12.初対面イベント
1『ご、ごめんなさい!考え事していたの』
2『はあ?あなたがぼうっと立っていたのが悪いのではなくて?』
3『きゃっ!なんて素敵な・・・!』
思わず頭の中に3つの選択肢が出てくる。
常識的に考えて普通は1を選ぶと思うが、実はここで好感度があがるのは3だ。
ノルディスはその優秀すぎるところというか、堅物さで今まで女性に避けられてばかりいたので、頭の良さではなく外見やセンスの良さなどで自分を賛美してくれる女性に実は弱い。
「・・・おい」
3を選んだ場合、毒気を抜かれたように顔を真っ赤にして去っていくノルディスを見れるが、そこから彼にとって主人公は「ほんの少し気になる存在」になるのだ。
まあ、いわゆる「おもしれー女」的展開ともいえるだろう。
「・・・だんまりか?謝罪も無しか?」
とはいえ、これがマリーアンジュが相手だと選択肢も出ることなく、ノルディスが「王女様でしたか・・・!ご無礼を致しました」と勝手に跪いて、マリーアンジュが天使の微笑で許すという展開になるのだけど。なんだその違いは。
「・・・まさか、頭を打った拍子にどこかおかしくなったのか?」
いや、違って当然か。
あっちは王女様、こっちは一介の伯爵令嬢だよ。
「おい!」
「え?」
苛立った声に、意識が戻ってくる。
目の前のスチル・・・じゃなかった、ノルディスが険しい表情でこちらを見ていた。
青味がかかった銀の髪は襟足で軽くそろえられており、さらっと揺れる。
眼鏡の奥の琥珀色の瞳は、土のエレメンタルの加護が高いと一目でわかる。濃い色合いなのに透明感があり美しい。
そして、なによりこの世界に転生して初めて見るもの。
前世ではオーラとかそういうのを全く信じてなかったけど、目の前の彼は薄明るい金色の光に淡く包まれているのがわかる。
精霊王に認められし存在。
ゲーム内での知識しかないけれど、自然に崇拝する気持ちが浮かぶ至高の存在。
驚きで目を見開いてるうちに、ゆらゆらと揺れる光はノルディスの体に吸い込まれるようにすぅっと消えていった。
今のは幻?いや、確かに見たし感じた。軽く鳥肌が立っているのがわかる。
びっくりした・・・本当に、本当になんて美しくて素敵なオーラなんだろう。
感動して、ノルディスを見つめたまま突っ立っていると、見る見るうちに彼の顔が赤くなっていくことに気づいた。
「・・・美しくて、素敵・・・?」
ん?
あれ、私、口に出してたっけ?
別に本人じゃなくて、褒めたのはオーラの色なんだけど。
ん?ひょっとしてあの選択肢も頭弱い主人公だと思ってたけど、実は違ったのかな。
そんなわけないか。
「あの、痛かったですよね?すみま・・・」
「っ、失礼!」
話しかけて謝ろうとしたところ、踵を返されてしまった。
・・・なんなの。
廊下を早足で歩いて応接室へ向かうノルディスを、今度こそ令嬢らしいゆったりとした足さばきで追う。だって、行先は同じなんだから。
応接室の前にノルディスが着くと、廊下に控えてた執事のヨアンがすっとドアを開ける。
ノルディスが部屋に入った後も、そのままこちらを見ているので、多分そもそもは私が来るのを待機していてくれたんだろう。
少しだけ足を早め、ドアのすぐそばまで行くとヨアンが意味ありげに右の眉毛をぴくっと上げてみせた。
『お嬢様もなかなかやりますな』
そんな小さな声が聞こえた気がして、軽くむすっとふくれっ面をして返した。
見てたんだ・・・私だってまさか初対面イベントをこんな風にこなすとは思ってなかったんだってば。
ノルディスの好感度なんて上げる気ないよ、まったく。
あ、いや、上げた方がいいのか。
軽く一礼して部屋に入ると、奥に座っている少年が2人。
手前には父様と母様、そして兄様。って、父様と母様まで・・・相手の方が上位の家柄だからか。お貴族様ってのはお付き合いも大変なのね。
ひとごとのような感想を抱きつつ、部屋に入った私は「失礼いたします」と声を上げる。
皆がこっちを一斉に見たので、ちょっと緊張する。
おそるおそる片足を斜め後ろに引き、もう片方の足の膝を曲げて身体を落とし、挨拶をする。いわゆるカーテシーというやつだ。
慣れなくてぷるぷるしそうな足を元に戻し、何食わぬ顔で微笑んで見せる。
「ああ、シャルリア。よく来てくれた」
破顔一笑の父様の向こうで、母様が顔だけ穏やかに見せつつ軽くうなずくのがわかった。
・・・合格、かな?
12歳になったのだからこういう機会もあるだろうと、実は母様にはスパルタ教育を受けていたのだ。カーテシーもめちゃくちゃ練習した。
何気なく行われている母様と私の2人だけのお茶会も、後々機会が増えることを見越しての教育の一環だ。
品よくお茶を飲む作法、話題の選び方振り方、皆が楽しめているかの目の配り方。
これぞ貴族令嬢の日常だわ!と結構楽しいのだけど、うまくお茶を飲めないとその日はおやつ抜きになってしまうのが難点だ。
普段は優しいけど、礼儀教育の時にはすごく厳しい母様なのだ。
おかげで私の礼儀作法と教養のステータスはぐんぐん上がってるような気がする。
・・・あくまでも、気がするだけなんだけどね!




