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14.控えの間での驚愕

「でき・・・ました!」

ニーナが声を上げる。その声は、やり切ったという満足感に溢れている。

「どうでしょう、お嬢様!」

後ろからアルルに鏡を当ててもらい、合わせ鏡で目の前の姿見を見つめる。

左向いて、右向いて・・・正面向いて。うん。

「うん、いい感じ!素敵!」

「やった!」「やったね、ニーナ!」

ニーナとアルルが手を取り合って喜ぶ姿に、私は思わず苦笑してしまう。


芽吹きの宴の夜会は、私の社交界へのデビュー戦だ。

もう半年ぐらい前から、本人そっちのけで家じゅうが私の装備にかかりきりになっていた。

装備っていっても、もちろんドレスなんだけど。

でも固いコルセットに何重にもなった布、完全にDEF(防御力)に振ってるよね、これ。

春物だから布が薄いのがまだマシか。

裾の部分はまるで花が開いたかのように見えるので、可愛らしいデザインだけど。

全体的には薄い紫色のドレスだけれど、ところどころのレースは差し色として白だ。

やっぱり清楚さが必要だよね、デビューだしね!


胸元はあまり開けない方がいいんだけど、私はあまり背が高くないので首元まで布で覆っちゃうとちんちくりんに見えてしまう。

なので、ぎりぎりここまではOKかなラインまで開けてもらった。

首からは両親から送られた、サファイアのような青い宝石のついたネックレス。私の瞳と同じ色だ。

父様が思い切ったって顔してたから、きっと高かったんだろうなあ。

「お前のおかげで領内も潤ってきているから、大丈夫だよ」なんて言っていたけど。


さっきまでニーナが奮闘していたのは髪型だ。

ハーフアップにしたことはあっても、完全に髪を上げてしまうことは今までなかったので。

夜会に参加するときにしか髪は上げないのが常識だし、参加したことがなかったのだから。

だからどうしたものかと四苦八苦していたけれど、私は口出しせずに見守ることにした。

ただ、きっちりかっちり何かの油?みたいなもので固めようとしていたので、それはやめてもらった。

「ダンスをするときに緩んじゃいますよ!」と代わりにピンでぐさぐさ刺されたけど、それでもまあいい。

あんまりきっちりした髪は好きではないのだ。ちょっとルーズな感じがゆるくていいよね。


「・・・確かに、お嬢様にはちょっとくしゃっとなっている髪の方が似合いますね」

ニーナは私を正面からしげしげと見て、そう言う。

「それに、この少しだけ出ている髪の毛がなんて言うか・・・色気?みたいなものも感じさせますね!お嬢様、少し大人っぽいですよ!」

後ろから首周りをチェックしていたアルルが、興奮しているのがわかる。

うんうん、後れ毛ってなんか色っぽいよねー。前世でも浴衣時とか必須だったよね。

・・・ま、そんなことをしたところで見せる相手などいませんでしたが!


「では、皆様にお見せしましょう!」

寝室から応接につながるドアを開けると、そこにはすでに支度が整っていた父様と母様、そして兄様が待ってくれていた。

そして、もう1人。ついさっきまで最終的な装身具や靴などをどうするか母様と議論していた、ハーディエンス侯爵夫人のアムリータ様も。

「おお」「まあ」「あら」「・・・!」

皆が感嘆の声を上げる。


「まあまあ、本当に素敵だわ!やっぱり、このドレスにしてよかったわね」

大きくうなずくアムリータ様。

「デイジーちゃんもとても素敵だったけど、シャルちゃんの可愛らしさは格別ね・・・うちの息子たちがますます惚れこんでしまいそうだわ」

うっとりと私を見ながら言われる、その大袈裟なほどの賛美が恥ずかしくて、「ありがとうございます」とお礼を言うので精一杯だ。

というか、ますますもなにもそもそも惚れてなどいないってアームズ様とノルディスが呆れた声で言いそうだけどね。


「本当に綺麗よ、シャル」

母様が嬉しそうに微笑むと、父様が急に天井を見上げてくるっと後ろを向いてしまう。

「大きくなったな・・・」

「あらあら、まだ嫁に出すわけでもありませんのに」

母様が父様にハンカチを渡している。父様は感激屋さんだなあ、ほんとに。

ふと、いつもなら大絶賛してくれるはずの兄様が黙っていることに気づく。

「兄様?どこか変ですか?」

私の問いかけに、弾かれたように兄様が視線を戻す。

「いや、ごめん。・・・その、あんまり綺麗で。びっくりしてたんだ」

そう言って照れ臭そうに笑う兄様。そう言ってもらえると私も嬉しい。

恐る恐るという感じで足を進めて私の前まで来ると、片手を差し出してくれる。

「さ、お手をどうぞ。君が妹だってことを今日ほど後悔した日は無いよ」

・・・くぅ、それは殺し文句ですよ、兄様!たまらんなあ!

