26.訪問の後で
父様たちが領内視察から帰ってきた。
と、思う間もなくアームズ様とノルディスは王都に向けて出発となった。
「大変有意義な休暇となりました。ありがとうございました」
アームズ様は父様に丁寧なあいさつをして、固く握手している。
その後、母様にもあいさつをして、しかも笑いまで取ってる。
こうやって見ると、本当にしっかりした人だなと思う。
ゲームではノルディスの優秀さばかり強調されていたが、アームズ様だって全然負けていない。
むしろ、ちょっと頭が固いノルディスよりよっぽど施政者向きだと思うんだけどな。
「シャルリア嬢もまたぜひ遊びに来てくれよ!次に会うときには、エレメンタルプリンセスにどこまで近づいたか楽しみにしてるからな」
・・・こうやってからかうような軽い調子が誤解を与えるに違いないな。
「ええ、楽しみにしていてくださいな。次にお会いした時に飛び出した眼を探す羽目になりますわよ?」
ふふふと笑って答えると、アームズ様もアハハとおかしそうに笑った。
「君のその言葉を聞くと、学院で会えるのが楽しみで仕方ないよ」
「私も楽しみですわ」
これは本当。ゲームでは全く交流がなかったシェアト兄様やアームズ様と学院ではどんな風に交流することになるのかが、とても楽しみだ。
「シェアトもまた学院でな!休暇の間、精々シャルリア嬢をしごいてやれよ」
「僕はシャルリアを可愛がることしか出来ないからね」
お兄様方が謎のやり取りをしていると、両親に挨拶していたノルディスが私のところへやってきた。
「・・・シャルリア殿。また、その、お会いしよう」
「ええ、ノルディス様。魔術の本を貸していただける約束と、王都図書館に案内していただける約束、それから王都で流行っている甘味を食べさせてくれる約束を忘れないでくださいな!」
「・・・3つ目の約束は、した覚えがないが?」
ばれたか。
「じゃあ、今約束しましょう!お店、選んでおいてくださいね!」
ダメで元々というか断られて当たり前という感じで言ってみたけど、ノルディスは渋い顔をしながらも「わかった」と返してきてくれた。
・・・言ってみるものだなあ。楽しみが増えた!
シェアト兄様と並んで立ち、遠ざかっていく馬車を見送る。
「兄様」
「どうしたの?」
「私、とても楽しかったです」
そうか、と兄様は優しい顔で微笑む。
「僕も父上と母上、シャルに親友を紹介出来てうれしいよ。ノルディス殿も初めてお会いしたけど、いい子だね」
「はい。私、ノルディス様とは仲良くなれそうです」
「それは・・・」
兄様は少し拗ねたような顔をする。
「あまり仲良くなりすぎると、ちょっとシャルが遠くへ行っちゃうようで寂しいな」
「お兄様ったら」
やっぱりシスコンだ!間違いないよ!
昼食後、父様と兄様は執務室へ。
午前中、視察してきた領内で懸念案件が見つかったらしく、その検討に入るらしい。
いつもこういった案件が出てくると、ある程度の方針は父様がつけて、その後母様にも意見を尋ねられる。
だけど今日は兄様の勉強も兼ねて、2人でまず考えてみるみたいだ。
なので、私と母様は今日も礼儀作法の練習を兼ねたお茶会だ。
いい機会なので、気になっていたことを聞いてしまおう。
「ねえ母様。私が、アームズ様の婚約者候補とかってこと、あり得ます?」
さすが母様。ブッと吹き出しかねないタイミングで聞いてみたのに、少し目を見開いただけでごくっと紅茶を飲みこんだ。
「・・・誰かから何か聞いたの?」
「いえ!」
少し心配げな声に、慌てて首を振って否定する。
「ただ単に、今日の視察について行ってはいけないってことは、そういう誤解が起こりえるかもってことなのかなって」
ノルディスが勘違いしてたってことは伏せておく。
「そうね、まったく的外れではないわね」
母様は優雅な手つきでカップを置くと、ほぅっとひとつ息をついた。
「昔と違って今は、王都でも高名な家系でもない限り学院入学前に婚約者が決まるということはめったにない。だけどハーディエンス侯爵家に関して言えば・・・」
「高名な家系、ですね」
「ええ」
うなずいて母様は続ける。
「かなり前から2人の後継者の婚約者選びを巡っては、色々な思惑が渦巻いていると聞いているわ。無理もないわね、初めてお会いしたけどとてもいい方たちだもの」
まあ家柄が超優良な上に、好青年・・・好少年?だよね。あれは引く手あまただわ。
「だから本当はここへいらっしゃるのも、ご遠慮したかったのは山々だったんだけどね」
「遠慮したかったんですか?」
それはそうよ、と母様は言う。
「あなたという存在ははっきりとはしてなくても、フロンターレ家に娘がいることぐらいは知っている人はいるでしょう。そして、うちとハーディエンス家に血の繋がりがあることも。そこから勘繰る人はいるでしょうね」
「・・・面倒くさいですね」
「ふふふふ、そうね、面倒くさいのよ」
母様は扇で口元を隠しながら、コロコロと笑う。
そうそう何か面白いことがあっても、笑うときは大口開けて笑うんじゃなくて口元隠さなきゃいけないのよね。これも本当面倒だわ。
「とはいえ、うちとは身分も違うし、シェアトとアームズ様が仲良くされているのもご存じの方が多いでしょうし、そこまで警戒はされないかとも思ったのよ」
「それなら下手に私がご一緒しているところを誰かに見られて、噂になるのは避けたいですね」
「そういうこと」
母様は柔らかく微笑んだ後、真面目な顔をして私に向かい合う。
「ねえ、シャルリア。あなたはフロンターレ家の娘として生まれたからには、いつかは嫁がなければいけない。それも、フロンターレ家の利となる家に」
私も深くうなずく。
この世界は乙女ゲームの世界だけど、自由恋愛が出来る世界ではない。
だからこそそれによる悲恋があったり、障害を乗り越えて結ばれることへの喜びがあったりするのだ。
貴族令嬢として転生したからには、それは仕方がないことと諦めている。
「だけどね」
母様は優しい目でじっと見つめてくる。少し、その瞳が揺れる。
「あなたもシェアトも幸せになって欲しいと思ってるの。だから無理強いもしたくないし、学院で素敵な方と巡り会えたのならそれが一番いいのよ」
思ってもみなかった言葉に、目元がじわりと潤むのを感じる。
「そのためには、父様も母様も今よりもっと頑張るわね。あなたたちが、望んだ相手と結ばれることが出来るように」
もう堪えられなかった。
よかった、この家の子に生まれて。母様と父様の子に転生できて。
「はい、はい、母様・・・」
「あらあらあら、お化粧が崩れちゃうわよ。だめよ?エレメンタルプリンセスを目指すなら、こういう時も平静でいないと」
母様はほんとに厳しくて優しい人だ。




