19.一風変わった友人を得る (ノルディス視点3)
・・・シャルリア殿は、なんだか変わった方だ。
今まで茶会などで話をしてきた女性たちは、ハーディエンス家がいかに素晴らしいかとわざとらしいほど褒め称えてきたり、あるいは王都での流行のファッションや貴族間のうわさ話など興味の持てない話を延々としてきたりしていた。
今日のこの場も、私は会話に積極的に参加する立場ではないと思ったので聞き役に徹していたが、彼女もそのようにわきまえているように見える。
とはいえ兄上が彼女に話を振ると、適切な答えも返ってくるし、時々大人みたいな言い回しなのに子供っぽい反応をしたりして表情がくるくると変わる。
その、小動物のようなしぐさに、不覚にも何度か吹き出してしまった。
そんな中、不意に兄上が「ノルディスもシャルリア嬢と同じ年齢だからな。今から顔を合わせておくと、学院でも仲良くなれるじゃないか!」と言い出した。
・・・また始まった。
兄上の気さくで身分関係なく誰とでも仲良くなれる性格は、とてもいいと思っている。シェアト殿のような良き友人に巡り合えているのもそのおかげだろう。
だけど、それと同じことを私に求められても困るのだ。
私はあまり人付き合いがうまくない。
茶会で母上に指摘を受けるまでもなく、父上に似て冷たい印象を与えてしまっていることは自覚している。
息子である自分でさえ父上の前に行くと、緊張するのだ。その父上に似ていると言われる自分が、いかに他人に対して無駄に威圧を与えているのかと思うとため息が出る。
これではいけないと兄を見習いたいとは思っているのだが。
だが、しかし、だ。
このまま話が進んでシャルリア殿が兄の正式な婚約者となるなら話は変わってくるが、少なくとも今の現状では親しくというのにも無理がある。
「兄上。仲良くと申されましても、私とシャルリア殿は異性同士。兄上とシェアト殿のような関係になれるとも思えません。兄上はいつも無茶なことばかりおっしゃる」
そう言うと、兄上はあきらかに鼻白んだ表情になった。
少し言い過ぎたかとも思ったが、一度口から出した言葉は取り消せない。
シェアト殿も困った顔をしておられるし、場をしらけさせてしまった。
どうしたものか、と少し焦った時だった。
「同じ学院の生徒として、共にいろいろなことに挑戦し、良い刺激を与えあう存在になれたらいいと思いますわ」
あっけらかんとそう言い、ニコニコ笑うシャルリア殿。
ああ、そう言えばよかったのかと感心する。私にとっては不得意な、相手を気遣う表現。
その言葉に兄上も機嫌を直したかのように、いろいろと学院の話を始めた。
それをうなずいたり、時に質問したりしながら楽しげに聞く彼女。
・・・まあ、母上に指導していただきながら貴族令嬢としての体裁を整える必要は若干ありそうだが。
それでも、兄上の婚約者候補としては悪くないのかもしれない。
と、思っていたのもシャルリア殿に手を引かれて部屋から連れ出されるまでだった。
なんなのだ!
なんなのだ、彼女は!!!
手・・・手を、手を握り締めて走るとは!
貴族令嬢とは走らないものだろう?!気軽に男性の手を握ったりはしないだろう?!
「さっきから本当に何なんだ。いきなりぶつかってくるし、いきなり走り出すし。それでも伯爵家の令嬢なのか?!」
思わずそう声を荒げると、シャルリア殿は目を見開いて僕を見る。
しまった、またこんな言い方をしてしまった。
何か違う言い方で彼女の行動を諫められないか逡巡するが、どうにもこうにも落ち着かない。
理由はその、彼女の目。
まっすぐこちらを見つめる、透き通った大きな青い瞳。
まるで、吸い込まれてしまいそうで・・・。
「どうして、その、見るんだ」
そうだ、どうして彼女は僕を見る。
僕を綺麗だと素敵だと言ってくれた彼女。
そんなことはない。冷たい、怖い、素っ気ない、にらまれている、そんな印象ばかり与えていることはよくわかっている。
むしろそれなら、彼女の方がよっぽど綺麗・・・。
自分でも何を言ってるのかわからないまま、つらつらとシャルリア殿に言い募る。
と、彼女がついと身体を引いて一礼してきた。
さっきまでの行動とは真逆の、美しい貴族令嬢のお辞儀。
そして、同年代の男性と会うのは初めてであること、貴族令嬢の友人がいないので正しい在り方がわからないこと、わかるのならば教えてほしいと言ってきた。
貴族令嬢は走らない。男性の手をいきなり握ったりしない。
茶会で楚々としたしぐさで紅茶を嗜み、笑みをたたえて実の無い話をし、扇で隠した口元で私と兄上を比べて嗤う。
・・・それが本当に正しいのかなんて、僕にもわからない。
シャルリア殿は変わった方かもしれないが、茶会へ出た時のような嫌な気持ちにはならない。
彼女に、あのような僕の知っている貴族令嬢になって欲しいわけじゃない。
僕・・・いや、私は大きく息を吐く。
そして、思い切って彼女に向かって謝罪する。
「その・・・私だって正しい貴族令嬢の在り方などよくわかっていないのだ。ただ、その、君のやり方は私が今まで出会ってきた方々とは違うから、慣れないのだ。こちらこそ、不快にさせたのなら申し訳ない」
そういった途端、彼女はパーっと満面の笑みになり、また僕の手をにぎってきた!
だから、そういうのはっ!・・・いやもう、言っても無駄か・・・。
慌てたり呆れたりしているうちになんだか彼女のペースに乗せられてしまって、私たちは友人になることになってしまった。
これからは彼女のことをシャル、と呼べばいいようだ。
令嬢を愛称で呼ぶなどやったことがない・・・が、友人はそういうものだと言われてしまうと仕方がない。
コホン、とひとつ咳払いをする。
「その・・・シャ、シャル・・・私に見せたいものってなんだ」
「え?」
彼女は首をかしげて少し考え、「ああ!」と思い出したように言った。
「あれはまあ口実だから・・・えっとね、見せたいものというか見せてほしいものがあって」
シャルはその大きな瞳をきらきらさせながら私に向かって手を合わせた。
「お願い!ちょっとでいいから魔術を見せてくれないかな?」
次からはまたシャルリア視点です。
明日の日曜日は一日お休みして、また月曜日から投稿します。




