47.メインヒロインの登場
ブックマークと評価が少しずつ増えており、本当にうれしく思っております。
皆さま、読んでくださってありがとうございます。
ほぅ・・・と感嘆のため息をもらしたのは誰だったか。
ごくり、と喉を鳴らしたのは誰だったか。
少なくとも、その少女が場の雰囲気を一気に支配してしまったのは間違いない。
女神の化身、地上に降りた天使と名高いその姿は、一目見ただけで誰しも虜にしてしまうだけの強烈な魅力を持ってそこに佇んでいた。
マリーアンジュ・ディア・フランズベルト。
メインヒロインの名にふさわしい存在感。
まず大人たちが王妃様と王女様に対し最敬礼の姿勢を取り、続いて惚けている子供たちも慌ててぎこちなく最敬礼の姿勢をとる。
「よい。楽になさい」
短い言葉で皆の頭を上げさせた王妃様は、にこやかに微笑んで開式の言葉を述べた。
「春の芽吹きの訪れと、今日の園遊会の開催を、心より精霊王に感謝いたします」
臣下1人1人と視線を合わせるように、ゆっくりと会場を見回す王妃様。
「あなた方とその子女たち、未来のフランズベルト王国を担っていく者たちに、よき精霊のご加護がありますように」
王妃様は両手を一度空に向かって大きく広げ、胸の前で交差する。
精霊に対する感謝の念を表すしぐさであり、それに倣って居並ぶ人々も同じしぐさをしてみせる。
「マリーアンジュ」
王妃様の呼びかけに、マリーアンジュ王女様が一歩前に進み出る。
横に立っている王妃様と目を合わせ、美しく微笑む。
その後、ゆっくりと会場を見回しながら鈴の転がるような可愛らしい声で言う。
「マリーアンジュ・ディア・フランズベルトです。どうぞ皆さま、よろしくお見知りおきくださいな」
歓喜と驚きと陶酔と色んなものが入り混じったざわめきの中、再び臣下の礼をとる周囲に合わせてカーテシーをしていると、称賛の声が飛び交う。
「あれがマリーアンジュ王女様・・・噂とたがわず、なんてお美しい」
「まさにこの世に降り立った麗しき天使」
「王女様が学院でエレメンタルプリンセスになられる日が待ち遠しい」
うわー・・・さすがメインヒロイン。皆の心をわし掴みだわ。
指先までたおやかで、しぐさ一つにも品があるというかなんというか。
この世界に来て初めてマリーアンジュを見たけど、これはもうチートどころの騒ぎじゃないな。
これに勝とうなんて、お前は頭おかしいんじゃないかって言われそうだわ。
もし私がエレメンタルプリンセスになったら、暴動が起きる勢いね、これ。
ほんとにこの王女様に勝ってエレメンタルプリンセスになるルートって存在したの?
有希がどうクリアしたのか、聞けばよかったな・・・っていうか、どうせなら攻略法調べてから死ねばよかった!
身も蓋もないことを考えている私の横で、頬に手を当ててほぅ、とため息をもらすパティ様。
「噂に違わず、本当にお美しい方ですわね・・・」
「ああ。マリーアンジュ王女殿下は、我が国の至宝だな」
その言葉に、エスタンス伯爵様が深くうなずきながら賛同する。
本当に老若男女問わず魅了するんだなあ。恐ろしきメインヒロインパワー。
感心していると、私の頭にポンと軽く手が置かれる。
振り向くと、ニコニコ笑顔の父様。
「大丈夫だよ、シャル。シャルもマリーアンジュ王女殿下に負けないぐらい可愛いよ」
ええー・・・。
「父様、それは親バカ通り越して、ちょっと不敬じゃないですか?」
思わず突っ込んだけど、「そうかい?」なんて言いながら笑っている父様には敵わない。
最初ぽかんとしていたエスタンス伯爵様とパティ様も、父様の溺愛ぶりに笑っている。
・・・メインヒロインに転生しなかったのは残念だけど、こういう人たちに囲まれた人生なのだから悪くないよ、うん。
王妃様の言葉により園遊会が開始され、皆が少しずつ移動を始めた。
私たちもとりあえずは傍のテーブルへ近づき、侍女さんたちが紅茶を入れてくれるのを待って、そのカップとソーサーを手に取る。
前世では立食パーティと言えば飲み会だったので、紅茶を立って飲むのって微妙に難しい。
母様が美しく姿勢を伸ばし、ソーサーを左手にカップを右手にそっと持って飲まれているのを横目で見つつ、同じようにまねをする。
うわ、美味しい。
一口飲んで驚いた。
前世でもコーヒーが苦手だったので紅茶ばっかり飲んでいたけど、当然ティーパックやらペットボトルやらの安い奴だ。
この世界で初めて茶葉から丁寧に入れた紅茶を飲んでその美味しさに感動したけれど、そんな中でも今飲んだこの紅茶が断トツで美味しい。
「やっぱり王城の紅茶って美味しいんですね・・・」
言いながらまじまじと手元のカップを見つめる。
最初、緑茶かな?と一瞬思ったほど色が薄い。味もあっさりしている。
そういえば、春摘みの紅茶はタンニンが少ないから、緑茶に似た色になるとマンガで読んだ記憶がある。
「それは嬉しいね」と、エスタンス伯爵様。
「今年の園遊会の茶葉は、我が領地産のものでね。とびきりいい出来なのをお持ちした甲斐があったよ」
「まあ、そうなんですか?!とても美味しいです!私大好きです、この紅茶!」
思わずそう強く言うと、一瞬ひるんだように見えたエスタンス伯爵様は、ハッハッハと大声で笑った。
期せずとも周りの注目を集めてしまい、パティ様が慌てて「お父様」と伯爵様の袖を引く。
「いや、失礼」
エスタンス伯爵様は周りに軽く頭を下げると、きょとんとしていた私の肩を軽くたたく。
「こんなに真っ直ぐな賞賛を受けたのは初めてだ。いや、本当にありがとう」
あー・・・お貴族様だから、ちょっと湾曲な表現でしか褒めないってことかな?
こういう場ではどうしたら良かったのでしょう母様・・・と振り返ると、母様は仕方ない子ねとばかりに苦笑している。
逆に父様はうんうんと大きくうなずくと、「シャルは本当にいい子なんですよ」と謎のアピール。
「いやいやうちのパティも・・・」
と親バカ2人の自慢合戦が始まってしまったので、もう無視してお菓子に手を伸ばすことにした。
「パティ様、見てください!この焼き菓子も美味しそうですよ?」
タルトレットのような小ぶりのケーキ?を指して言うと、父様方をオロオロとしながら見ていたパティ様がこちらを向く。
「まあ、可愛らしいですわね。・・・あの、シャル様・・・お父様たち・・・」
「もう放っときましょう」
私の代わりに母様が答えてくれると、私とパティ様の分もそれぞれの皿に少しずつお菓子を取ってくれた。
「ありがとうございます、母様」
「あ、ありがとうございます・・・」
母様はニコリと微笑むと、こういった場でのお菓子の取り方を教えてくれる。
他の人が不快に思わないように取った後も美しく、もちろん食べきれる量だけ少しずつ。
いやいや、私を軽く睨みながら言うのはやめてください母様・・・家以外では大盛にしたりなどしませんってば・・・。




