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20.これが流行りの転生ってやつ? (マウリ視点)

事故及び血の表現があります。

苦手な方はお気を付けください。

俺の名前は神凪勇斗。17歳、高校2年生。

サッカー部所属のナイスガイで、好きなものはゲームとマンガと母ちゃんのカレー。

結衣っていう生意気な中学生の妹がいて、「兄ちゃん、これどうすればクリアできると思う?」って今やってる乙女ゲームの攻略を聞いてきた。

俺かってさすがに乙女ゲームはわからん!と思いつつプレイしてみたんやけど、意外に面白くてなんかハマってしまいそうや。


このライバルキャラの王女様が可愛いのなんのって!こんなんライバルやったら、まず勝つんは無理やろ?って言ったら、結衣にはどつかれた。

今やってるのはどうもハードモードらしくて、この王女様を倒していい男をゲットしなあかん。でも、それはいくらなんでも無理やろ。しょっぼい主人公やもん。

仕方ないから、学校の帰りに本屋で攻略本を買ってきた。妹のためにここまでするいいお兄ちゃん、そうそうおらんと思うねんけどな!


でも結局、妹の喜ぶ顔は見れんかった。

その帰りに、トラックにひかれてしもたからな。

ボロボロになった自転車と、ボロボロになった攻略本。

あ、母ちゃんと結衣に怒られるなって思ったんが最後の記憶。



そのことを思い出したのは、馬車にぶつかりかけて軽いけがをした時だった。

軽いけがと言っても、ショックで気を失っていたみたいだ。

「俺、助かったんか?母ちゃんは?結衣は?」

目が覚めた時にベッドの周りにいた見知らぬ人たちにそう訴えると、その人たちは顔を青くして何かを叫んできた。

・・・何言うてんのかわからん、何語や?ちゅーか、どこやここ。

病院やない。どこか、知らん金持ちの家か?まるでお屋敷みたいな感じで。

なんだか頭がぼんやりして、記憶があやふやになる。

全然知らん場所のはずやのに、何か知っている気もする。


「・・・リ・・・マウリ!マウリッツ!」

さっきから、必死で俺の肩を揺さぶるこのおばさんは誰や?

泣いてしもてるし。誰や、泣かせたんは!あ、俺か。

マウリ・・・マウリか。ずっとそう呼ばれてた気がする。

頭の中が少しずつはっきりしてきて、泣いているのは自分の母親だと気づいた。

「・・・母上?」

口から自然に、そんな言葉が漏れる。


母上、やって。何すかしとんねん!

頭の中で誰かが笑う。

うるさいな、ちょっと黙っててくれよ。

大好きな母上が泣いてるんだ。ほら、兄様も姉様たちも泣いてるじゃないか。

父上は泣いてないけど、ただ心配そうな顔で僕をじっと見ている。

「父上・・・ロディ兄様、ミーナ姉様、マリア姉様」

順番に名前を呼んでみる。マウリ、と囁くような声が返ってくる。

「はい。僕はマウリです。心配かけてごめんなさい」


「俺」神凪勇斗と、「僕」マウリッツ・モントレーの意識が一つになった瞬間だった。


どうも、あの自転車の事故で「俺」は死んでしまったようだ。

最初は、どこか外国のお坊ちゃんに生まれ変わったのかなって思っていた。

だけど、すぐに気づいた。あ、ここは地球じゃなくってどこか違う世界なんだって。

だって、魔術というものが存在したから。

初めて兄様にそれを見せてもらった時はびっくりしたけれど、同時に思ったんだ。

これって、ひょっとして「転生したら最強だった」系の異世界転生じゃねーの?って。

流行ってたからアニメや漫画でめちゃくちゃ見てたし、すぐわかった。

まあ、残念ながらそんなうまい話じゃなかったけどね。

モンスターなんてほとんど現れないし、よってそれを討伐するモンスターハンターなんかもいないらしい。平和な世界だけど、ちょっとつまらないなと思う。

なので「転生スキルで俺つえー」は無理らしいと分かって、早々に諦めた。

そもそも転生特典のスキルとかそんなものは1つももらってなかったので、無理だけど。

その頃ちょうどアルと知り合ったのもあって、僕は普通に2度目の人生を楽しむことにしたんだ。


だから、アルに王都で流行りの土産物だと言って王女殿下の肖像画を見せられた時はびっくりした。

あれ?これって、あのゲームの可愛いライバルキャラじゃね?って。

マリーアンジュ・ディア・フランズベルト。うん、なんだかそんな名前だった気がする。

なんとここは、あの乙女ゲームの世界だったのだ!

