15.夜会の始まり
間に合いませんでした・・・。
大変遅くなって、すみません。
マウリッツ・モントレー。
王都から北東に位置する領地を持つモントレー伯爵家の末子。
上の兄姉はすでに成人してしばらく経っているとかで、少し年齢が離れているからかものすごく可愛がられて育ったらしい。
初対面時から屈託なく接してくるフレンドリーな感じは、てっきりそういう家庭環境からくる人懐っこさなのかと思っていたけれど。
・・・彼も転生者、というやつなのだろうか。
なんだろう。お仲間がいた!嬉しい!というよりは。
なんとなく気恥ずかしい、という気持ちの方が強いかもしれない。
いや、だって誰も前世の自分のことを知らないという気楽さで、お嬢様の仮面をかぶってきたものだから。
「ぷぷっ、あいつお嬢様のふりしてやがる!」とか思われたら、顔を両手で覆ってしゃがみこみたくなるぐらい恥ずかしい。
まさか前世でも知り合いだったとか、そういうことはないだろうとは思うけどさ。
それでもやっぱりなんとなく落ち着かない。
「シャル?大丈夫かい?」
黙りこくってマウリのことを考えていたから、緊張していると思われたのだろうか。
兄様が私の顔をそっと覗き込んで、そう言ってくれた。
「あ、大丈夫です。えっと、さすがにこの扉を見たら緊張しちゃって」
「うん、わかるよ。でも、前を向いてゆっくり歩くだけで大丈夫、僕が一緒だから」
優しい兄様の言葉に、はい!とうなずいてみせる。
今はとりあえず、マウリのことは放置だ。あとで本人に直接聞けばいい。
「エルド・フロンターレ伯爵様、ルーシア・フロンターレ伯爵夫人様、シェアト・フロンターレ様、シャルリア・フロンターレ様」
名前を呼ばれて、大きく開かれた扉まで進んで一礼。
兄様のリードに合わせて、会場内へと歩き始める。
別にあちこちを見てにこやかに笑ったり、お手振りしたりする必要はないのね。いや、当たり前だけど。どこの王族だ。
しかし、大広間という名前だけあって本当に広い。前世でのイベント会場並みだ。
これ、たとえ話したい人がいたとしても目当ての人見つけるのって無理じゃない?なレベル。
会場にはあちこちに人の塊が出来ていて、ちらりとこちらを見ただけで話に集中している方たち、あるいはじっとこちらを見続けている方たち。
なんとなく妙齢の女性たちがそんな感じなのは、やっぱり兄様のせいなんだろうなあ。
そんな人々の向こう側、一番後ろはどうやら料理台だ。
王城の料理って、どんなのだろう?!去年の園遊会のお菓子も美味しかったので、正直めちゃくちゃ期待している。
芽吹きの宴でのイベントは、相当親密度が高くないと起きなかったはずなので、今日はあまり気にしなくていいだろう。なので、食べる気満々だ。
ニーナたちの着付けの腕の去年と比べるとすこぶる上達しているので、全然苦しくない。
これならば色々と食べられるだろうな!すごく楽しみ。
私たちが会場入りしてすぐにマウリやパティ達も呼ばれて入場してきている。
そうそう、さっき兄様にパティを取られてたので全然話が出来なかったんだけど、今日のパティのドレス姿もすごくかわいい。
従兄弟のお兄さんにエスコートされて会場入りしてきたけど、ちょっと見惚れちゃった。
クリーム色というか薄い黄色というか、そういう柔らかい色の春らしいドレスで、王都で流行りの可愛らしいデザインだった。
マリーアンジュ王女様に似合うドレスが流行りなのだけど、パティは王女様と似たような可愛らしいタイプだから本当によく似合っていた。
いやあ、アルにはぜひ頑張って欲しいなあ。少し身分が下とはいえ、大きな商会の息子だし幼馴染だし、次男だし婿養子にはぴったりだよね。顔も割とイケメンだし。邪気眼だけど。
会場入りはすでに侯爵家に進んでいた。
男爵家や子爵家が一番多く、次が伯爵家、そして侯爵家はそこまで多くない。
いくつか存じ上げない名前が続いたけれど、ついにゼファス様の名前が呼ばれた。
小柄だけど威厳のある風格のアルトゥース侯爵様、凛々しく美しいアルトゥース侯爵夫人の後ろを歩くゼファス様。
濃い緑の上着に、黒いズボン。地味な色合いだけど、今回は園遊会の時のような着られてます感がなくって、しっかりと体格に合わせて作られているようだ。
まるで怒っているような険しい目つきだけど、そこがまたいいのよね。硬派だわあ。
遠目なことをいいことに、まるでアイドルを眺めるような気分で見ていると、横の兄様が「シャルが憧れる気持ちがわかるよ。ゼファス殿は僕からしても理想の姿だ」といきなりつぶやいた。
