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17.兄上の婚約者候補? (ノルディス視点1)

更新、遅くなりました!

兄上は、いつだって突然だ。


試験が終わるらしいとは聞いていたが、休暇に入ると珍しくすぐに王都の自邸へと戻ってこられた。

いつもはなんだかんだと理由をつけて、ずっと休暇も寮で過ごしているのが常なのに。

早朝、突然の帰宅に驚く間もなく、家令に言いつけて馬車の用意をさせている。

そしてなぜか、兄上の友人であるシェアト・フロンターレ殿も一緒だ。

どこに行くのか、と思っていたら「ノルディスも行くぞ」と急に言われた。

泊りだから、とメイドに宿泊の準備もさせると、あっという間に引っ張られて馬車に連れ込まれた。


ようやく馬車の中でシェアト殿から話を聞く。兄上は馬車に乗った早々、寝てしまったからだ。

どうやら、フロンターレ領のシェアト殿の領邸へと向かっているらしい。

朝早くから驚かせて申し訳ない、とすまなさそうにするシェアト殿に自由奔放な兄上に友人として付き合うのも大変だなと少し同情する。


ハーディエンス侯爵家は代々宰相を輩出する家系として、一目置かれている。

その分、周囲からの期待が重く、現宰相である父上の指導も厳しいものだ。

まだ学院へと入学できない年齢の私にすらそれがわかるのだから、あと2年で成人を迎える長子の兄上への重圧は半端じゃないと言える。


だけど兄上は、その重圧を感じていないのか自由気ままに過ごしているようにみえる。

学院でも自由な学生生活を謳歌しているようで、王都では自邸から通う生徒も多いというのに、寮暮らしなのもそれが理由だろう。

もっとも、それも来年には全員寮生活が強制になると聞いている。

私と同じ年にマリーアンジュ王女殿下の入学を控え、王女だけの特別扱いをなるべく無くす方向へと動いた結果、現在自邸暮らしの生徒も全員寮に入ることになったらしい。

王女が王城から毎日通うというのも、警備等考えると確かに大変か。


学院へ入学してから邸へなかなか帰ってこられないのもあって、あまり話をしなくなった兄上であるが、それでも時々気まぐれに学院の話をしてくれる時がある。

よく名前が出てくるのが、今、一緒にいるフロンターレ伯爵家のシェアト殿だった。

本来ならば学友としても、同じ侯爵家のラルフィード殿やクリシュナ殿と交流するのが一番家のためになるのだが、彼らとはあまり付き合いがないようだ。


以前一度自邸へ来られた時には挨拶しただけだったが、今日こうやって改めて話をしてみると兄上がシェアト殿と仲が良いのもわかる気がする。

優しくて穏やかな方で、わがままな兄上を上手くあしらいながら、良い関係を築いておられる。

しかも、祖父同士が兄弟ということで、我が家とも親族にあたるのだそうだ。

馬車の中でも学院での兄上の話や、他の生徒の話などを聞かせてくださった。

私も、フロンターレ領までの道中、なかなか有意義な時間を過ごせたように思う。


「ところで、なぜ私まで一緒にフロンターレ領に行くことになったのでしょうか?」

私の問いに、シェアト殿も首をかしげた。

「そうですね・・・アームズがなぜノルディス殿を伴われたのか本意はわかりかねますが、おそらくは・・・念のため、でしょうか」

「念のため?」

「・・・いろいろ、あるのですよ」

にっこりと笑うその笑顔に、なんとなくそれ以上聞かない方がいいような気がしたので、追及するのはやめておいた。


そういえば、とシェアト殿は思いついたように話す。

「うちには妹が1人おりましてね。ちょうどノルディス殿と同じ年齢ですよ。同時に学院入学となりますので、よろしくお願いいたしますね」

少し強引な話題の転換であったが、この世の中にはあまり深く追求しない方がいいこともあるということが最近分かって来たので気にしないことにした。

それより、妹か。

「ひょっとして、兄上の婚約者候補とかそういう方でしょうか」

「え?!」

シェアト殿は、こちらが思った以上にびっくりしたという顔をされた。

何かおかしいことを言っただろうか。そう問いかけると、胸を押さえて話される。

「いえ、そうですね、世間から見たらそう捉えることも出来るのかと驚いてしまって」

むしろ、私にとってはシェアト殿が驚くことの方が驚きだ。


昔に比べ、ハーディエンス学院が存在することによって完全な政略結婚は少なくなってきている。

すべての貴族が学院へ入学するため、学院内で相手を見つけることも多いのだ。

ただし、すべてが自分たちの感情だけで相手を決められるわけではない。

家の格差、親の派閥、そこには色々な思惑が蠢いている。

高位の貴族は幼い頃からの婚約者がいることも珍しくなく、学院で違う相手と恋に落ちてしまい婚約破棄だのなんだのという騒動に発展することもごくまれにはあるらしい。

実際、兄上は今そのお相手選びの真っ只中にいると言える。

学院の休暇中は、王都で行われる夜会や茶会への誘いがひっきりなしにあるのだ。

それのほとんどからことごとく逃げ回っている兄上であるが、それに関しては何故か父上は一切何も言わない。

母上はごくたまに「これぐらいは出てくださいな」と無理やり学院に押しかけて、寮にいる兄上を引きずり出して夜会に連れて行ったりしているが。


私はまだ学院入学前なので社交界への本格的な参加はまだないのだが、時々は母上がどうしても立場上受けざるを得なかった茶会等への出席をすることがある。

そこでは着飾ったご令嬢たちに囲まれて肩身の狭い思いをするのが常であり、大人たちの思惑が見え隠れする駆け引きにも少し疲れてしまう。

まあ、シェアト殿は濁されたがもしこの来訪が兄上とシェアト殿の妹御の顔合わせだったとしても、私は付き添いに過ぎないのだからそこまで気を張る必要はないのだろう。


ただ・・・時々、何を親に吹き込まれているのか、兄上ではなく私が次期宰相になると勘違いして強く言い寄ってくる令嬢たちもいるのだ。

そんな時は、心の中がもやもやしてしまう。

何も知らないくせに、勝手な印象で私たち兄弟をあれこれ評価する周囲にも。

本当は誰よりも優秀なのに、それをいい加減な態度でごまかして周りを煙に巻く兄上にも。

そんな兄上を乗り越えたい、自分にはそれだけの力があるのだと思いあがりそうになる自分にも。

心底、嫌になってしまう。


・・・そうだな。

シェアト殿の妹御とはいえ、どんな方かはわからない。

兄上と相性のよさそうな方ならいいが、今までのお茶会で会ってきたような無駄に身体を押し付けてきたり、ドレスと装飾品の話にしか興味がなかったり、兄上と私を品定めするようなことを言ってくる方だと困る。

シェアト殿は候補ではないとごまかされたが、多分間違いない。

兄上はどうせ、何も考えておられないに違いないからな。

ハーディエンス家にふさわしい令嬢なのか、私がしっかりと見極める必要があるだろう。

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