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11.突然の訪問者

ノルディス・ハーディエンス。

この国の宰相を代々務めるハーディエンス侯爵家の次男。ハーディエンス家の初代はこの国の発展を願い、王の片腕としての側近を養成するためにハーディエンス学院を作ったと言われている。土のエレメンタルの強い加護を持ち、かなりの切れ者だったらしい。

その初代を彷彿とさせると評判なのがノルディス。次男なれど、その優秀さで後継ぎである長男の立場を脅かす。本人も上昇志向が強く、出来の悪い人間を嫌悪する嫌味メガネな冷血人間。

だけど、王女であるマリーアンジュの天真爛漫な微笑みと人を差別しない高潔さ、その優秀さに驕り高ぶらない態度に感銘を受け、彼女に終生の忠心を誓う。

・・・つまりは、土のエレメンタルの加護を受けた攻略対象者だ。


そのノルディスが何しに来たの??

アームズって確か長男だっけ。兄弟でうちに来たの?何しに?遊びに?

そんなわけないよね・・・あれ?兄様同士は友達なのかも?


「・・・お嬢様?」

「い、行くわ!支度をするので、お伝えして!」


ニーナに言伝を頼み、部屋着から外出用のドレスに着替える。

相手は侯爵家だ。正装で迎える必要はないけれど、まさか普段着というわけにもいかない。


貴族のお嬢様といえば、手伝いがないと着替え一つできないと思っていたのだけど、それは少し違った。いや、多分もっと高貴な家柄のお貴族様はそうなのかもしれない。

この世界の貴族女性の服装は、ゲームの中では基本制服を着ていたのでよくわからなかったのだけど、お茶会だの舞踏会だのがあるのでドレスが正装だ。

とはいえ、普段はドレスというよりはちょっと上等なワンピース程度なので、ちょっとほっとした。


ただし、ファスナーがないのが問題だ。

ボタンはあるのでボタンで留めるか、あるいは紐で結ぶかといった扱いになるので、それがなかなか一人では難しかったりする。

ああ、だから貴族のお嬢様って1人じゃ着替えられないんだなあと変なことに感心してしまった。


そんなことに思いをはせつつも、首まで覆う胸元と袖と裾に細やかなレースがついた白いワンピースのようなアンダードレスを頭からすっぽりとかぶる。

その後、胸元が大きく開いたデザインの、光沢のあるベロア生地のような紺色のオーバーワンピースをまた頭からかぶり、胸元を紐で編んでいく。前世で靴ひもを編んだ要領で。

これで、外出着程度なら一丁上がりだ。あとは、季節によって素材が変わる。暑い時期は薄くて軽いものになるし、寒い時期は厚くて暖かいものになる。

正装になると、さすがに話は変わってくるが、胸元のレースが増えたり、ドレスの下にふわっと広げるためのパニエをつけたりと、何重にもなるだけともいえる。

そうなってくるとさすがに人の手を借りないわけにはいかなくなるので、貴族令嬢のお着替えはやっぱりなかなか大変なのだ。


あとは軽く白粉をはたき、口紅を直す。

つくづく、この辺りは前世とあまり変わらなくて助かったと心から思う。

ファッションだのメイクだのは苦手部類なので、前世の時から美容部員のお姉さま方にお勧めされるままに購入して、教えてもらったままにメイクする毎日だった。

この世界で新しいファッションの流行を作り出すとか、そんなのは地味喪女だった私には絶対無理。

でも、実はこういったドレスとかめちゃくちゃ着てみたかったのだ!

ゴスロリというか、ごちゃっと重ね着風のドレスが大手振って着れる年齢と世界であることに感謝する。


身支度が整ったので、応接室へ向かう。

歩きながらも、これからノルディスに会うのだということを思い出し、緊張感にごくっと喉を鳴らしてしまった。

ドレスに浮かれている場合じゃない。

初めて出会う、攻略対象。それも学院ではない場所で。

ノルディスの初登場シーンってどんなのだっけな・・・。


考えながら廊下の角を曲がったせいか、目の前に障害物があることに気づくのが一瞬遅れた。

あ、と思った時にはすでに遅く、私はその障害物に正面からつっこんでしまった。

「いたっ」

「あっ」

うつむき加減だったからか、おでこをごちんっとぶつけてしまったようだ。


・・・あ、これって・・・

おでこを押さえつつも、少しだけ目線を上げる。


障害物は、同年代の少年だった。一瞬見た服装はいかにも貴族のお坊ちゃまで、シャツにズボンに上着というよくある服装なのに、素材がいいからかめちゃくちゃ上等そうに見える。

よかった、化粧ついてなくて。こんな高そうな服、汚したら弁償できないわ。

背の高さにあまり差がないからか、どうやらぶつかったのは相手も頭だったようで、後頭部をさすっている。

細いフレームのレンズの向こうから覗く琥珀色の瞳は、鋭い目つきでこちらを見ていた。


見たことある。このスチル、見たことあるぞ。


少年は、目を見開いて固まってしまった私にますます眉をしかめると、その、固く結ばれていた口元から、今度は聞いたことがあるセリフが流れてきた。


「余所見をして人にぶつかるなど、貴族令嬢とは思えない振る舞いだな」


ああ、そうだった。

ゲームの中でも、初対面は彼・・・ノルディスには、ぶつかって怒られたんだった。

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