいい立ち位置よね。
エレメンタルプリンセスになるためには、攻略対象との親密度も相当重要だからなあ。
比率的にはパラメーターと半々ぐらいで重要視されるっぽいからな。
でも、兄様が嫌がるようなことはしたくないので、無理やり仲良くなってもらうつもりはないけど。仲良くなってくれたらいいなあ、ぐらいで。
「シャルリア殿にも兄上がいたのか。私と一緒なのだな」
そう言って、嬉しそうに笑うデイジー様。
私の2人目の女友達は、イケメンな上に可愛らしくてこっちも笑顔になる。
「はい、いつかご紹介しますね。あと、デイジー様、私のことはシャルとお呼びくださいな」
「シャル、か」
デイジー様は口の中で何回か私の名を繰り返すと、照れたように微笑む。
「兄上がよくやっているように、友達を愛称で呼ぶのも夢だったんだ」
「そうなのですか?ならよかったです」
「ああ。これからもよろしく、シャル」
「はい、こちらこそ」
私とデイジー様が改めてにっこり笑いあうと、横からラルフィード様が口を出してくる。
「俺もラルフでいいよ、シャル!」
・・・ラルフィード様には全然許可出してないんだけどな・・・。
ゲームでも思ったけど、ほんとこの人自由人だな。
メインヒロインルートはもちろんだけど、シャルリアでも簡単に知り合えて仲良くはなれるんだよね。
だけど友達状態が長く続いて、恋愛状態までもっていけなかった。
そういう意味ではゼファス様とはまた違うベクトルの、攻略が難しいキャラだった。
『大変だからこそ意地でも落とそうと思うし、落とした時の快感がたまらん』って有希が力説していたのを思い出す。
有希、現実のラルフ様もゲーム内と一緒だったよ。
あなたならどうした?「ラルフ様―!」って飛びついたかな?
いやいや、策士な有希のことだもの、きっと計画練って自分に振り向かせるようにしたよね。
この世界はとても楽しいけど、あなたがいたならもっと楽しかったのにな・・・。
そうやって前世を思って、少しぼうっとしていたからか。
近づいてきていた一団に、ちっとも気が付かなかったのは。
「ラルフ様、遅いですわ!」
不意にかけられた声に、意識が戻る。
声の方を見ると・・・わっ、マリーアンジュ王女!
王女を筆頭に、3人の少女とその後ろに控える男性が2人。
3人の中の少女が1人、進み出てくる。どうやらこの子が声の主らしい。
っていうかこの子知ってる!マリーアンジュ王女の取り巻きその1だ!
金髪の派手な縦ロールの髪型、美人だけど少し吊り上がった目つき、ゴージャスなドレス。
見るからに悪役令嬢!
・・・なんだけど、別に悪役でもなんでもなくってただの取り巻きその1。
当たり前だ、庶民の主人公をいじめる役ってのならともかく、王女様いじめるとかやらかしたら自分の命どころか一族郎党処刑だよ。
ただ、シャルリアルートだとちょいちょい嫌味は言われるんだよね。
『あなたのような田舎者はエレメンタルプリンセスにはふさわしくありませんわ』とか。
『あなたのような方が、マリー王女様に敵うと本気で思われているのですか』とか。
「あなたのような方がなぜ、ラルフ様とご一緒に?」
とか。
・・・あれ。今、本当に言われた?




