21.転生仲間
やっぱり、マウリは転生者だった。
しかも、なんとまだ高校生だったとか。若いよ!若すぎるよ!
そりゃあさぞかし、ご家族の方々は悲しんだだろうなあ・・・。
妹のための攻略本、のくだりでは泣きそうになっちゃった。
ごまかすために「攻略本、私も見たかった」って言ったら呆れられたけど。
「ひょっとして、主人公って君なの?」
そうマウリに聞かれたけど、首を振って答えた。
「わからない。私がつけた主人公の名前がシャルリアだけど、マウリの妹さんがつけた名前は違ったんでしょ?」
「ああ。立場的に、カリーナ殿かなって思ってたんだけど」
「確かに、立場で言うならカリーナ様だと私も思う」
うーん、と2人同時に唸ってしまう。
そもそも自分が主人公なのかどうかなんて、考えてなかったよ。
自分でつけた名前の少女に転生したから、私はサブヒロインだ!って思いこんでいたけど。
ひょっとしてカリーナ様も転生者で、あっちもあっちで私がヒロイン!とか思ってたりして・・・いや、ありうるよね?
この狭い社会に、私とマウリという2人の転生者が揃っちゃってるんだから。
「主人公かどうかはわからないけど」
私は口に出して自分の思いを告げる。そろそろ、曲が終わりそうだ。
「私は、エレメンタル・プリンセス目指して頑張るつもりよ」
そう宣言すると同時に曲が終わり、私たちは少し離れてお互い礼をする。
顔を上げると、マウリは真っ直ぐに私を見て深くうなずいた。
「ん、応援する。何かあったらいつでも頼ってくれ」
それからちょっと切なそうに笑って、「妹のゲームだって俺が手伝うてやったんや」と言った。
マウリの遠くにいる家族を思う気持ちが痛いほどわかるだけに、少し辛い。
「・・・なんか食べる?」
少し沈んだ空気を払うように、マウリが聞いてくる。
「うん。この世界のご飯、結構おいしいよね」
「それは僕も思った」
ダンスをしながらの内緒話はなかなか重労働で、一気に疲れてしまった。
それはマウリも同じだったみたいで、私たちは近くの料理台へと向かう。
「僕の話ばっかりで、シャルの話は聞いてないんだけど」
「そのうち話すよ。長いよ、結構」
「え、そうなの?俺は攻略キャラとして出てくるの?」
「出てこない」
「まじかー」
そんな風に軽く言葉を交わしながら、お互い料理を取る。
私はようやく出てきたスイーツをメインに、マウリはがっつりお肉を取っていた。
さて、ではどこで食べる?と思った時だった。
「シャル!」
不意にかけられた声に振り返ると、デイジーが立っていた。
あれ?ノルディスもいる。珍しい組み合わせだ。
「こんばんは、デイジー。今日のドレスは素晴らしく綺麗で、あなたをますます素敵に見せてますね。お似合いですよ」
さっそくマウリが料理を置いてデイジーの手を取り、そう言って褒める。
いや、すごいなマウリは。前世が高校生ってほんとなの?今どきの高校生って、みんなこんなに口が上手いの?
ちょっと感心していると、デイジーが嬉しそうに笑った。
「ありがとう、マウリ。ハーディエンス侯爵夫人のお見立てで、ドレスのデザインの大本はシャルが考えてくれたんだよ」
誇らしそうにしながらも、ちゃんとアムリータ様と私を立ててくれる。さすがデイジー。
「裾が広がっているからか、思ったより歩きやすいし踊りやすいよ」
満足げに笑ってくれるデイジーに、こっちも嬉しくなる。
本当によく似合っていて、このデザインを勧めた私としても大満足だよ!
「そうなの?シャル。いいセンスしてるね」
マウリが小さくグッジョブと言いながら親指を立てている。お褒めにあずかりなによりです。
ところで、と私はやって来た2人を見比べて首をかしげる。
「デイジーとノルディスが一緒なのって珍しいね。どしたの?」
そう言うと、マウリが横で目を見開いた。
「シャル、ノルディスと知り合いなのか?!いつの間に?」
あ、そうか。
マウリからしてみれば、なんで辺境伯爵家の私が天下のハーディエンス家の次男、ノルディスと知り合いなのかって謎だよね。
それに、もちろん攻略対象なのは入学式の時に思い出したって言ってたからな。
「えーっと。実は遠い親戚なの」
もう、全部これでごまかすことにしている。話せば長くなるだけだから。
その内マウリには、その辺のことも話すかもしれないけどさ。
「・・・私も、驚いたのだが」
と、ノルディス。
あれ?心なしか、ちょっと機嫌悪い?
