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32.夢の中で

そこは、真っ白な世界だった。



「うわぁ・・・これぞ『お約束!』ってやつ?」


これって、あれだよね。

異世界転生の定番、『神様からなんかすごいスキルを与えてもらえる場所』だ!

ちょっとわくわくしながら周りを見回す。

上も下も右も左も、ただただ真っ白。目が痛くなりそう。

足元にも地面はなく、宙に浮いているような透明な地面に立っているような変な感覚。

明かりがあるわけでもないのに、薄明るくて少し暖かい。

ひょっとしたらお母さんのお腹の中って、こんな感じなのかもしれない。


「シャル」

不意に声がかかる。

目の前に現れたのは、1人の天使。

真っ白な肌に薄い金色の髪、子供のような身体つきに、大人のような表情。

碧がかった白っぽいワンピース?そんな衣装を着た、男か女かわからない可愛らしい顔。

天使以外にはありえないよね!

「はい!」

「・・・君はいつも元気だなあ」

「は?」

なんで出てきた瞬間ディスられるんだ、私!

その声色から、呆れているってのはバレバレなんだからね!

「シマだって元気でしょ!みんなが可愛がってるんだから」

天使・・・シマは驚いた顔をして私を見る。

「わかってたの?ボクがシマだって」

「そりゃわかるよ。あんなに綺麗なオーラ持った存在って、ノルディスに続いて2人目だし。

でもノルディスより強い魔力を感じたから、多分・・・そう、『何か』なんだろうなって」

「さすがシャル」

クスクスと笑うシマに、今度はほめられた。


私はあらためてきょろきょろと周りを見回す。

「ここは私の夢の中?それともシマの世界なの?」

「シャルの夢の中、だね。そこにボクがちょっとお邪魔している感じ」

「そうなんだ」

うんうんとうなずく。

「嬉しいよ、シマとこうやって話せるのは。どう?生活に不自由はないの?」

そう聞くと、シマはその可愛らしい目を真ん丸に見開いた後、ものすごく嬉しそうな顔になる。

「快適に暮らしてるよ、皆優しいし。・・・でも、ボクに最初に聞きたいのがそれなの?どうして私はここにいるの、とかあなたは何者なの、とか知りたくないの?」


んー・・・と少し考える。

これが死んで転生する前、とか前世の記憶を取り戻した直後に神様と会ったってのならそういうのもあったかもしれないけど。

さすがにシマが私をこの世界に呼んだわけじゃないだろうしね。

もうすでに転生しちゃってるし、なんかチートなスキルをもらえるわけでもないだろうし。

今はこの『シャルリア・フロンターレ』にすっかり馴染んでるしなあ。

異世界では何が起こっても不思議じゃないって思っているし。


「別にシマが何者でも構わないもの。特には・・・あ!1つだけあった!」

大事なことを忘れていた。

「ねえねえ、私がエレメンタルプリンセスになるにはあと何が必要だと思う?やっぱり、精霊の加護をもっと上げなきゃいけないのかな?」

「・・・それ?そんなことが聞きたいの?」

シマはどこか呆れたような、でもなんだかおかしそうな顔で答える。

「大丈夫だよ、君は自然に精霊たちが寄ってくる性質を持っているから。このまま、今のままでやっていればいいんだよ」

「そうなの?それはそれでつまらないんだけど」

「つまらないの?!」

驚くシマに、当たり前でしょう!と返す。

「イージーモードなんて、くそつまらないよ?!相手と話すだけで好感度が上がって、何の努力もしないままエレメンタルプリンセスに~なんて、つまらないの極致よ」

ぐっと握りこぶしをつくって力説。

「並みいるライバルたちをバッタバッタと蹴落とし、自分のステータスを極め、そして空いた時間に攻略対象との交流を経て好感度を上げていく。そういったタイムマネージメント的な楽しみがあってこその恋愛シミュレーションゲームだと思うのよね」

そして私はそういうゲームを心の底から楽しんでいたのだ。


「君は・・・」

何か言いかけてやれやれと首を振るそのしぐさが、妙にノルディスを思い出させる。

「やっぱり、シマって精霊使徒なの?」

「・・・どうして、そう思うの」

「え、ノルディスに似てるから」

そう答えると、シマは少し思案する顔つきになった。

「ノルディス・・・って『土の』か。なるほどね」

ふむ、とうなずいてシマは答えた。

それから少しニヤリと意地の悪い笑い方をする。

「ボクは精霊使徒ではなく『精霊そのもの』だよ」


・・・え?

精霊そのもの?精霊王じゃなくて?

精霊王じゃない精霊がいるの?


頭にいっぱいはてなマークを思い浮かべた私に、シマが説明してくれた。

この世界には精霊たちがたくさんいて、すべてが精霊の加護によって成り立っている。

その精霊たちの頂点に立つのが精霊王という至高の存在だけど、めったにその姿を現すことはない。

今からずっと昔、当時のエレメンタルプリンセスが選定された時に現れたのだけど、それ以来は精霊であっても全くお会いすることがないのだとか。

なので実質精霊たちを取りまとめたり、人に加護を与えたり、魔獣からフランズベルト王国を守ったりしているのは4大精霊である火水風土の精霊だ。

シマはその4大精霊の内、風の精霊。

本来4大精霊は『自分の居場所』を決めていてそこから動くことはほとんどないのだけど、4大精霊の中で一番若いシマはもっと居心地のいい場所がないかとふらふらさ迷い出て、うっかり迷子になった挙句、この近辺にたどり着いたのだとか。


「失念していたのは、風の精霊力を与え、それをまた返すという『循環』をしなければいけなかったということ」


精霊力の『循環』とは精霊が加護を人に与えて、その加護を受けた人がその加護でもって何かを成し遂げ、また精霊に還元するということらしい。

シマの場合は風の加護を与え、人がその加護によって物を作り出し流通させ、そしてその力をまたシマが得るということ。

残念ながらこの近辺はごく普通の貴族ばかりであり、もの作りに特化した場所ではなかった。

かろうじてフロンターレ領に、秋月のワイン造りをしていたからか風の精霊力の名残があったため、ここへと力を振り絞ってやってきた。


「『循環』しないと、ボクの力は弱っていく。もう元の居場所に戻る力もなくなって、どうしようかと思った時にシャルを見つけたんだ」


精霊の加護を強く受けたわけでもないのに、身体から溢れんばかりのエネルギー。

それに魅かれて寄っていき、途中で力尽きて落ちた。

そして私に発見されて拾われた後は、私や家族や使用人から少しずつ『循環』しながら力を回復していった。


「シャル以外だとマーカスが一番『循環』しやすかったかな」

「マーカスはうち自慢の料理人だもの!」

「クッキーもおいしいしね」


最後に、今日シェアト兄様が帰ってきたことにより、『循環』がかなり捗ったらしい。

さすが兄様、優秀としか言いようがない。

そしてようやく仮の姿としての小鳥ではなく、精霊としての姿を保てるようになり、私の夢の中へとやって来たようだった。

少し中途半端ですが一度切ります。

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