「・・・シャル、そのニヤニヤ笑いはやめなさい。台無しだ」

あ、はい、すみません。


ちょうどそこへ、ヨアンがハーディエンス家からお迎えが来たと告げに来た。

確かに、もうアムリータ様も戻らないとまずいだろう。

じゃあ行くわね、とドアを開けたところお迎えに来てたのはナタリーさんだった。

「あ、ナタリーさん!」

思わず声をかけすと、ナタリーさんは私を見て目を見開いた後、嬉しそうに目を細めた。

「シャルリア様。とてもお綺麗ですよ」

「ほんと?ありがとう!」

「若様たちが見とれてしまわれるでしょうね」

・・・またそれ?本当かなあ。

まあ、お世辞でも嬉しいけどね。


「ちょうどいい時間だね。では行こうか」

アムリータ様も帰られて、どうにか立ち直ったらしい父様が母様に腕を差し出してエスコートの姿勢を取る。

さっきまでちょっとめそめそしてたとは思えないほど、かっこいい。

その腕に微笑みながら手をかける母様もとても綺麗だ。

ヨアンが先導として立ち、父様と母様について兄様と一緒に歩く。

部屋を出てからは、ブランダンが後ろを歩いてくれている。

これから夜会が行われる大広間・・・ではなく、その前の専用の控室に向かっているのだ。

園遊会の時のように、ざっくりとした身分で分けられているのだとか。

そこで待機していたら、順番が来ると呼び出しに来てくれるらしい。便利システム。

大広間の前にずらーっと行列でも作るのかな?とか思ってたけど、やっぱり違うんだ。

そんな状況だったらシュールすぎて笑わずにはいられないから、よかったけど。


そんなどうでもいいことを考えていたら、あっという間に控えの間に着いた。

ここでヨアンとブランダンはいったん引いて、今度は使用人専用の控室へと行くらしい。

王城って広いから、いろいろ部屋があるんだね、と感心することしきり。

私、ここからさっきの部屋に戻れって言われても1人じゃ無理だわ、絶対。

控えの間に入ると、すっと侍従さんが近づいてきた。

あっ、去年園遊会の時にもおられたロマンスグレーなダンディ侍従さんだ!

相変わらずにこやかで、でも気品のあるイケメンぶりにちょっとときめく。

この世界の人、男性もみんな年取ってからもめちゃくちゃ素敵なんだよね。


「フロンターレ伯爵様、皆様どうぞこちらへ」

侍従さんは私たちを部屋の一角へ案内してくれると、そこにはエスタンス伯爵様と奥様がいらっしゃった。もちろんパティも一緒だ。

「フロンターレ卿、お久しぶりですな」

去年も確か、そんな挨拶から始まったよなとちょっと既視感あるエスタンス伯爵様の言葉。

「エスタンス卿、今日はご夫人もご一緒なのですね」

「お久しぶりですわね」

私は去年の学院祭でパティのお母様とはお会いしたのだけど、父様と母様は久しぶりらしい。

去年はちびちゃんがいて、来れなかったものね。今年は誰かに預けてるのかな?

「ごきげんよう、パティ。ちびっこちゃんたちは?」

「ごきげんよう、シャル。部屋で専属のナニーが見ててくれているわ」

ナニーって、子守メイドのことだったかな?そっか、貴族の方ってあんまり自分だけでは子育てしないんだっけ。


ふと、パティの目線がちらりと兄様に向かう。

あ、そういえば学院でちらっとは会ったけど、ちゃんと時間ある時に会うのは初めてか。

「あ、そうだ。パティ様、私の兄のシェアトですわ。兄様、私の親友のパトリシア様です」

2人を交互に紹介すると、兄様が微笑んで胸に手をあてた。

「初めまして、パトリシア様。シャルから、話はいつも聞いています。妹と仲良くしてくれて、ありがとう」

「はっ・・・は、初めまして。よ、よろしくお願いいたします」

最初は少し引っ込み思案なのかな、と思ったパティだけど。ここ2日間ほど一緒にいて、明るくておしゃべり好きな女の子だとわかった。

だけどやっぱりこういう場ではちょっとおどおどしちゃうよね。そういうとこも可愛いけど。


まあ、兄様みたいなイケメンが目の前にいて、動揺するなって方が無理だけどね!

今日の兄様は、濃紺の上着とズボンの礼服姿で、私に合わせて薄紫色のシャツを中に着ている。

いつもは無造作でサラサラな髪も、今日は少しオールバックっぽく上げられていて、それがまた大人っぽくってかっこいいんだよ。

パティじゃなくても見惚れること間違いなしだからね。

そして、兄様は緊張した様子のパティにそのまま話しかけている。

優しくて気づかいも出来る、自慢の兄様なのだよ!


