29.落ちてきた小鳥
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いきなり雪をかき分けて走り出したからか、雪を固めていたスコップを放り出してエスバンが走り寄ってきた。
「どうした、姫さん?!」
「なんか!なんか落ちてきたの!」
「はあ?」
説明するのももどかしく、先ほど『何か』が落ちてきた場所へと急ぐ。
真っ白な雪の中、淡く光っている場所がある。あそこだ。
「っ、悪いな!」
不意にエスバンがそう言ったかと思うと、後ろから膝の裏と胴体に手が回ってきて、ひょいっと私の身体が宙に浮く。
「え、エスバン?!」
「俺の足の方が速いしな、どこだ?」
「あそこ!」
エスバンは私の身体を抱き上げ、私が指さす方向へ急ぐ。
それにしても、これってお姫様抱っこってやつじゃないの?
足で雪を蹴るようにして歩くエスバンに身を任せつつ、そんなことを思う。
ロマンチックでもなんでもないけど、まあ、初めてのお姫様扱いって考えると悪くない。
「・・・重いな」
「ちょっと!勝手に抱き上げといて文句言わないで!」
へいへい、と笑うエスバン。まったく、失礼な奴だ。
「あれ、かな」
近くまで来たところでエスバンにおろしてもらって、光に近づく。
「どこだ?」
「え?そこ、光ってるでしょ?」
「光ってるか?」
エスバンには見えないのか。
じゃあこれって、物理的に光ってるんじゃなくて多分・・・。
私は真っ直ぐ光のところへ進み、かがみこんだ。
やはり、ノルディスの時と同じだ。光の正体は、金色のオーラ。
ノルディスの時よりは光ってない・・・?でも小さい『何か』がよく見えないぐらいには光っている。
なんだろう、これ・・・。
手を伸ばして『何か』に触れかけた途端、その光はすうっと消えてしまいそうなぐらい淡くなった。
光がほとんど見えなくなって、代わりに見えたのは1匹の小鳥。
雪と見間違うかのような、真っ白の羽根を持った鳥。
「鳥?!」
雪の中に置いておいたら、死んじゃう!
思わず小鳥を雪の中から救い上げると、それはまだ暖かかった。
死んでいるかとも思ったが、小さく胸のあたりが動いているので生きているようだ。
「うぉ、鳥だったのか?」
エスバンも私の手の中を覗き込む。
私の両手のひらとあまり変わらないぐらいの小さな鳥だ。
「雪に埋もれてたのか?俺にはよく見えなかったけど、よく気づいたな」
エスバンの言葉にやっぱりオーラが見えなかったのかと思ったが、それは後回しだ。
「この子、まだ生きてる!エスバン、どうしたらいい?」
御者として馬の世話もしてくれているエスバンは、生き物にも詳しいはず。
そう思って問いかけると、彼は厳しい顔つきで答えた。
「とりあえずは温めよう」
エスバンはまた私を抱え上げると、さっきよりも激しく雪を蹴散らしながら邸へと向かう。
2人して邸の中に飛び込み、エスバンは「湯をもらってくる!」と調理場の方へ走っていった。
私は邸の中で一番暖かいと思われる場所、すなわち自分の部屋へと小鳥を運んだ。
今日は私以外の家人はおらず、使用人が必要ない場所に火を入れているとは思えない。
その点、私の部屋ならばたとえ無人であっても暖炉に火はともっているはず。
その判断は正しくて、両手がふさがっていた私が部屋の前で「誰かいる?」と問うと、ドアが開いてアルルが顔を出した。
「お嬢様、一体どこへ行かれたかと・・」
「アルル!大変なの、部屋へ入れて!」
アルルは私の声に大きくドアを開き、中へと通してくれた。
私の手の中の小鳥を見て、「それはどうしたのですか?」と目を丸くする。
「アルル、箱か何かこの子を入れれるものないかな?」
「・・・お待ちください」
アルルは脇机のところへ行くと、おそらく装身具か何かが入っていたのであろう木箱を取ってきてくれた。
それから「何か、下に敷くものも必要ですね。裁縫室で探してきます」と言うなり、早足で部屋を出ていく。
小鳥の羽根についていた雪は溶けて、水滴になっている。
それをそっとハンカチで拭き、自分の体温で小鳥をあたためつつ、様子をみる。
前世でも今世でもペット等は飼ったことがなく、今どのような状況なのかは全然わからない。
見た感じではケガなどはなさそうだけど、雪と一緒にとはいえ木の上から落ちてきたので、どこか痛めている場所があるのかもしれない。
でも、と思う。
先ほどのこの子を取り巻いていた金色のオーラ。あれは最初にノルディスに出会った時と同じだった。
そう、エスバンが見えなかったようなので間違いない。
多分、見える人と見えない人がいるんだろう。私が見えるのは何故かは置いといて。
ということは、この子も精霊の強い加護を受けているのか?
この世界ではすべての事柄に精霊の力が働いているのだから、このような小さな生き物にもそれは与えられているのだろう。
ならば、と少し意識して手のひらに集中して魔力を集める。
この間、ノルディスに教えてもらって魔術を発動してからというもの、いわゆる体の中の魔力が感じられるようになってきていた。
さすがに1人で魔術の発動はやめておこうと思ってやってないけど、体の中の魔力を感じながらぐるぐる体内で動かしたりはしている。
おかげで魔道具を使うときも、触れていなくても魔力を送れるようになったりもしている。
夜眠るとき、ベッドに寝たまま明かりを消したり出来るので便利だ。
そんなことはどうでもいいんだけど、要はその時と同じだ。
集中して体の中の魔力を集め、それを少しずつ手のひらに湧き出させる感じで小鳥に伝える。
私に癒しの水のエレメンタルの力があるかはわからないけど、少なくともゲームではゼロではなかった!なので、多少は効果もあるだろう。
元気になれ~・・・元気になれ~・・・
ちょっと間抜けだな、と思いつつも必死で唱える。
癒しの呪文は知らないから仕方がない。
ヒールとかキュアとかケアルとかエスナとかホイミとかかもしれないけど、下手に唱えて違うのが発動したら困るのでやめておく。
同じ会社のゲームなのに、眠りの呪文だったり挨拶だったりする言葉もあるからね!
その頃は違う会社だったから仕方ないか。
どうでもいいことを考えながらも、そのまま魔力を手のひらに集めていたら、なんとなくだけど小鳥がどんどん温かくなってきたような気がした。
同時に、ノルディスよりも淡いかと思っていたそのオーラも、どんどん濃くなって少し色が変わってきた。
「これは・・・緑?」
もし、生き生きとした草花でいっぱいの草原を吹き抜けていく風の色が見えるとしたら、きっとこんな色だろう。
一瞬そんな景色が目の前に見えたような気がした。透明感あふれる美しい碧。
真っ白だった羽が、そのオーラに染まるようにうっすらと碧を帯びていく。
ああ、綺麗だ。
とても綺麗で、なんだか安心するオーラ。
きっと、この子はもう大丈夫だ。