冷たそうに見えて実はいつも柔らかく細められている瞳が、なんだか険しい気がする。
「まさか、君たちが一緒にダンスを踊るほど仲が良いのだとは知らなかったよ」
そう言われても困るな。別に、仲が良いから踊ったってわけでもないんだけど。
ただ、デイジーがちょっと目をキラキラさせてるから、どうやらマウリは誤解されたくないらしくて慌てて言う。
「僕もせっかくだから踊ってみようと思って。そしたら、たまたまシャルがいたからさ」
「・・・そうだね。なんか、たまたま『踊る?』みたいな感じでね」
本当のことは言えないから、そんな風に言っておく。
「私たちも、近くで踊っていたんだよ。気づかなかった?」
あいまいな説明だけど納得したのか、デイジーがそう言った。
え、全然気づかなかったな。
「・・・何か、ずっと話をしていたようだったな」
ますます低くなるノルディスの声。だからなんでそんなに機嫌悪いのよ?
「あー・・・僕がね、ずっとシャルに相談してたんだ。その、デイジーをダンスに誘えるほどのダンスの腕かなあ、って」
おっと!マウリがなかなかいい言い訳をしてくれた。
しかも、さりげなくデイジーをダンスへ誘いたい意思を示すなんて、やるじゃないか!
「私を誘ってくれるの?」
少し照れたように笑うデイジー。可愛いなあ。
マウリも言ったもののそんな可愛い反応が返ってくるとは思わなかったみたいで、顔を赤くして「いや、その・・・」なんてもごもご言ってる。
そんな2人をニヤニヤしながら見ていたら、ノルディスが「・・・そうだったのか」と小さくつぶやいてフッと笑った。
ん、なんか機嫌治ったのかな?いつもの彼らしい顔に戻ってる。
それから、デイジーを見て言う。
「私もずっと見ていたが、マウリはダンスが上手い方だと思ったが」
お、援護射撃?マウリも目を輝かせている。
それから意を決したように、マウリはデイジーに向かってダンスの申し込みをする。
デイジーは快く了承したけれど、踊り続けていたとのことで少し休憩するために私たちはテーブルに移動した。
私とデイジーは園遊会の時のように、王城のスイーツに舌鼓を打つ。
「やっぱりこのレモンパイが一番おいしいと思う」
「私はもう少し甘くてもいいな」
デイジーは意外に甘党だ。そんなところも可愛いと思う。
ノルディスとマウリはローストビーフを食べている。いや、やっぱりそこだよね、って思う。
マウリもノルディスというキャラに元々好感を持っていたようで、2人は親し気に話をしている。
ゲームの中では堅物で友人から遠巻きにされていた印象だったけど、よかったな。
デイジーはアンドレア侯爵様、ラルフィード様と続けて踊って、その次となるとダンスの申し込みが殺到したらしい。さすがだ。
家柄ももちろんいいんだけど、今日のデイジーは本当に綺麗だからな。
で、困っていたところにアンドレア侯爵の鶴の一声で次の相手が決まったのだ。
「それがアームズ様だったんだよ」
「へえ!そうなんだ」
どうやらこうなることを見越していたらしいアンドレア侯爵様が、事前にアームズ様にお願いしていたのだとか。
アームズ様が相手ならば他の面々は引くしかなくて、アームズ様にとっても「お相手かく乱作戦」を決行するにはデイジーは良いお相手だったということらしい。なるほど。
そしてそれはノルディスも一緒で、アームズ様の次にデイジーと踊り、次の申し込みが来る前にその場から離れようと料理台の方へ来たのだとか。
「そうだったんだ。ごめんね、デイジー。やっと休憩しようと思ってたのに僕が申しこんで」
マウリがしょんぼりして言うと、デイジーは笑って首を振る。
「いいんだ、あともう少し誰かと踊らなきゃいけなかったからね。知らない誰かと踊るより、マウリと踊る方が楽しそうだから」
そう言われてマウリも顔を輝かせる。うんうん、よかったね。
デイジーも色々な相手と踊るように言われているらしく、やっぱり高位貴族の方々は無駄に苦労が多いのだなあとちょっと同情する。
じゃあ行こうか、とデイジーたち2人が楽し気にダンスフロアの方へ行くのを見送りながら「好きな相手とだけ踊ってられたらいいのにね」とつぶやく。
意外にもノルディスから「そうだな」としみじみした口調で返事が返ってきた。
「あれ、珍しい。貴族令嬢とは、社交のためにも色々な相手と踊ってうんぬん、とかって言わないの?」
からかうように言ってみたけれど、ノルディスは目を閉じて肩を落とす。
「そう思っていたけどな。自分はともかく、相手がだれかと踊っているのを見ることがこんなにきついとは知らなかった」
相手?・・・ああ、好きな相手ってことか。
まあ、確かにマリーアンジュ王女様はアームズ様、ラルフィード様と踊って、最後にはクレイモス公爵様と踊るんだっけ?