「・・・ちっ」

「舌打ちするなよ、アル。シャルの兄上だぞ」

後ろから不穏な会話が聞こえたので振り返ると、よっ!と片手を上げるマウリと苦々し気な表情のアルが立っていた。

「あら、ごきげんよう」

挨拶しながらふと見るとマウリとアルのご家族なのか、うちの両親とエスタンス伯爵様ご夫妻の周りに人が集まって集団になっている。

皆でどうやら、去年のうちのワインの出来の話をしているらしい。絶賛されているようでなによりだ。


って、それよりも。

「マウリ、今聞き捨てならないこと言ってたよね?なになに?アルはパティが好きなの?」

「すす、すっ・・・!」

絶句するアルの顔が真っ赤になっていくのを見ながら、ニヤニヤ笑いが止まらない。

そっかあ~そうなのね~うふふふふ。

そんな私とアルを見比べて、マウリがぷぷっと吹き出す。

「シャル、君って本当に面白いね」

「それは誉め言葉だと受け取っておきます」

すまして答えると、マウリはますますおかしくなったみたいでクククとうつむいて肩を震わしている。


「・・・さっきまで緊張して、お腹が痛いとか言ってたくせに」

アルがフン、と鼻を鳴らしてマウリをにらむ。どうにか立ち直ったらしい。

「そうなの?でも緊張するよね、初めての夜会だもの」

「・・・君はそんな風には見えないけどな」

アルにそう言われたけど、私だって緊張はしている。

ただ、一応ゲーム内とはいえ一度経験してるからね。流れもわかっているし、起こるはずのイベントも覚えている。

こんな風に控えの間で話をするとか、そういうのまでは想定外ではあるけれど。

「アルも緊張しているようには見えないけど?」

「俺は多少は王城にも出入りしているから」


ああ、そうか。アルは大きな商会の息子なんだっけ。

今日は制服とは違うけれども、それでもきちんと着こなしている感がある。

立ち姿も綺麗で、失礼だけど子爵家らしからぬというかマウリよりもよっぽど高貴な生まれに見えるよ。

そんなアルの肩をがしっと組んで、マウリが笑う。

「アルは、すげーんだよ。僕よりもよっぽど貴族社会に詳しくて、色んなことを教えてくれる」

「お前が知らなさすぎだ」

文句を言うアルにもめげることなく、カラカラと陽気に笑うマウリ。


マウリも大概おかしな人だと思う。初対面から馴れ馴れしいし。

ちゃんと礼儀も身に着けているのはデイジーに対する態度からわかるんだけど、なんていうか・・・距離感?がちょっとおかしいのよね。

うーん。そうだな、例えて言うなれば前世での後輩かなあ。

高卒で会社に入って来たのはいいんだけど、どうにもこうにも社会人としての常識がなかなか身につかなくって、教育するのに苦労したっけ。

先輩先輩、って慕ってくれるのはいいんだけど、お前親しき中にも礼儀ありって言葉があるだろう!と何回怒ったか。

マウリの場合は人を選んでそんな態度を取っているように見えるから、また違うのだろうけど。


私たちと話しつつ、アルはまだちらちらと兄様とパティの方を見ている。

「あ、そうだ。紹介しようか?兄様を。そしたら一緒に話せるよ」

「いや、その、別に・・・」

ぶつぶつと口ごもるアル。

そこへ侍従さんが案内にやってきて、アルは大広間に行ってしまった。

あらためてマウリは兄様を見ながらふうん、とつぶやく。

「シャルの兄さん、ほんまにイケメンやなあ。あれはアルもなかなか勝たれへんで」


・・・ん?

・・・んんん?


今、イケメンとか言った?

イケメンって言葉、この世界には無いよね?

私もうっかり口に出すことはあるけど、意味が通じないから気を付けている。

それに、なんだ今の訛り。

前世でよく聞いた、お笑い芸人の言葉遣い・・・というか、関西弁?


「マウリって関西の人なの?」

なんて言っていいのかわからずに、思ったことをそのまま口に出してしまった。

マウリは一瞬きょとんと私を見た後、大きく目を見開く。

「え、シャル、今なんて・・・」


私とマウリが顔を見合わせたその時、ちょうど侍従さんがやってきて、入場の案内をされた。

「フロンターレ伯爵様、お時間でございます」

「わかった。行こうか、皆。ほら、シャルもこちらへ」


いやいやいや、ちょっと待って。それどころじゃないんですけど?!

シャルの前世は一応関東地方在住という設定。

でも書いている私が関西の人間なので、話し方が関西風味だったらすみません(;´・ω・)

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