「な?ななななな?!」
「・・・いや、バレバレだよ?」
ぷっと吹き出しながらそう答える兄様。
うん、まあ、兄様にはバレてるだろうとはとっくに思ってた。
兄様はゼファス様を見やりながら続ける。
「彼は性格も良さそうだし、ね。だけど、申し訳ないけど・・・」
ちょっとつらそうな顔をして兄様は言った。
「シャルには、もう少し身の丈に合った相手と恋愛してほしいかな。あまりにも身分が違うのは、やっぱり辛いと思うから」
「・・・そうですね。でも、大丈夫ですよ、兄様!ちゃーんとわきまえてますから!」
ニッコリ笑ってそう言うと、兄様は驚いたような顔になった。
「ゼファス様は、いいお家の優れたお嬢様をお嫁にもらって、ますますアルトゥース工房を発展させていかなきゃならない人ですから。私みたいな普通の令嬢じゃ力不足です」
兄様に言いながらも、自分に言い聞かせているということに気づいたんだろうか。
優しい兄様は何も答えずに、兄様の腕にかけている私の手を軽くぽんぽんと叩いてくれた。
「クロイド・バートン侯爵様、ネレーア・バートン侯爵夫人様、セドリック・バートン様、イザベラ・バートン様」
あ、イザベラ様だ。エスコートしてるのはお兄さんかな?顔そっくりだ。
しかし、ドレスの色すごいな。ショッキングピンクっていうの?なかなか見ない色だ。
ものすっごいごてごてに飾ったドレスだから、めちゃくちゃ重そう!そんな暑くないからいいけど、これ夏の宴なら絶対倒れるんじゃないかレベルだわ。
とはいえ、元々派手な顔立ちのイザベラ様には結構似合っている。これはこれでありだよね、きっと。
「ああ、セドリック殿か。妹がいたのは」
隣で兄様がつぶやく。
ん?と首をかしげて兄様を見ると、苦笑して「いや、こっちの話」と言われた。
「それよりシャル、ほら」
兄様の視線を見ると・・・あ、アンドレア侯爵様とリンナ様だ!
「タングステン・アンドレア侯爵様、リンナ・アンドレア侯爵夫人様、ラルフィード・アンドレア様、デイジー・アンドレア様」
名前が呼びあげられると、会場全体がざわっと騒めく。
会場の視線も、誇らしげなイザベラ様から一気に離れてそちらに集中する。
「まあ、アンドレア侯爵夫人が・・・」
母様がつぶやかれたのがわかった。父様も驚いた顔で扉の方を見ておられる。
無理もない。社交界にリンナ様が現れるのは、いつぶりになるのだろうか。
ラルフィード様が16歳になられるのだから、それより前なのだ。
「アンドレア侯爵夫人が?本当に?」「あの・・・平民出身の?」
色んな声が周りから聞こえて、少し心配になる。大丈夫だろうか。
そんな考えは杞憂だったということが、入場された一家を見た瞬間わかった。
今まで見たことがないほど、穏やかで優しい笑みをリンナ様に向けているアンドレア侯爵様。
その侯爵様に微笑を返しておられるリンナ様は、今この会場内にいる誰よりも美しかった。
王都で今流行りのドレスは、マリーアンジュ王女様に似合う可愛らしいデザインだ。
それを少しだけシンプルにしたドレスが、子供2人を生んで育てている年齢の女性に似合っているのだから恐ろしい。
時代遅れなんかじゃない、最先端のドレスだ。しかも、その年代では着こなせないはずの。
年齢を重ねても少女の様に可憐で美しい、その姿に見惚れない人はいなかっただろう。
そして、後ろを歩く2人。
ラルフィード様は堂々として気品があり、瞳の色と同じ赤いジャケットがとても似合っている。
男らしくて凛々しいその姿が女性の視線を独り占めしているけれど、ラルフィード様自身の視線は隣にいる妹に向いている。
妹のデイジー様は兄と同じように堂々とした立ち姿で、園遊会の時のようなどこか不安気な表情ではない。
目の覚めるような真っ青な美しいドレス。背の高くてモデルのようなスタイルに、マーメイドラインのそのドレスはとてもよく似合っている。
リンナ様とは逆に王都の流行りからは正反対のドレスではあるものの、このドレスを着こなせる人がいるかと言われれば絶対いない。
・・・さすが、アムリータ様だ。リンナ様とデイジー様、その2人の後ろにいる有能スタイリストは今頃さぞかし満足しておられるに違いない。
と、思っていたらそのアムリータ様が入場された。もちろん、ハーディエンス侯爵様とご一緒にだ。
・・・あれ、ハーディエンス侯爵様、ちょっと疲れてるのかな?
