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悪魔、中庭で出会う

久しぶりの投稿です

「ではメルリア様、夕方までには帰ってくださいね」


「夕方って……後少ししかないじゃないの」


 どう考えても2時間も中庭にいることは出来ないだろう。あれだけ準備に時間をかけたのだからもう少しのんびり過ごしたい。


「仕方ないじゃないですか。遠くから魔法を制御するのは難しいのであまり長時間は無理なんですよ」


「じゃあ私に教えなさいよ」


 髪の色を変えるくらいなら私の魔力でも何とかなるだろう。ところが。


「私、教えるの苦手なので」


 何だその少し誇らしげな態度は!

 これは絶対誇らしいことじゃないから!


「あれだけ無駄なお喋りはするのに……まったくもう大事な時に役に立たないんだから」


 レニーはへらへらと笑っている。なんだか怒る気にもなれない。代わりに得たいのしれない脱力感がある。


「じゃあ、夕方までですよ。それを過ぎると色が戻ってしまうかもしれないので」


「はいはい分かったわよ」


 今度来る時は染色魔法を覚えてのんびりすることにしよう。


「あと、本当に瞳の色を変える気はないんですね?」


「ええ。変える気はないわ」


 レニーに瞳の色も珍しいから変えた方がいいと言われたが変えるのは断った。

 私は完璧に父似だ。この金髪も顔立ちも全部だ。あの冷徹無慈悲なあの父の顔にそっくりなのだ。父に似ているという点を除けば私はこの顔を気に入っているので文句はないけど。

 だが、羨ましいことにジーンは髪や瞳の色こそ父と同じだが顔は『アルベルの女神』と呼ばれた母そっくりの優しげな顔立ちだ。

 そんな父似である私の唯一母に似ている所がこの翡翠色の瞳。私の宝物なのだ。

 頭では変えた方がいいと分かっている。でも、変えたくなかったのだ。


「分かりました……中庭はこの先を右です」


「ええ。じゃあ、行ってくるわ」




 中庭はレニーの言った通り色とりどりの花が咲いている美しい場所だった。あれだけレニーが力説していたのがうなずける。まあ、あまり聞いてなかったんだけどね。

 中庭の中央は少し広場のようになっていてそこから十字に小道が続いていて屋内に入れるようになっていた。

 幸い人はいないようなので、自由に花を見て回った。アルベルでは見たことのない花もあったのでなかなか楽しい。

 しばらくして私は本を読もうと、近くにあった長椅子に座る。私はすぐに本を読み始めた。



 本を読み始めて約1時間。

 私は数分前、何かがこっちをみているのに気がついた。それは、私の前の方にある屋内への入口から見ている。少し離れているのでよく分からないがひょこひょこと見え隠れする頭の位置からして子供のようだ。

 子供だと分かったらすることは1つだ。私は本を椅子に置いて、子供がこっちを見ていない隙に一気に近づいた。

 そして。


「捕まえた!」


「ふぎゅああ!」


 捕獲した。




 捕獲したのは10歳くらいの燃えるような赤い髪に琥珀色の瞳をした男の子だった。しかも半泣きの。あ、私が泣かせたのではなく元から泣いていたのだ。

 長椅子に一緒に座り、どうしたのかと聞いたところ、どうやら迷子なことが判明した。

 お父さんと一緒に城に来てあちこち見ていたらいつの間にかはぐれてしまった。そして、さまよっていた所で私を見つけたのだが話しかける勇気が出ず、入口でこっちを見ていたのを捕獲されて今に至るということらしい。

 とりあえず元気のない男の子を元気づけるためにいろいろ話しかけてみることにしよう。


「君の名前は?」


「ニース」


「素敵な名前ね」


 ニース君はこっちを見ると尋ねてきた。


「あの、お姉さんのお名前は?」


 うーん。本当の名前は言わない方がいいよね。よし、それじゃあ。


「私のことはメルって呼んで」


 ああ、懐かしい。昔はジーンも呼んでくれていたなぁ。

 メルねぇ、メルねぇって何かあるとすぐ私の所に駆け寄ってくるのだ。でもそれも、ジーンが外に出るようになってから泣く泣く止めさせてしまった。

 やっぱりジーンにはメルねぇって呼んでもらおうかな……。

 そんなことを考えていたら隣からお腹の鳴る音がした。ニース君の様子を窺うと案の定、お腹を抑えて顔を赤くしていた。かわいいなぁ。


「私、クッキー持ってるから一緒に食べよ?」


「う、うん。ありがとう」


 クッキーの包みを広げ二人で食べる。今日もレニーのクッキーは美味しい。レニー君も美味しそうに食べてくれている。


「ねぇ、メルは広間までの帰り方分かる?」


 一番聞かれたくない質問がきてしまった。


「ごめんなさい。私、つい最近ここに来たばかりでよく知らないの」


「そうなんだ……」


 目に見えて落ち込んでしまった。どうしよう。アルベルの子供ならまだしも、魔国の子供では何が好きなのかも見当がつかない。

 頭を悩ませているとニース君に袖を引っ張られた。

 視線をニース君に向けると何故か少し期待した顔をしている。いったいどうしたのだろう。

 ニース君が口を開いた。


「ねぇ、もしかしてメル『彼方の世界』読んでるの?」


 椅子の端に置いてある本を指差して聞いてくる。


「ええ、そうだけど……それがどうかしたの」


「面白かった?」


 それはもちろん。


「すごいおもしろいわ! 最近読んだ本の中では一番ね」


 私がそう答えるとニース君は目を輝かせて話し始めた。


「僕も『彼方の世界』好きなんだ。最後にオズヴェルトがーー」


「あー! ちょっと待って私まだ5巻の途中までしか読んでないの!」


 危ない。もう少しで話をばらされちゃうところだった。

 私の慌てっぷりが面白かったようでニース君はクスクス笑っている。


「そうなんだ? ごめんなさい。つい話したくなっちゃって」


 笑っていると子供は本当にかわいいなぁ。

 ニース君は少し考えてからこう言った。


「5巻までだとやっぱりあそこが一番よかったよね」


 これはあそこのことかな。

 ニース君と目があってうなずきあう。そして、息を吸って。


「「フレンチール谷決戦」」


 2人でまたうなずきあう。ニース君……君は私の仲間だ!


「オズヴェルトかっこいいよね」


「ほんと、かっこいいわよね」


 私はいいことを思いついてしまった。


「ニース君、誰かが貴方を探しにくるまで私と遊ばない?」


 ニース君はキョトンとしている。


「何して遊ぶの?」


 子供、彼方の世界、遊ぶときたらこれしかないでしょ。




「彼方の世界ごっこよ」





メルリアさんは子供好きです。

でも、別にショタコンとかじゃないです。

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