21.魔術が発動した!
これは転生したのが乙女ゲームの世界だったってのが問題か。
いや、乙女ゲームの中にも、もちろん戦闘なんかがあるものも結構あったんだけど。
それでも『エレプリ』には、確かにほとんどなかった気がする。
イベントとして数回あったぐらい。
乙女ゲームだけではなく、RPGも大好きだった私としては戦闘がないことは不満だったけど・・・それで良かったのかもしれない。
確かにゲームでやる戦闘は面白い。
だけど、実際に自分が命を懸けてやるというのは全然違う。遊びじゃないんだ。
いざ戦闘となった時にゲームのように動けるとは思っていない。
自分が、誰かが、それで傷ついたり命を落としたりしてほしくない。
現実ではやっぱり怖いし、「戦う」ということに対する忌避感もある。
なので、やっぱりこの世界でよかったと思う。
とはいえ、魔術!知ったからには小さなものでもいいから使ってみたいのが、当たり前だ!
「ねえねえ、魔術って私にも出来るものかな?」
私の問いに、ノルディスはふむ、と顎に手を当てて考え込む。
こういう思惑にふける姿ってほんと絵になるよね。さすがインテリイケメン枠のキャラだ。
ニヤニヤしてると、ものすごく嫌な顔をされた。なんで。
「出来ないことはない、と思う。が、危険を伴うこともあるので、やはり最初は適切な指導者か、丁寧に解説してある本を参考に始めるべきだ。私もそうだったので」
「ノルディスは本で勉強したの?」
「ああ」
「じゃ、その本貸してほしい」
「構わないが・・・」
ノルディスは訝しげな表情でこちらを見る。
「理解できるのか?難しい言い回しも多いぞ?」
「んー・・・わからないけど、本は読んでみたい。読むだけでも面白そうだし」
そう言った私に、ちょっと驚いたような顔のノルディス。
「・・・なんでそんな顔するの」
「いや、その・・・本など、読むのか?」
「はあ?」
バカにしてるの?と思ったが、念のため確認したくて聞いてみる。
「ひょっとして、普通の貴族令嬢って本は読まないの?」
「・・・わからないが、少なくとも今まで出会ってきた方々は、本の話などしなかったな」
思い出すように話すノルディスに、そんなものかもな、と軽くうなずく。
「この家の蔵書も、領地経営とかに偏ってるから読みにくいのは読みにくいのよね。だから、家には本がないとか、あっても読まないとかって方々がいてもおかしくはないわね」
ふむふむと1人で納得していると、ノルディスが何か言いたげな感じでこちらを見た。
「どうしたの?」
「ああ、いや・・・その、さっき兄上も言っていたが、一度我が家に来ればいいと思う。本も貸せるし、よかったら王都図書館にも案内するから」
と、彼は口ごもりながらもそう誘ってくれた。
王都図書館?!やっぱりあるんだ!
感動して色々聞いてみたところ、かなり大きな図書館らしい。
本の閲覧や貸し出しには身分証明が必要なのだが、さすがのハーディエンス家は息子レベルでもフリーパス状態なのだとか。
だから、ノルディスと一緒に行けば、きっと色々な本を見れることだろう。
これは一度、ハーディエンス家にお邪魔させてもらわなきゃね!
魔術はしばらくお預けなのかなあ。
そう思いながら、先ほどノルディスが燃やした木切れを見る。
どうだっけな・・・確か、指先をこうやってこする感じ・・・
「ファイア」
つぶやくと同時に、自分の身体から何かがぶわっと立ち上ったのが分かった。
たとえるなら、波のようなうねり。そのうねりが伸ばした手の先からほとばしったかと思うと、木切れから炎がボッと燃え上がった。
「わぁっ!」
驚いて叫ぶと、炎は大きく揺らぎ、徐々に小さくなると消えてしまった。
先ほどのウォーターで湿気ていた木切れから、ぷすぷすと白い煙が立ち上っている。
「・・・・・・今の」
呆然としたままつぶやく。
「今の、魔術、だよね」
「そうだな。・・・まったく無茶をするな、君は」
やれやれと、呆れたように首を振るノルディス。
「・・・す・・・」
「す?」
「すごいよ!ノルディス!魔法使いだよ、私!」
思わず感極まって、隣のノルディスの身体に手をまわして、しがみつく。
「ちょ、え、おい!」
「出来ちゃったー!夢じゃないよねー?!」
「は、はな、離してくれ!」
ノルディスはなんかわめいているけど、そんなことはどうでもいい。
魔法。いや魔術。
まさか本当にこの手から生み出せるなんて・・・!
ゲームの中では、魔法使いが一番好きだった。
ナイトやシーフもかっこいいし、踊り子や弓使いなんかもいい。
だけど、自分の手から生み出される魔法を駆使して敵を倒し、時には回復魔法で味方を癒し、補助魔法で敵のスキルを封じたり味方のスキルを底上げしたり。
そんな万能感あふれる魔法使いに、ずっとずっとなりたかった。
その夢が今、少しだけだけど叶ったのだから。
離せ離せとあんまりうるさいので、ノルディスから離れて自分の手をしげしげと見つめる。
今も、まだ何かが身体の中でぐるぐるしている。
これは精霊の力?一般的に、魔力と呼ばれている力。
普段、魔道具を動かす時は微量すぎて感じないが、こうやって一度感じてしまうとよくわかる。
精霊王から与えられし、不思議な力の流れを。
「ウォーター!」
今度は手を伸ばし、水の魔術を発動してみる。
手の先からあふれ出した魔力が瞬く間に水に変わっていき、ばしゃん!と大きな音を立てて飛び散る。
「これは・・・」
横で、ノルディスがつぶやく。
「僕より魔力が高い・・・?いや、まさか・・・」
それはないでしょ、と言いかけてふと気づく。
ノルディスは確かに土のエレメンタルの加護を強く受けているが、その加護は魔術や剣術といったものにはあまり影響しない。
むしろ、魔術はともかく剣術に関してはノルディスは少し苦手だったはず。
ならば、あまり火のエレメンタルの加護は高くないのでは?
「負けないよ」
「え?」
「ノルディス、私、負けないよ!魔術、もっと勉強して使いこなしてみせる」
そう言って不敵に笑ってみせると、ノルディスは一瞬気圧されたように口を引き結んだ後、「私だって負けない」とつぶやいた。
「じゃあ、私たち、友達でライバルだね!」
そう言って手を差し出すと、ノルディスは少しためらった後でぎゅっと握手してきてくれた。
「そうだな。お互いに頑張ろう」
なんか、学院に入る前から青春スポーツマンガっぽくなってきた!
これぞ青春、これぞ友情だね!




