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23.反省と遭遇

・・・我ながらバカすぎる。


ふっかふかのお布団と、ふっかふかの枕にうずもれながら、私は深いため息をついた。

またやってしまった。もうゼファス様関連で気を失うのはどうにかしようと思っていたのにもかかわらず、だ。

いや、でもあれはないよね?!

前世、というかゲームの中でも愛称でなんか呼んでもらえなかったし、あんな風にすぐ近くで照れくさそうな顔で低いいい声で「シャル」なんて・・・。

思い出すと顔に熱が集まるのがわかる。これはだめだ。

思わず顔を枕に伏せてジタバタしてしまう。

そしてまた仰向きにもどって、再びため息。


・・・さすが王城は天井も趣がある。

古いけどシミや汚れもない、ただただ伝統と歴史を感じさせる建物だ。

その中の一室、いつも滞在している部屋ではなくてより中枢に近い部分。

そこへ私は昨日の夜、運び込まれた。・・・らしい。

あのまま朝までぐっすり眠ってしまっていたらしく、起きた時にはどこにいるのか全く分からなかったからだ。

私が目覚めたことに気づいた母様が王城の侍女さんに声をかけると、部屋を出て行ってお医者さんらしき人を連れて戻ってきてくれた。

おじいちゃんなその先生は、私の目とか手とかを見たり触ったりした上で、「初めての夜会で緊張したんですな」とふぉふぉふぉと優しく笑われた。

違うんだけど、ひょっとしたらそれもあるかもしれないって思っておこう。


どうやらずっと付き添っていてくれたらしい母様と、別の部屋で一晩心配そうにしていたらしい父様がほっと肩を下ろす。

「シャルでも緊張するんだな」なんて笑う父様と、「とにかく不摂生はしない様に」という母様に注意を受け、そして2人は領地へと戻って行った。


ならばと慌てて学院へ行くためにと寮に戻りたかったのだけれど、それは意外な人の登場により阻止されてしまった。

「シャル!」

「・・・リンナ様!」

王城侍女さんに案内されて、リンナ様がわざわざいらしてくれたのだ。

昨日、王城の一室へと早めに引っ込まれたという話は聞いていた。

どうやら部屋が近かったらしく、昨日私を運び込んだ後でデイジーがリンナ様の部屋に寄って話をしたのだとか。


その話によると、私が倒れたことで当然一緒にいた面々は慌てたものの、初めての夜会で慣れない社交界デビュー組が倒れることはままあるらしい。

なのでそういった場合の対応もわかっていたデイジーが、警備の騎士団の人に声をかけてくれて、さっと運び出してくれたのだとか。

幸いデイジーの素早い動きで皆がパニックにはならなかったことと、場所が端っこだったというものあり、特には周囲に混乱を与えることなく芽吹きの宴はつつがなく終了したらしい。

それは本当に助かった。デイジーにはお礼を言っておかないと。


リンナ様は私が初めての夜会で緊張した、という情報をそのまま受け止められ、自分と重ね合わせられたらしい。

泣きそうな顔で「大丈夫よ」とおっしゃってくださり、申し訳ないやら・・・。

まさか推しの笑顔と愛称呼びに撃沈したとは言えず、せめて午前中はここでゆっくりさせてもらいなさいの言葉にも抵抗できなかった。

あとで早めのお昼を一緒にいただきましょう、と言われて今この状態だ。


自分が悪いとはいえ、入学して一番最初の授業日をさぼることになってしまい、落ち着かない。

今日から1週間ほどは履修準備期間であり、本格的な授業はまだ始まらないのが救いか。

あちこち好きな授業を受けつつ、自分に必要だと思われる授業内容を取捨選択していく期間なので、どの授業でも大まかな1年間の流れやさわりの内容になるはずだ。

いや、それはそれで結構大事な内容なので、受けたかったことには変わりはないのだけど。

午後からは出られるみたいなので、とりあえず今はゆっくりするしかないか。


しばらくしてもう一度お医者さんの診察を受け、熱もないし大丈夫でしょうと言われたので着替える。

先ほど、お願いしていた制服が寮から届いたのだ。

学院はすぐそこだとはいえ、わざわざ持ってきてもらって申し訳ないと言ったものの、これも仕事ですからと王城侍女さんからプロの笑顔が返ってきた。さすがだ。

お昼ご飯の準備が出来たとのことで、食事と一緒にリンナ様もまた部屋に来てくださった。

2人で美味しく食べながら話をしていると、アンドレア侯爵様も覗きに来られた。

私が制服姿なのでびっくりされていたけれど、もう大丈夫なので昼から学院へ行くと言うとならば送って行こうと言ってくださった。

当然遠慮したんだけど、どうせ昼から学院へ指導に行く予定だったのだからと言われてしまったら仕方がない。


「落ち着いたら、ぜひうちに遊びに来てね」

そう言い残して馬車で邸へと戻られるリンナ様を、アンドレア侯爵様と2人で見送る。

その後、学院へと戻る馬車の中で不意にアンドレア侯爵様は私をまじまじと見つめられた。

「シャルは、まだ婚約者はいないのだったか?」

この一家はすっかりシャル呼びが定着しちゃったな、と思いつつ返事をする。

「はい、そういったお話はまだ受けておりません」

「ふむ・・・」

・・・?なんだろう。うちに嫁に来てくれとか?