・・・って、知らんがなって感じだけど。そこまで思い入れがあったわけでもないのに、なぜこの世界に転生したのかがよくわからない。

どうせなら、モンハンとかFFとかそういう世界に転生したかったなあ。

それでもせっかく剣と魔法が存在する世界に生まれたのだからとお願いして、ロディ兄様が学院から戻ってきてる時は剣の練習を一緒にさせてもらった。

さすがに魔術は教えてもらえなかったけど、僕はあんまり魔法使い系のキャラは育ててなかったからまあいいかな。


僕の住むモントレー領は、隣国のハイゴッサムへ続く大きな街道が走っており、いわゆる宿場町として栄えている。

領地の半分ぐらいは山なので、ハイゴッサムへ行くにはここを通るしかないのだ。

うちとハイゴッサムの間にアルが住んでいるラングドン領がある。そして、反対側がエスタンス領。この3つの領地はそれぞれ山間で、それぞれの領の一番栄えている場所が全部モントレー領に繋がっている感じだ。

商会を営んでいるアルのとこは、必ずうちで荷物の整理や商売品の売買をする。そしてエスタンス領の名産である茶葉もうちへ持ち込まれてラングドン商会が王都へと持っていく。

そんな流れがすでに出来ていて、僕とアル、それからエスタンス領のパティはすぐに仲良くなった。


アルといたずらしてはパティを巻き込んで怒られたり、アルのパティに対する想いをからかったり。兄様や姉様たちと王都まで一緒に遊びに行ったりして毎日が過ぎた。

コンビニも本屋もゲーセンも何もない場所だったけど、それでもこの世界の暮らしはなかなか楽しかった。

だから、ここが乙女ゲームの世界だなんて完全に忘れていたんだ。

園遊会に出た時にも、アルは色々と誰や彼やと教えてくれていて、その中には聞いたことある名前の人もいたのだけれど。

自分には関係ない、とばかりにすっかり聞き流していた。


あの日、入学式の朝。

いかにも商人の息子らしく、常に早めに行動をするアルに連れられて、僕たちはまだあまり人がいない講堂の前へとやって来た。

桜が咲いている。・・・なんだか、見たことがある景色のような気がする。

そして、制服姿で歩いてくる美少女。

「マリーアンジュ王女殿下だ。園遊会でもお見かけしただろ」

アルが囁く。

うん、確かにお見かけした。でも、ドレス姿だったし遠目だったからいまいちピンと来てなかったんだ。


あの方はまさしく、あの乙女ゲームのライバルキャラだ。妹が、結衣が、何度やっても倒せないって言ってたキャラだ。

実際に見てもやっぱりめちゃくちゃ可愛くて、なんか全身光ってる気がする。

これは勝てへんわ、結衣。お前、あのゲームクリアするん無理やで。

攻略本、ちゃんと渡されへんかったからなあ。

ボロボロになった攻略本に、俺から流れ出た血が染み込んでいく。

あれは読めんよな。母ちゃんにまた買ってもらったらええねん。

いや、それは出来ひんか。俺の事を思い出すって言うてあいつは泣くやろうなあ。

なんだか喉がカラカラだ。目の前が霞んで、泣きたいのに泣けない。


「お、おいマウリ!顔真っ青だぞ、大丈夫か?」

「・・・ああ・・・喉が渇いただけや・・・」

「水持ってきてやる!」

弾かれたように走っていくアル。心配をかけてしもたみたいや。

ずっと長い間忘れていたというのに、今また急に思い出した前世の記憶に引っ張られて、なんだか気が遠くなりそうだ。

いや、すでに一瞬気が遠くなったみたいだ。身体がふらつく。

「おい!」

誰かがそう声をかけてくれて、ようやく周りの景色に色が戻ってきた。


ごめん、と謝って支えてもらった体を立て直す。

大丈夫か、医務室へ向かうかという言葉が辛うじて聞こえる。

こんなところで倒れるわけにいかない。力を振り絞って答える。

「いや、大丈夫だよ。ちょっと緊張しちゃって・・・」

ごまかし笑いをしつつ、助けてくれた相手の顔を見る。

・・・あれ。ひょっとして・・・。

目の前にいる2人の男子生徒、どちらにも見覚えがある。画面越しにだけど。

その時にちょうどアルが戻って来たので、とりあえず喉の渇きを潤わせてもらう。


「君たちもありがとう。その、えっと」

見覚えのある2人に向き直ってお礼を言ったものの、後の言葉が続かない。

まさか、君たちは乙女ゲームに出てきましたか、なんて聞けるわけがないし。

ひょっとしたら記憶違いで、別にゲームとは関係ない世界という可能性だってまだ残っている。

