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48.スチルゲットならず

どれだけ楽しくても、さすがにこのままパティ様とばかり話しているわけにはいかない。

何のためにわざわざこの園遊会に顔を出したのだ、ということになる。

私たちはそれぞれお父様方に促され、親交がある方々への挨拶回りの旅へと出発した。


フロンターレ領と同じく王都の南側に位置するいくつかの子爵家、男爵家。

それから少し離れた領地を治めていたり、王都で内務勤めをしている伯爵家。

園遊会前に兄様から特訓を受けていたおかげで、この方の領地は確かうちの東側だな、とか海の傍だな、とか思い出すことが出来ている。兄様には感謝しかない。

父様に連れられて挨拶をして、無難な会話を交わし、また学院で会いましょうと言い残して失礼する。

さっきからひたすらそれの繰り返しで、さすがにちょっと疲れてきた。

「ちょっと休憩しようか」

父様の言葉に、やれやれと息をつくと、すかさず母様から「姿勢」と囁かれる。

はっと姿勢を伸ばし、周りの視線がないことを確認してから少し肩から力を抜く。

私たちが立ち止まったのを目ざとく見つけた侍女さんたちが、紅茶ではなく冷たい果実水をグラスに入れて渡してくれた。さすが王城務め、めちゃくちゃ気が利く人たちだ。

さっきからずっと話をしていたので、喉がカラカラだ。

一気に飲み干して、ぷはー!っとやりたいところだけど、上品に上品に・・・と堪えながら少しずつ飲む。

「うう・・・父様も母様も、体力ありますね」

「そうかい?」

涼しい顔で隣に佇んでいる両親を、心底尊敬する。

まだ春の陽気とも言うべきうららかな日でよかった。

これが暑かったり寒かったりしたら、とっくの昔に音を上げていただろう。


さて、と父様がつぶやく。

「あとはアンドレア侯爵様にはご挨拶しておきたいのだが・・・」

アンドレア侯爵?!

ラルフィード様のお父様で、伝説のシンデレラストーリーの主役の1人だ。

「え、父様はアンドレア侯爵様とお知り合いなんですか?」

「いや、あまり言葉を交わしたことはないんだけれどね。どうやらシェアトがお世話になっているらしくて。御礼を一度申し上げるべきかと思っているんだ」

「兄様が?!」

驚いて聞いてみると、どうやらハーディエンス学院ではその卒業生でもある王都住まいの貴族たちが、入れ替わり立ち代わり色々な面で指導に来てくれることがあるらしい。

後輩たちの面倒を見るためと言えば聞こえがいいのだが、実際は優秀な生徒を早々に見出して、自分の部下等にスカウトしたいという意味合いが強いのだとか。

それは生徒側からしても領地持ちの後継者として決まっているものはともかく、次男や三男としてはむしろウエルカム状態なので当然のように受け入れられている。

アンドレア侯爵様もご多分に漏れず、優秀な人材をぜひ騎士団に、という意気込みを持ってたびたび学院を訪れて剣の指導等を行っているのだとか。

そこで、たまたま目をつけられたのがアームズ様とシェアト兄様。

アームズ様はもちろん幼い頃からそこそこ剣の練習もしていたらしいので言うまでもないが、なにせ宰相様の長男。さすがにそれ侯爵様も理解していたようで。

それに対して兄様のことは侯爵様も全然知らない存在だったようだ。

しかしながら拙いところはまだまだあるものの、学院に入学するまではほとんど剣も握ったことがなかったという兄様の努力と伸びの良さが琴線に触れたのか、すっかり気に入られてしまったのだとか。

フロンターレ領の後継者なのは仕方ないが、ぜひ騎士団に欲しかったと嘆かれたらしい。


「まあ・・・兄様はさすがですわね!」

私が嬉しくなって小さく拍手をしながらそう言うと、父様は誇らしげにうなずきつつも「本人は複雑みたいだけどね」と苦笑した。

なんで複雑なんだろうと思ったけれど、兄様はあまり表立って目立つことを良しとしない人だ。

アンドレア侯爵のような有名人に声をかけられて、目立つなというのが無理な話。

余計なやっかみを受けたり、おこぼれにあずかろうとするのが寄って来たり、そういうのって面倒くさいよねとちょっと察しておく。


「来年入学される娘さんがいるらしいから、今日も来ておられる。向こうにいらっしゃるみたいなんだけどね」

父様の言葉にその視線の先をたどると、1つの集団。宰相様がいらっしゃるので、おそらく王都の中心人物たちが寄り集まっているのだろう。

あ、ほんとだ。ガタイのいい渋いおじさまがいる。あれが多分、アンドレア侯爵様だ。

「あちらにお邪魔するのはさすがに気が引けるね」

・・・確かに、よく見たらマリーアンジュ王女までいるよ。

お付きの侍女や護衛が周りを固めているので、目立つ目立つ。

皆、恐れ多いのか最初は何となく遠巻きにしていたようだけど、今は少しずつ人が集まってきているようだ。

とはいえ、さすがにこちらから声をかけるわけにはいかなくて、お声がかかるのを傍で待っているような状態か。


あ、ノルディスが何か話しかけられてる!

これはゲームで見れた、デレ状態の彼を見れるチャンスか?!


ゲームでの初対面時、マリーアンジュとは知らずお説教をしかけたノルディスは、その姿に気づいて慌てて臣下の礼を取る。

それに対し、彼女は顔を上げるように言い、ノルディスは真正面から見る王女の美しさに陶然とした面持ちになるんだよね。

その時のスチルが、貴重なノルディスのデレスチルとして有名だったんだけど。

とはいえ、王女相手には結構ずっとデレてたから貴重だったのかは疑問なんだよねえ。

シャルリア相手にだったらまだわかるんだけど。あっちはむしろツンしかなかったから。


それはともかく。

今、現実でそのシーンが繰り広げられていることに正直感動している。

ワクワクしながら見ていると、礼を取っていたノルディスが顔を上げ、マリーアンジュ王女と顔を合わせる。

その美しさに惚けるスチル、ゲットだぜ!・・・って、あれ?

ノルディスは正面からマリーアンジュ王女を見つめつつも、さほど表情を崩していない。

さすがに眉をしかめたりはしていないものの、いたって冷静な態度をとっている。

あれは・・・なんだろう。緊張して、逆に無表情なんだろうか?

いやでも、無表情というよりは社交辞令の笑顔というかなんというか。

わかんないなあ。せっかくスチルゲットできると思ったのにな。


ノルディス本人にばれたら怒られそうなことを考えつつ見ていると、侯爵様集団が少しばらけ始めた。

各々それを待ち構えていたらしき人たちが、話しかけているのが見える。

「じゃあ我々も行こうか・・・宰相様にも一応ご挨拶はしておくべきだろうからね」

あ、確かにそうか。明日招待受けてるけど、今日は知らんぷりってわけにもいかないか。


ついに、この時がやって来た。


私も気合を入れて、大きく息をつく。

マリーアンジュ王女。

ノルディス。

そして・・・ゼファス様。

メインキャラが3人もいる場所へと、いよいよ足を踏み入れるのだ。

明日は日曜日なので投稿お休みします。

また月曜日から再開しますので、よろしくお願いいたします。

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