さすがにアンドレア侯爵様とあろう人が、そんなことは言わないか。

一瞬身構えたものの、ないないと心の中で手を振って否定する。

だけど、その後に続いた言葉はもっと予想外だった。


「・・・王太子殿下の婚約者候補に、名を連ねる気はないか?」


・・・。

・・・・・・え?

開いた口がふさがらないとはこのことか。

口の代わりに目を大きく開いて、向かいに座るアンドレア侯爵様を見る。

「・・・婚約者候補を選定しているのは、王女殿下ではないのですか?」

やっとのことでそう口に出すと、アンドレア侯爵様は苦々しげな顔でうなずく。

「そうだ。今年中には発表になる」

おお、そうなんだ。

「ただ、そのことに対して『王配候補』などと不敬なことを言いだす輩がおってな」

・・・それはちらほら聞いていた話だな。

国の治安を守るアンドレア侯爵様としては、そういった国内に余計な争いごとが起きそうな発言は許しがたいのだろう。

「同時に、王太子殿下の婚約者候補も発表する方が混乱は少ないだろうという話が出ている」


それはそうかもしれない。

マリーアンジュ王女様の婚約者候補だけ発表になったら、「王太子様は?」ってなる可能性も高い。

ましてやそれが「王配候補だ」なんて噂でもたてば、下手したら国は王女様派と王太子様派に分かれかねない。それだけは何としても避けたいだろう。

一緒に発表しておけば、少なくとも適齢期の子息子女を持つ有力貴族たちは、そちらに意識が向かうわけだし。

とはいえ、顔も見たことない王太子殿下の婚約者候補?

ありがたいんだかなんなのか。正直微妙だなあ。


「もちろん、この辺りのことはまだ不確定なのだが・・・もし、話が来たらぜひ受けてもらえればありがたい」

「辺境の一伯爵家令嬢に過ぎない私に、話など来ますか?」

それが不思議で問いかけると、アンドレア侯爵様は視線をあちこちさ迷わせながら「それはまあ、こちらでどうにかすれば・・・」ともごもごおっしゃった。

・・・怪しい。何を企んでいるのだろう。

不敬だとは思いつつもじとーっとした目で侯爵様を見つめると、その厳ついおひげをしょぼんと下げつつ侯爵様はおっしゃった。

「いや、その、王太子殿下の婚約者候補だったといえば、うちにも嫁にもらいやすいだろう?」


やっぱりそれか!ありがたいけど、遠慮します!


いやだって君はリンナのお気に入りだから、とかなんとか言い募るアンドレア侯爵様をハイハイとあしらってるうちに、馬車はハーディエンス学院へと到着した。

自分の息子じゃなくて、妻と合う者を一番にと考えているのはいかにもアンドレア侯爵様らしいけど、少しはラルフィード様の気持ちも尊重してあげて欲しい。

考えておいてくれ、な!と言い残して、演習場へと向かうアンドレア侯爵様に一礼して、私は校舎へと向かう。

おそらくこの時間なら、昼休みが始まったばかりの頃だ。

何気ない感じで午後からの授業に参加するには、ちょうどいい時間だろう。

とりあえずは、まず昨日一緒にいた面々に会って謝らなければ。


真っ直ぐ食堂に向かいかけて、ちょっとためらう。

多分今から昼食を食べる人がほとんどだろうから、私が現れて話をすると邪魔になるだろう。もう少し時間をおいてから行った方がいいかな。

そうだ!履修の確認をしよう。昼からの2コマ、何を取るのかまだ決めかねているんだった。


履修掲示板へと赴き、昼からの授業を確認する。

やっぱり礼儀作法はいるよね・・・でも、アデル先生ってのがなあ。

他の先生の方がいいんだけど、そっちの授業はモーリス先生の地理歴史に丸かぶりなんだよね。やっぱりここは、アデル先生を選ぶしかないか。

もう1つはどうしようかな。

治癒魔術かそれとも・・・。


履修掲示板と言えば、大学で言う教務課の掲示板のようなものだ。

重要なことがすべてそこに張り出してある。休講だとか時間割変更だとか。

だからまず登校したらそこへいき、張り出してある内容を確認する。それが大学時代の私の毎日のルーティンだった。

なので、ハーディエンス学院でも常にこの掲示板の前には人がいるのだ。

ゲーム内でも背景ではあったけど、何人かの姿が描かれていた。


だから、おかしいと思わなければならなかったのだ。

なぜ、人が他に誰も居ないのか。昼休みが始まったばかりではあるけれど、食堂に行く人早くも帰る人、そして私と同じく昼からの授業を確認する人。

そんな学院生たちがいっぱいいてもおかしくないのに、誰一人としていなかった。

その状況をおかしいと思わずにその場にとどまり続けてしまったのは、これもひょっとしたら『ゲームの強制力』なのだろうか。


「あら、履修に関して何か困っているのかしら?」


後ろからかけられた声。鈴を転がすような、澄んだ高い響き。

そんな美しい声の持ち主は、この国・・・いやこの世界には1人しかいない。

覚悟を決めて、振り向く。そして、思った通りの人物が立っていることを確認する。


マリーアンジュ・ディア・フランズベルト。

『エレプリ』メインヒロインとの1対1の遭遇だった。

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