31.シマと過ごす日々
「シマちゃん~ほぅら、マーカス特製クッキーよ?おいしいかしら?」
「ピュッ!」
「母様!シマにクッキー上げるのはダメですよ!ちゃんとしたご飯を食べなくなっちゃう!」
あらあら・・・としょぼんとする母様。
いつものお茶会。私と母様と、もう1羽。
そこへ、視察から帰ってきた父様がヨアンが扉を開けるのもそこそこに、こちらへ小走りで近づいて来られる。
「ただいま、ルーシア、シャル。シマちゃんにおみやげだ」
そう言って、赤い木の実を枝ごと取って来たらしい父様は、それをテーブルの上にいたシマに向かって差し出す。
「人も食べるけど、鳥も食べているらしいぞ。ちょっと酸っぱいが、シマちゃんは気に入るかな」
「ピュイピュイ!」
シマは赤い木の実をついばんで器用にくちばしで挟み、ごくっと食べる。
嬉しそうに目を細める姿に、一緒になって目を細める父様と母様。
最近はすっかり見慣れたその姿に、動物の癒しパワーはすごいなと思うばかり。
シマを雪の中から拾って、ひと月。
ケガをしたわけではなく単に弱ってただけだったようで、シマはすぐに元気になった。
多少は私の癒しの魔術?も効いたのではないかと自負している。
元気になったのだから逃がすべきかと思って外へ連れ出したものの、私の肩にとまったまま一向に飛び立つ気配のないシマ。
私自身可愛いシマと別れるのは忍びなかったし、日本と違って野生動物を飼ってはいけないという決まりもないみたいなので、シマが自分から飛び立つ日までは邸にいてもらうことにした。
もちろん王都から帰ってきた父様と母様にお願いして、許可を頂いたからだ。
可愛いものが大好きな母様は諸手を挙げて賛成してくれたし、父様もきちんと世話をするのなら、と許してくれた。
その時に父様が気になることを言ってたんだよね。
「ひょっとして、この子は精霊の使徒かもしれないね」って。
え、精霊使徒ってそれは攻略対象の方々じゃ?と思ったものの、そんなことを口走るわけにもいかず、単に人以外が精霊使徒になることがあるのかと聞いてみたが、過去にはあるらしい。
古い文献で読んだだけだから定かではないよ、と言う父様だけど、さすが文官家の出身。博識だわ。
でも精霊使徒だとしたら、多分風の精霊使徒だよね・・・ゼファス様はどうなるの?
いや、別に各エレメンタルにつき使徒が1人とは限らないのか。人と動物とそれぞれいるとか。
そんな設定なかったはずよねえ?
でも結局エレメンタルプリンセスにはなれなかったわけだからわからないか。
設定とか言い出すと、そもそも学院入学前にノルディスと友情築いちゃったりしてる時点でおかしいわけだから、まあいいや。
そんなこんなですっかりシマは我が家のアイドルとなった。
朝は私と一緒に起きて食堂に行き、マーカス特製の鳥のエサをついばむ。
テーブルを汚すこともなく、行儀よくついばむのでメイドさんたちにも好評だ。
その後は自由に邸の中を飛び回り、調理場でマーカスの料理を眺めて?いたり、メイドさんたちの洗濯時に隅で水浴びをさせてもらったり。
エスバン曰くこの間は馬房にいたらしく、馬とまるで話をしているかのように馬の背中に乗ってピチュピチュとさえずっていたらしい。
あちこちでフンをするわけでもなく、いつも綺麗に毛づくろいをしているので羽毛が飛び散ることもないため、一番うるさいヨアンとサマンサですらシマを自由にさせていることに文句もない様子。
昼からは私と母様のお茶会がひと段落した頃に乱入してくることが多く、母様が「シマちゃんは本当にいい子だわね」とご満悦だ。
その反面、父様の視察にはいくら誘ってもついてきてくれないらしく、ちょっとしょんぼりしてる。
というか、当たり前じゃない?!視察に付き合ってくれる小鳥とかいるの?!
「シマは絶対普通の鳥じゃないよね。精霊使徒か何なのかわかんないけど」
夕飯も終わり、まったりと自室でくつろぎながらシマにそう問いかける。
シマは無視して木箱で毛づくろい。一見真っ白に見えるその羽は、やはり碧色を帯びている。
木箱の中はアルルと休暇からもどってきたニーナの力作である『シマ用お布団』が敷かれてあり、そこでシマは毎晩眠っている。
「ピュッ」
毛づくろいが終了したらしく、シマが私を呼ぶ。
落とした羽やほこりなどを片付けてね、の意味なんだろう。
はいはい、と集めてゴミ箱に捨てると、シマは満足げにこちらへ飛んできて、私の肩にとまった。
もうすっかり肩の上が定位置になっている。
と、そこへトントンとドアがノックされた。
「どうぞ」と呼びかけると、顔を出したのはニーナ。
「湯浴みの準備が整ったの?」
聞くと、「ええ」と返事が返って来たものの、それと同時に「シェアト様がお戻りになられましたよ」と声がかかった。
シェアト兄様が冬月の休暇で戻ってきたのだ!
この後の冬月の間は邸で過ごし、来年の春1の月、芽吹きの宴に参加するため家族全員で王都に行くことになる。
秋月の休暇以来だったので、急いでエントランスへと向かった。
「シェアト兄様!」
エントランス前の吹き抜け階段の上から声をかけると、兄様は荷物を使用人に渡しながら私を振り仰いだ。
「やあ、シャルリア。また綺麗になったね」
まぶしそうに目を細めながらそう言う兄様に、こちらも
「兄様こそ、背が伸びてますます素敵になられたわ!」と返す。
エントランスには父様と母様がすでにいらっしゃる。
小走りで階段を駆け下りたい気持ちを抑え、ゆっくり優雅に階段を降りる。
降りきったところでカーテシーをして、まっすぐ姿勢を伸ばして兄様を見た。
「おかえりなさいませ、兄様」
兄様は満足げにうなずくと、満面の笑みで
「ただいま、シャルリア。エレメンタルプリンセスまであと少しだね」と言ってくれた。
そして、そのままついと視線を私の肩にうつすと、シマに目を止める。
「その子が、シャルが手紙で書いていた小鳥かい?」
「そうです!シマと言いますの」
私は兄様の近くまで寄っていき、自分の左肩にとまっていたシマに右手の人差し指を近づけた。
シマは心得てるとばかりにその指へととまったので、兄様に向かってそっと差し出した。
「シマ。可愛い名前だね。僕とも仲良くしてくれるかな」
そう言いながら手を差し出した兄様に「ピュウ」と一声鳴いてみせると、シマは兄様の手のひらをちょんちょんとくちばしでつついた。
あ、あの時と同じだ。
シマから流れ出して、兄様を包む碧のオーラ。
そのオーラは兄様をぐるっと一周取り巻いた後、またシマへと戻っていく。
まるで、兄様の存在を確かめるかのように。
「ピチュ、ピ」
危険な人ではないですね、と満足したようにシマが鳴き、兄様の肩にとまってみせた。
「仲良くしてくれるのかい?ありがとう」
嬉しそうな兄様に、私も嬉しくなる。
兄様とシマの初対面が無事に終わり、明日からは兄様も交えての楽しい毎日になりそうだ。
そしてその夜、私は夢を見た。
明日は日曜日なので投稿お休みいたします。
また月曜日から再開しますので、よろしくお願いいたします。




