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24.メインヒロインとの対峙

ついにこの日が来たか。

取り巻きーずも攻略対象者も、それ以外の誰1人としていない状況での遭遇。

入学式ではチュートリアルイベントを無視したけれど、絶対こういった状況になるだろうと予想はしていた。

・・・意外に早かったな、とは思うけど。


目の前に立つメインヒロイン、マリーアンジュ王女様は穏やかにこちらを見ておられる。

条件反射のようにカーテシーをしそうになって、あ、今は制服だと気づく。

制服だということは、必要以上にへりくだる必要はないということだ。

「ごきげんよう、マリーアンジュ王女様」

なので、軽く頭を下げて挨拶するだけにしておく。

私の反応はそれで正解だったようで、彼女はふわっと花が開いたかのような微笑みを見せるとゆっくりと私に近づいた。

「ごきげんよう、シャルリア。昨日は夜会の途中で体調が悪くなったと聞いていたのだけど、もう大丈夫なのかしら?」


・・・マジか。名前をちゃんと覚えてるんだ。

絶句しそうになって、慌てて体面を保つ。

大勢の人から挨拶を受けたであろう園遊会、その時に立った1度だけ挨拶しただけなのに。しかももう1年も前の話だ。

その上、昨日夜会で途中退席したのを知っているのか?

社交界デビューの新人やら、あるいは飲みすぎた辺境貴族やら、熱気にあてられたご夫人やらが倒れて運ばれるのは割とよくある話らしく、私もその中の1人としてほとんど騒ぎにもならなかったはずなのだけど。

ひょっとして、この方は会った人全員を覚えているのだろうか。


「ありがとうございます。ご迷惑とご心配をおかけして申し訳ありません」

そう答えて深々と頭を下げると、ふふっと柔らかい笑い声が聞こえた。

「ううん、元気になったのならいいのよ。でも夏の灯花の宴では、最後に素敵なものが見れるのよ?それは見逃さないようにしなくちゃね」

「・・・お優しい言葉を、ありがとうございます」

邪気の無い笑顔は、その言葉を本心から言っているように見える。

いや、少なくともゲーム内では本心から友達であるシャルリアを思い、ずっと良くしてくれていた。

それを思い出して、必要以上に警戒していたかもしれないと少し反省する。


「昼からは何を受けるの?アデル先生の礼儀作法かしら?」

マリーアンジュ王女様からの質問に、軽くうなずいて掲示板を見ながら答える。

「はい。やはり私などはそこから入るべきかと」

「そうね・・・」

言いながら近づいてきたマリーアンジュ王女様は、細くてまさに白魚のような指を掲示板に滑らせる。

「もう1人の礼儀作法の先生であるソナチネ先生も長年教えておられるだけあって、とてもいい先生なのよ。だけど、やはりアデル先生の生まれながらの環境には大きな利点があるわね」

「・・・確かに。環境は人を育てると言いますしね」

私の返事に、マリーアンジュ王女様は満足そうにうなずいて「その通りね」と同意する。


それからもマリーアンジュ王女様は色々と詳しく講義内容について、教えてくれた。

ゲーム内のチュートリアルでは、本当に基礎の基礎のような話をされたけれど、それとは全然違って聞く価値のある、いや絶対聞いておいた方がいい話ばかりだった。

なので、ずっと気になって考えていたことを相談してみる。

「体術はどうでしょうか?私は体術が苦手・・・というよりやったことがないので、少し重点的に習いたいと思っているのですが」

「そうね・・・全くの初心者はこの基礎訓練から始めるのが普通なのだけど、あなたの場合はこちらの魔力応用の授業を先に取ればいいのではないかしら」


魔力応用?ゲーム内では聞かなかった単語だ。そんな授業、あったっけ?

マリーアンジュ王女様が指さした先は、ちょうど今日の昼からの1コマ目に当たる授業だ。

攻撃魔術訓練、あるいは治癒魔術訓練というほとんどの生徒が取るであろう授業の裏に、ひっそりとたたずんでいるような。

そんな誰も注目してなさそうな授業だった。


「この授業はね、自分の体内にある精霊力・・・つまり魔力を使って体そのものを鍛えようという授業なのよ。魔力の循環を高めることによって、そのようなことも出来ると最近研究が進んできた分野よ」

