49.妹がいたとは知らなかった
投稿、遅くなりました。
お偉いさん方が集まる一角は、すでに挨拶に来ていた下位貴族も入り混じり、賑やかなざわめきが聞こえる。
父様と母様は人とテーブルの中をすいすい泳ぐようにして進むけど、なかなか難しい。
前世では通勤ラッシュを泳ぎ切るのもお手の物だったけど、今はそもそも人ごみ自体があまり経験ないし、長いドレスの裾をつまんで足で捌きながら歩くのも大変だ。
母様が少し止まって待ってくれているが、その目は「ドレスでの歩き方は要特訓」とか思ってるんだろうなあ。
今日の私は、春っぽい若草色のドレスを着ている。
夜会ではなく昼なので、髪もすべて上げてしまわずにハーフアップぐらいにしておくのがマナーだ。
その少しつまんでまとめた部分に、白いレースのリボンと昨日シェーラに頼んでいただいた小さなハーブの花々を飾っている。
我ながらなかなか清楚なお嬢様ぶりで、イケてるんじゃないかと思っている。
それにふさわしい気品や礼儀が身についているかと言われたら、ごめんなさいって感じだけど。
それはともかく、集団前で足を止めている父様に追いつく。
夜会のような正式な社交場では上位貴族から下位貴族へと言葉をかけて会話が始まるのが常識であり、重要なマナーだ。
そうでないと、上位貴族は次から次へとやって来る人に挨拶するだけで社交が終わってしまうので、理にかなっていると思う。
こういった昼の茶会の場合はそこまで厳しいわけではないが、もし上位貴族に声をかけるのであれば、あくまでも空気を読んでスマートに行う必要がある。
見ると、運のいいことにハーディエンス侯爵様とアンドレア侯爵様は何か2人で話をされているようで、周囲にはあまり人がいなかった。
これならば父様もタイミングを計って、お声をかけやすいだろう。
と、思っていたらその前に私たちが来たことに気づいたらしいノルディスが動いた。
ハーディエンス侯爵様の後ろに控えてた彼は、すっと宰相の右側に立つと目線でこちらを示す。
その目線を追うようにして私たちに気づいたハーディエンス侯爵様が、アンドレア侯爵を伴ってこちらへと近づいて来られた。
・・・ノルディス、マジ優秀。
次期宰相と名高いのも無理ないね、ほんとに。
父様とハーディエンス侯爵様が挨拶を交わすのを見つつ、私はその後ろの女性に注目する。
おそらくノルディスのお母様だ。高位貴族でありながらシンプルで控えめなドレスを着ておられるが、上等なものだろうと一目でわかる生地の艶めき。
姿勢を伸ばして微笑んで立っておられるその姿の高貴なこと!これぞまさしく貴婦人の中の貴婦人といってもいいだろう。
・・・そりゃ、こんな方を日々見慣れていたら私にお説教したくなるのも無理ないわ。
ちらっとノルディスに目をやるが、すました顔で立っている。
久しぶりに会えたので色々話をしたいのは山々だけど、さすがにここは私も同じように素知らぬ顔をしておいた。
父様はハーディエンス侯爵様にアンドレア侯爵様を紹介していただいたようで、挨拶をしていた。アンドレア侯爵様は、顔は厳ついものの陽気で豪胆な方らしく、気さくに父様と会話を続けられている。
どうやらシェアト兄様のことを絶賛しておられるようで、父様がしきりに恐縮している。
アンドレア侯爵様の息子であるラルフィード様も、嘘が嫌いで真っ直ぐなキャラだった。
きっとその誉め言葉は本心だろうから、ありがたく受け取っておこうよ、父様!
「シャルリア」
父様に声をかけられて、「はい」と進み出る。
「君がシャルリア嬢か」
「おお、シェアトにこんな可愛らしい妹御がいたとはな」
おぅ、ハーディエンス侯爵様はその顔にたがわず渋くて厳しそうな声の持ち主だ。
そしてアンドレア侯爵様は、笑うと厳つい顔が随分柔らかくなる。
そんな感想もそこそこに、私は今日一番と言っていいほど気合を入れてカーテシーをする。
「シャルリア・フロンターレと申します。以後お見知りおきください」
疲れてはいたけど、それなりにきちんと出来たはず。
目の端にノルディスがそっと息をつくのが見えたけど、ひょっとして私が礼儀正しくできるのか冷や冷やしてたんだろうか?信用無いなあ。
ハーディエンス侯爵様はノルディスに挨拶を促して、互いに挨拶を交わす。
もちろん味もそっけもない名乗るだけの挨拶だけど、今はそれで十分だ。
その後、ハーディエンス侯爵様には「学院でもよろしく頼む」とだけ言われた。
うん、そうだよね。前世では「いつもうちの子と仲良くしていただいて~」なんてのがよくある友達の親同士の挨拶だったけど、さすがにそれはねえ。
「仲良く=婚約者候補?」とか成りかねない世界だもの。
ここは「はい」とこちらもうなずいて微笑むだけでいいだろう。
その対応で正解だったらしく、うむと満足そうにうなずいたハーディエンス侯爵様はアンドレア侯爵様の方を向かれた。
アンドレア侯爵様は心得たとばかりに振り返り、少し離れたところに1人佇んでいた女の子に手招きされた。
そういえばアンドレア侯爵様の娘さん、ってさっき父様が言っておられたような。
ってことは、ラルフィード様の妹よね?そんな子、ゲームに出てきてたっけ?
近寄ってきた女の子を失礼でない程度に見る。
背が高いな、が第一印象。すっと伸びた姿勢がきれいで、歩いてくる動作も機敏だ。
とても綺麗な青紫の髪は特に結われたりせず、そのまま右肩に流されている。
身を包んでいるのはピンクのドレス。私も着ている、オーソドックスなプリンセスライン。
・・・うーん、ドレスはちょっと似合ってないかな。
可愛らしいタイプじゃなくて、どちらかといえば大人っぽくてクールな美女なので、赤とか濃い紫とかのはっきりした色のマーメイドラインのドレスならめちゃくちゃ似合いそうなのに!
てか、やっぱり見覚えがない。ラルフィード様の妹なら、シャルリアと同じくマリーアンジュ王女の取り巻きにいても不思議じゃないのに・・・記憶にないなあ。
「デイジー・アンドレアです」
そう言ってカーテシーをする彼女は、私みたいに足がプルプルしそうな様子も見せず、すっと腰を落とす。
体幹がすごい・・・多分騎士団の家系だから、鍛えてるんだろうなあ。
感心しつつ、私も挨拶を返して初対面の儀式は終わる。
「デイジー、慣れない場所で疲れただろう。少しシャルリア嬢と話をしておいで」
アンドレア様にそう促されると、デイジー様は「はい」と短く答える。
それがまるで上司と部下のようでちょっと笑いそうになったけど、デイジー様はものすごく真面目な顔で「あちらへ」とエスコートするように椅子のある方へ手を向ける。
「あ、はい」
思わず圧倒されつつ、前を歩いてくれるデイジー様についていくことにした。
これは・・・お友達ゲットのチャンス、かな?