自分より明らかに立場が上な人たちと次々に好きな相手が踊られたら、そりゃあめげるよね。
「さすがに王女様とあろう方がずっと1人とは踊れないものね。わかってても辛いよね」
気持ちはわかるようんうん、とうなずいてたら「・・・わかってないのはわかっていたが」と特大のため息をつかれた。
いや、わかってるって言ったのに。なんなの。
「・・・ところで。その、私もまだ誰かと踊る必要があるのだが・・・」
ノルディスがそう言いかけた時、「シャル!」と声が飛んできた。
声の方を見ると、やあ!と片手を上げたラルフィード様・・・と、クリシュナ様?!
おっと、まさかのクリシュナ様登場とは。
さすがにこの間の「お見かけした」レベルの遭遇ではないので、少し姿勢を正す。
飲み物片手にテーブルまでやってきたラルフィード様は、「探したよ!」と軽くおっしゃる。
「探していただいたんですか?すみません」
頭を下げると、ラルフィード様は「あ、いや、謝ってもらうことでもないんだ」と慌てた様子で言われた。
「母上がね、シャルに会いたがってたからさ。だけど、父上が今日はもうこの辺で休みなさいって王城に借りた部屋に母上を連れて行っちゃって」
「え、そうなんですか?!」
「うん。デイジーも楽しそうにしてるし、俺もいるし、父上も母様を部屋まで送ったらすぐ戻られるし、大丈夫だろうって母上も安心しておられたよ」
「ならよかったです」
リンナ様のことはずっと気になっていたんだけど、私自身初の夜会でいっぱいいっぱいだったし、やっぱりアンドレア侯爵家の方々には早々近寄れないしでご挨拶すら出来なかったんだよねえ。
「もう王都に住んでいるんだから、休みの日に遊びに来てもらおうって父上が言ってたからさ。母上もそれで納得してたよ」
「本当ですか?わーい、喜んで!」
胸の前でパチンと手を合わせてそういうと、ラルフィード様は目を細めてうなずいてくれた。
「・・・ラルフ。そろそろ僕にもそちらの可愛らしいお嬢さんを紹介してくれないかな」
柔らかな穏やかなイケメンボイス。おお、本物のクリシュナ様だと今更思う。
しかも、可愛らしいお嬢さんだって!社交辞令も完璧ぃ!
「あ!そうだった。彼女はシャル。シェアトの妹で、デイジーの友達でもあるんだ」
「シャルリア・フロンターレと申します。よろしくお見知りおきください」
本日何回目?というレベルのカーテシーをする。
「こっちは俺の友達で、クリスだ」
「クリシュナ・リンドグレーンです。こちらこそよろしくね、可愛い人」
クリシュナ様は私の手を取り、つややかに微笑む。ひぃ、美しすぎて逆に怖い。
ノルディスとクリシュナ様はさすがに高位貴族同志知り合いだったらしく、軽く挨拶をかわしておられた。
と、ラルフィード様が誰かに気づいたようで、私の後ろ辺りに向かって「やあ!」と手を上げた。
「・・・こんばんは」
その、低い声に振り向かなくても誰なのかがわかる。
私は軽く深呼吸して、出来るだけ優雅に振り向いた。
思っていた通りの人がそこには立っていた。
礼服に身を固めた、少し大人っぽい姿のゼファス様が。
なんだこれ。
何で私、攻略対象に囲まれちゃってるんだろう。
明日は日曜日なのでお休みします。
また月曜日から投稿再開しますので、よろしくお願いします。




