44.ミモザの木の陰から現れた少女
更新遅くなりました。お待たせいたしました!
またよろしく、って言ったって。
シマを手の甲にのせたまま、どういう反応をしていいのかわからなくて固まる。
嬉しいけど、びっくりで。そしてゼファス様は?『循環』は?
聞きたいことはいっぱいあるけれど、これ以上ここでシマと話をするわけにもいかない。
そんな私の耳に、可愛らしい声が飛び込んできた。
「この辺?この辺かしら・・・ね、ここを曲がったら」
そう言いながらすぐそばのミモザの木の陰から現れたのは、2人の少女だった。
1人は私より背が低く、茶色の瞳とくるくるとした薄い紫色の髪。少したれ目の優しくて大人しそうな印象。いかにも典型的なお嬢様!って感じの可愛らしい容姿。
もう1人はその子のお付きらしいメイド服。
私同様その子たちもびっくりしたようで、姿を見せると同時にびっくりしたように立ち止まった。
一瞬の沈黙の後、そのお嬢様が泣きそうな顔になったので、慌てて私はドレスの端をつまみ、足を引いて礼をする。
その拍子にシマが私の肩へと移動してくる。
「驚かせてしまいましたね。申し訳ありません」
「あっ、いいえ、その・・・」
お嬢様は困ったように視線をきょろきょろと動かす。
・・・あ、この子もきっと明日の園遊会の出席者だな。
その社交慣れしていない感じにピンとくる。おそらく、どこか王都ではない領地の娘だろう。
ということは、多分私より身分が高いわけではないよね?
領地を預かっている貴族は伯爵以下、子爵家と男爵家のはずだし。
じゃあ、多少話しかけても大丈夫かな。
「私はシャルリア・フロンターレと申します」
なるべくお淑やかに微笑んで見せると、その子は少しハッとしたように私の顔を見た後、おそるおそるといった感じで礼をした。慣れてなさそうだけど、とても綺麗な姿勢だ。
「わ、私はパトリシア・エステンスと申します・・・」
もごもごと語尾が消えていくその様子を、彼女の少し後ろからお付きの少女がはらはらしながら見守っている。
その間に私も頭をフル回転させながら考える。
エステンス・・・エステンス伯爵家、だったっけ。
それから・・・えーっと、確かうちが王都の南側にあって、エステンス伯爵家は王都の北東側の1つが領地だったような。
よし、同じ領地持ちの伯爵家だ!ということは、ほとんど身分差はないから対等にお付き合いして大丈夫なはず!
ここしばらくは父様の執務室で、シェアト兄様から最低この辺りは園遊会前に覚えなさいとフランズベルト王国の地図を前に特訓されたのだ。
兄様は何のスイッチが入ったのか、最近ちょっとスパルタ気味だ。
優しいけどニコニコ顔で「エレメンタルプリンセスになるんだよね?」とか言われるからマジ怖い。
その特訓が生きたよ!ありがとう、兄様!
そして!
多分、この子はハーディエンス学院で私の同級生になる子だ!
悪い子じゃなさそうだし、せっかくだから少し話しかけて交流を持ってみよう。
「私、明日の園遊会のために王都に参りましたの。パトリシア様もですか?」
そう聞いてみると、パトリシア様はうなずいて「ええ」と少し微笑んだ。
ちょっと落ち着いたのか、ようやく笑顔が見られたことに私もほっとする。
そして周りを見回す余裕も出来たのか、私の後ろに控えていたニーナとエスバンに順に目をやった後、私の肩にとまるシマを見て大きく目を見開いた。
「まあ・・・その小鳥さん・・・」
あ、シマのこと忘れてた。そりゃ肩に小鳥のせてる貴族令嬢って変よね。
えーっと、なんて説明しようかな。ペット?ペットっていう概念がこの世界ってあるのかな?
「あの・・・すごく、懐いているんですね」
相変わらずちょっとおどおどとしてるけど、シマを見る目は優しい。
きっと、心優しい令嬢なんだろう。動物好きに悪い人はいないって言うしね。
「はい。私のお友達なんです。シマって言います」
「シマちゃん・・・可愛い」
そう言ってとろけるように笑ったパトリシア様の笑顔に、私がキュンとしてしまう。
か、可愛いのはお前だー!と言いたくなるよ!
パトリシア様は胸の前でぎゅっと指を組み合わせると、シマをキラキラした目で見つめる。
「あの、すごく綺麗な小鳥さんが飛んでくるのが見えて。それで、思わず追いかけてきちゃいましたの・・・ごめんなさい」
最後は少ししょぼんとして謝るその姿に、いやいやいや!と両手を振る。
「いえいえ、そんな風に謝っていただく必要はありませんわ!」
それに、と言葉を続ける。
「私、こうやってパトリシア様とお知り合いになれてとても嬉しいんです」
「え・・・」
「来年から、ハーディエンス学院でご一緒させていただきますでしょう?」
「あ、そうですわね・・・」
パトリシア様は改めて気づいた、という顔でこちらを見る。
「私、恥ずかしながらあまり知り合いがいない状況なんです。王都に来るのも、今日が初めてで・・・」
「まあ、私もですわ!」
苦笑しつつ言った私の言葉に、パトリシア様は素早く反応する。
あ、やっぱりそうなんだ。領地貴族の令嬢なんて、皆引きこもりよね。
そんな感情が伝わったのか、私たちはお互いをじっと見て・・・そして、同時に笑い出した。
扇はないから、手で口を隠すようにしてくすくすとひとしきり笑った後、私たちはさっきよりずっと打ち解けた雰囲気でまた向かい合う。
それから私たちは、お互いのことをとりとめなく話した。
パトリシア様はお父様と一緒に明日は園遊会に参加されるとか、妹が2人いて1人はまだ生まれたばかりなのでお母様と一緒に3人で領地でお留守番だとか。
動物が大好きなのだけど、小さな妹のお世話もお手伝いしなきゃいけないので、余裕がないから飼えないだとか。
初対面の印象通り、パトリシア様は穏やかでおっとりした優しい方のようだった。
「シャルリア様、そろそろ・・・」
ニーナに促され、はっと気づく。そろそろ戻らなければならないだろう。
パトリシア様を見ると、少し名残惜しそうな顔で微笑んでおられた。
これは。
これはもう、お願いするしかないだろう。
「ねえ、パトリシア様。これも何かの縁でございますし、どうか私とお友達になってくれませんか?」
ドキドキしながら訪ねてみると、パトリシア様は花が咲いたかのように可憐な笑みを見せてくれた。
「ええ、シャルリア様!私からもお願いしたいですわ」
その返事に、飛び上がるほど嬉しくなる。だって、初めての女の子の友達だ!
「じゃ、じゃあ私のことはどうぞシャル、とお呼びくださいませ」
「で、では私のことはパティ、と・・・」
やったー!2人目(しかも女の子!)の友達、ゲットだぜ!