でも隣のアルがひどく慌てていて、どうやら僕はなんだかとんでもない人たちに助けられたようだ。

改まった態度で自己紹介するアルに、僕も習って同じようにする。

そうしたら、僕を助けてくれた2人も自己紹介してくれた。


ノルディス・ハーディエンス。ゼファス・アルトゥース。

・・・記憶にある。結衣が言ってたな・・・土のノルディス様、と風のゼファス様、だ。

やっぱりここはゲームの世界で間違いないのか。そう思う「俺」の意識。

そして、ハーディエンス侯爵家とアルトゥース侯爵家と言えば、国内屈指の大貴族じゃないか!と驚く「僕」の意識。

その2つの意識が混ざり合って、どうしていいのかわからずにただ彼らを見ているだけだった。

なんだかまた、気が遠くなりそうだ。


そんなことを思っていた僕に気づいたのか、ゼファス様とノルディス様が次々に言葉をかけてくれた。

2人曰く、ここは学院なので皆平等であり、身分差を気にする必要などないと。

・・・俺は結構、こいつらが好きだった。

ゲームをプレイ中、上の学年の2人はなんだかチャラチャラしてて好きになれなかったけど、同学年のこの2人はなかなかいい男なんじゃないのかって思ってた。

その当時の俺の友人にも無口で男らしくて、でも不器用な奴がいたり、頭が良くて真面目なくせに時々一緒にアホなことをやってくれる奴がいたり。

もし俺がこの主人公の同級生だったら、こっちをお勧めするんだがなって考えたりもした。

だから彼らが信じて欲しい、と言った時には無条件で信じることにしたんだ。

アルは困ってたようだけど、僕はこの2人と友人になりたかったから。


この世界は、あのゲームの世界だ。それは間違いない。

だとすると、主人公は一体どこにいるんだ?

結衣が言うには、最初のプレイはあの王女様が主人公だったらしい。

だけど2週目からは結衣が名付けた「ユイ」が主人公となっていたのだ。

同じBクラスの名簿を確認したが、ユイという名の女の子はいない。いや、BクラスだけじゃなくてAクラスにもCクラスにもいなかった。

一人、可能性があると思っているのはCクラスにいるカリーナ・ロング伯爵令嬢だ。

なぜなら、彼女はマリーアンジュ王女と親しいのだ。常に王女様にまとわりついているメンバーは何人かいるのだが、全く名前に覚えがないのはカリーナ嬢だけだった。

あとはなんとなくだけど、いたような気がする。


彼女が主人公かあ。

結衣、あるいは自分自身の分身として見るならやっぱり微妙だ。

入学式から履修案内を経て、自分の目で見た限りではイマイチぱっとしないなと思う。

ましてやパティにそれとなく聞いてみたところ、ちょっと口をにごされてしまった。

ウソのつけないタイプの彼女は、隠しているつもりでも長い付き合いの僕らからしたら結構感情がよくわかる。

どうもカリーナ嬢にはいい感情をもっていないっぽいな、というのはアルにだってわかっただろう。

同性に好かれない子はなあ。ちょっとねえ。


逆に、パティがめちゃくちゃ好感を持っている子が2人いることも分かった。

1人はデイジー・アンドレア。

もうね、僕の好みのドストライク。お姉さま系というか、ハンサムな彼女というか。

サバサバした感じの、女性ファンが多そうな子だ。

「仕方ないな、マウリは」とか言って、可愛がって欲しいなあなんて妄想が広がる。

ま、多分無理だけどね。さすがにアンドレア侯爵家は高望みしすぎだよ。


そしてもう1人。

今、僕の手を取って踊っている彼女の名は、シャルリア・フロンターレ伯爵令嬢。

かいつまんで今までの出来事を話すと、驚いた顔を隠そうともせずに興味深そうに聞いていた。

僕が言うのもなんだけど、貴族令嬢らしくない子だなあとは思ってたけどさ。

明るくて気さくで可愛いけど、どこかちょっと間が抜けているというか。

その割にめちゃくちゃ優秀みたいで、侯爵家の面々に混ざってAクラス所属だし。


そして、ついさっきの出来事だけど。

僕が何気なくつぶやいた言葉を耳に止めて「マウリって関西の人なの?」と聞いてきた。

あの時、どれだけ僕が驚いたかわかるだろうか。

いや、多分彼女も同じぐらい驚いていたんだろうけどさ。


「まさか、君も転生者だとは思わなかったよ・・・ひょっとして、主人公って君なの?」

明日は16時予約投稿です。

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