体調が悪いわけではないみたいだけど、春のこの時期って忙しいんだろうなあ。そういえば、去年お世話になってた時もすっごい忙しそうだったもんな。
また何か、差し入れでもしようかな?
そんな侯爵様に対し、アムリータ様は肌もつやつやして元気そうだ。そして、めちゃくちゃ機嫌も良さそうだ。
きっと、リンナ様とデイジー様の身支度に対し、やり切った感でいっぱいなんだろうなあ。
後ろを歩くアームズ様とノルディスも、相変わらずの美形兄弟だ。
アームズ様は濃茶の上着、ノルディスはアイボリーの上着。2人ともすごく様になっている。
ラルフィード様とどっちを見るのか迷うレベルで、次から次へとイケメンが出てくるから困る!って会場の女性陣は思っているに違いない。
こうやって人目を集めながら歩いている姿を見ていると、なんだか少し遠い人に思えてくる。
ゲーム内では、いつもそうだったからなあ。
ゼファス様も、ラルフィード様も、ノルディスも。遠くから見つめるだけで、精一杯だった。
さっきまで、一緒にのんびりお茶してたのが嘘みたいだ。
続いて案内があって入って来られたのは、クレイモス公爵様。
こういうきっちりした場での公爵様は、断トツで目立つ。たった1人でのご入場だけど、あの横に立ちたいと思っておられる方々がいかに多いことか。
もうほんとに、さっさとお相手を決めたらいいのになあ。
前世でも最後の大物独身貴族!なんて話題を時々聞いたけど、玉の輿なんてそうそういいことばかりでもないだろうし。
それともあれかな。やっぱり公爵様はマリーアンジュ王女様がお好きなんだろうか。
マリーアンジュ王女様にとっても、悪いことじゃないよね。
人柄よし、家柄もよし、見栄えも当然よし。クレイモス公爵様を選ばれたとしても、何の問題もない。
強いて言うなれば、攻略対象者として名前が挙がってなかった、というかそもそもゲームでは存在すら知らなかったってことが引っかかるぐらいか。
『エレプリ』は学院内での話だったから、年が離れすぎていた?
でもなあ、今現在教師で来られてるんだからゲームで出てきてもおかしくないんだけどな。
このあたりは、考えても仕方ないのかもしれないけど。
なんだかんだでゲーム内とこの世界は違うことも多いから。
そんなよしなしごとを考えていると、いよいよ王族の方々のご入場となった。
私たちが入場した入り口とはまた違う入り口があるようで、一段高くなったあたりから国王陛下が王妃様を伴って現れた。
私たちは自然に頭を下げて、臣下の礼をする。
入場の間、ずっとその姿勢というわけにもいかないのでまた自然に頭を上げるのが通例だ。
頭を上げて入場してこられた王族の方々を見る。
フランズベルト国王陛下。転生してからは初めて見る。
威厳があっておひげもあって、いかにも絵に描いたような「王様」だ。
王様のテンプレとかがあったら、そのまんま挙げてもいいぐらい。
でもやっぱり人の上に立つ風格というか、オーラが半端ない。精霊の加護がかなり強いのだろう、とても綺麗な金のオーラが取り巻いている。
反対に王妃様はそこまでオーラは強くない。それでも国王陛下を支えて来られてきたそのお役目は大変だっただろうし、さぞかしよく出来た方なのだろうと思う。
そして我らがメインヒロインは、なんとクリシュナ様にエスコートされてご入場された。
もう、まわりが騒めく騒めく。
すわ、婚約者が決まったのか?!って感じで。
いったい、どういうことなんだろう?
土曜日もとても忙しいため、夜に更新出来るか不明です。
出来なかった場合、次回更新は月曜日となります。
楽しみにしてくださってる方には申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。




