10-12 聞きたかったこと
母親はそう聞いた。次から3回生になるが、単位数に関していえば順調だ。卒業までには確か130単位ほど必要だが、現状90単位だ。余裕はあるといっていいだろう。
「それはよかった」
親はそういった。凪ちゃんもおそらく取得している単位数はほぼ同じだと思う。
両親は食べ物としてポテトサラダや唐揚げを注文していた。自分もキムチを注文した。
「もし凪が死産になっていたら子供はいなかったと思うから、生まれてきてよかった」
母親はそういった。
「死産になりそうだったのってやっぱり体質とかそういう問題だったの?」
自分は気になったことを聞いてみる。母親はわからないといっていた。
「結婚前や妊娠前から身体に明確なダメージがあったとか聞いてるわけではないから、そういうことはないと思う」
母はそう付け加えた。
「あの時はどうなるかと思ったけど、今の身体に明確なダメージはないのはよかったと思ってる」
父はそういった。今は両親とも、肉体的にも(おそらく)精神的にも元気だ。
「凪って名前、どう思っている?」
父親はそう聞いた。池下凪。個人的にはこの名前を結構気に入っている。フルネーム読みやすい・書きやすい・画数が少ない・電話口で伝えやすいという利点が大きい。父親の旧姓は「恩曽」だが、聞き返されることが多かったらしく、電話越しで伝えることも困難だ。父親は結婚したら絶対に相手の姓にすると決めていたらしい。
「恩曽凪より池下凪の方がいいかもとは思う、自分が呼び慣れているだけかもしれないけど」
父親はそういった。母は苗字を変えても良いが絶対ではなかったようで、父親に押されて母親の苗字にしたといっていた。父方の祖父も苗字が不便だとは認識していたようで、苗字を変えることに反対はしなかったらしい。それと母のどっちでも良いという立場から父方が苗字を変えることになったといっていた。
恩曽は父親の苗字であると同時に父方の祖父が一生名乗っている苗字でもある。父方の祖母の苗字は宮崎とよくある苗字だ。
「祖父が祖母の苗字にしなかったのはなんでなの?」
自分は父親に聞いてみる。どうやら当時は男性に苗字を合わせるということが普遍的であり、女性側に苗字を合わせることなど(祖母の立場でも)考えすらしなかったらしい。(父親にとって)30年前の"常識"と父親にとっての常識が一致しないことに驚きだ。"常識"というのは1世代で簡単に変わるものなのだろう。僕と父親の常識も違うだろうし、僕(凪ちゃん)と自分の息子・娘の常識も違うものなのだろう。そう考えると恐ろしくも感じる。
僕はそんなことを考えながら生ビールを口にしていた。酔いが回ってくるのを感じる。
「もし自分がいなくなったらどう思う?」
僕はそう聞きたくなって仕方がなくなった。自分はもうすぐいなくなる。それを伝えることも必要だろうと今は思うようになっていた。自分は勇気を振り絞って聞いてみた。
「そりゃショックだし、しばらくの間は何も手をつけられなくなるとは思うよ、でも乗り越えなきゃいけないことだとも思う」
父はそういった。自分は泣きそうになってしまった。