「あ、なるほど」

RPGなんかでも身体能力アップの魔法はつきものだったしな。

身体を固くしたり動きを早くしたりする魔法で、バフとかエンチャとか呼ばれていた。

自己バフをかけて強敵に挑むのは、戦いの基本だ。

「そうか、自己強化が出来るなら体術面ではかなり助けになりますね」

私が漏らしたつぶやきに、マリーアンジュ王女様は少し目を見開いた後で微笑む。

「・・・正解。あなた、とっても優秀なのね。私の拙い説明で分かってくれるなんて」

「いえいえ、マリーアンジュ王女様の説明、とても分かりやすかったですよ?」

「そうかしら。私もお兄様に教えていただいたのだけど、お兄様の説明の方がわかりやすかったのにと思ってしまうわ」


お兄様。・・・王太子様か。

ホントにいるんだな、とちょっと不敬なことを思ってしまう。

申し訳ないけれどあまりにも存在が希薄すぎて、幻のキャラとしか思えない。

この目の前の王女様が、とても優秀で存在感が大きいからというのもあるだろうけど。

「わかります!私の兄様も優秀なので、いつも自分と照らし合わせて自分にがっかりしちゃうんですよ」

でも、なんとなく王太子様の話をしたマリーアンジュ王女様が寂しそうに見えたので、私も声を明るくして言ってみた。

「まあそうなの?あなたも同じなのね」

ちょっとわざとらしかったかな?と思ったけれど、マリーアンジュ王女様はそう言ってクスクスと笑ってくれたのでまあよしとしよう。


その笑いが収まると、マリーアンジュ王女様は少し真剣な目をして私を見つめた。

「・・・私、今まで会った人の中であなたが一番優秀だと思うわ、シャルリア」

「何を・・・」

買いかぶっておられるんですか、と続けたかったけれどその思いつめたような表情に言葉を飲み込む。

「だからお願い、私と一緒にエレメンタル・プリンセスを目指してくれないかしら?この国のために」


・・・ライバルとして、認めてくれたってことなのかな。

まだ授業すら受けていないのに。たったこれだけの会話しか交わしていないのに。

だけど、私だってこの素晴らしきメインヒロインに負けてはいられない。

そう、たったこれだけの会話なのだけれど改めてそう思ったのだ。


「もとより、そのつもりです」

そう答えて笑ってみせると、マリーアンジュ王女様は一瞬呆けたような表情を見せた後で一気に花開く笑顔を向けてくれた。

「ええ、ええ!一緒に頑張りましょうね!」

思わず、といった感じで差し出してこられたマリーアンジュ王女様の両手を、私も両手でぎゅっと握り返す。

「はい、一緒に頑張りましょう」


仲良くなってしまったら、ゲームの中のように私にとって不利益な出来事が起こるかもしれない。

また、引き立て役として理不尽な役回りをする羽目になるかもしれない。

一瞬そう思わなかったと言えばうそになる。

だけど、マリーアンジュ王女様にあんなに真剣に頼まれたら、断れるわけないよね。

王女様だから、とかじゃなくて心の底から助けを求めている人にお願いされて、断るだなんてヒロイン失格だよ!

私だってメインじゃないけど、ヒロインなんだからね!


あらためて覚悟を決めた私に、マリーアンジュ王女様は嬉しそうな笑みを向ける。

「ねえ、あなたのこと、デイジーがシャルって呼んでいたでしょう?私もそう呼んでもいいかしら?」

「ええ、もちろん」

「ありがとう!どうか、私のこともマリーと呼んでね」

「ありがとうございます、マリー王女様」

ためらいもなくすんなりとそう呼んだ私に、嬉しそうな顔を見せつつもマリー王女は「本当は王女様もいらないのだけれど・・・」と肩を落とされる。

いや、さすがにそれは無理だよね。王女様本人が良くても、周りが許さないよ。


「じゃあシャル、どうぞこれからよろしくね」

「はい、マリー王女様。これからよろしくお願いします」

そう言ってお互い微笑み合った瞬間、時が動き出した。

いや、別に時は止まってなどいなかったのだけれど。

だけど、まさしく動き出したと言わんばかりのタイミングで、あちらこちらから生徒たちのざわめきや喧騒が聞こえてきた。

今更ながら人影がちらほら見え始め、昼飯が終わったであろう生徒たちが行きかい始めた。

これも、ゲームの強制力なのだろうか。

それとも、私とマリー王女様を親しくさせたかった何かの力なのだろうか。


「ま、マリー王女様!」

不意にかけられた声。そちらを見ると、急いでやって来たのか、少し肩で息をしているカリーナ様の姿があった。

「お、お席の準備が、と、整っております!」

意気込んで言う彼女に、マリー王女様がまあ、と頬に手をあてられる。

「少し遅れるから、待ってなくてもいいって言わなかったかしら」

「いえ!その、イザベラ様が、絶対待たなければ、と・・・」

「まあ・・・そうなの、ごめんなさい。すぐ行くわね」


・・・マリー王女様も大変だな。

取り巻きーずも一生懸命なのだろうけど、多分あまり王女自身は気を使って欲しくないのだろうに。

それでもいくら学院内とはいえ、王女様を呼び捨てには出来ないし、敬語もやめるわけにはいかない。気を使われて当然な部分はいっぱいある。

そういうのをすべて飲み込んで、それでも優雅に振舞わなければいけない立場には頭が下がる思いだ。


「では、私はこちらで失礼いたします」

そう言って頭を下げると、マリー王女様は「シャル、あなたも一緒にお昼をどうかしら?」と誘ってくださった。

「ありがとうございます。ですが、先ほど王城にて美味しいお昼を頂きましたので」

「まあ、そうだったわね。お口にあったのならよかったわ」

そう言って笑うと、マリー王女様は「ではまたあとでね」と可愛らしく手を振って、食堂の方へと向かわれた。

見送っていたら、あっけにとられた様子でこちらを見ていたカリーナ様と目が合う。


・・・ね。「ご学友」なんて肩書には、意味なんてないんだよ。

王女様は聡明な方だから、押し付けられた「ご学友」を否定はされないだろうけど、こうやって新しく「ご学友」を増やすことは自分の意志でなさる。人形じゃないんだから。

イザベラ様やアンジェリカ様、カリーナ様だけじゃなくてどんどんとお付き合いの輪が広がるだろうし、それについて行くのも置いて行かれるのも結局は自分次第なんだ。

あくまでもマリー王女様はきっかけを作ってくれるだけで、後の努力は自分でするしかないんだよね。

ぷい、と視線を逸らせて慌ててマリー王女様を追いかけて行った、カリーナ様を見ながらそう思う。


さて。それにしても、いいことを教えてもらった。

魔力応用か。自己バフをかけるための授業なら、ぜひ受けておくべきだな。

さっそく私は魔力応用の教室を確かめ、そちらに向かって軽い足取りで歩いて行ったのだった。

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