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8-8 ヴォイニッチの謎

 話しているともう1時間ほど経っている。色々本音で話せるタイミングは貴重だ。自分はお冷を飲んだ後、レイ、凪ちゃんと同じタイミングでビールを注文した。いつか装置についても説明したい。自分はそう思っていた。

 

 性別が違う以上、人間関係にある程度の差異があるのは当然といえば当然だ。その割には同じ小学校・中学校・高校・大学、特に同じ学部に通っているのは不思議だと思う。


「ちょっと話は変わるけど、異世界系のスレでヴォイニッチ手稿が絡むの知ってるか知りませんが、凪くんはそれは読めないのでしょうか?」


 レイはヴォイニッチ手稿の、大量の草が描かれたページをスマートフォンで見せながらそう言ってきた。久しぶりに見たページだったが、読めないことに変わりはなかった。何が書いてあるか一切検討がつかない。


「凪ちゃんはわかるんだっけ」


 彼女もその画面を見ていたが、わからないと言っていた。


「残念です」


 彼女はそういった。読めるのであれば話を聞きたいという意図で聞いたようだった。


 注文していたビールが届いた。僕はそれを飲みながら、話を聞いていた。


「色々話したけど、結局どうしたいの?」


 凪ちゃんはそう聞いてきた。自分はまだ元の世界に留まりたい、自分の人生を消したく無いと思っているということを伝えた。


「もし僕がこっちの世界を選ぶことになったら、僕の世界のレイはどう思うとあなたは思いますか?」


 自分は2つの世界でレイが同じような性格をしていることを前提に聞いてみる。実際、話していても性格は変わっていないように感じる。レイは自分に彼氏がいることが今ひとつ想像できていないようだが、もし元々付き合っていた人が亡くなったと聞いたら素直に悲しむだろうと言っていた。ただ、いつまでも引きずっているわけにもいかない以上、時間が経てば立ち直れるだろうとのことだった。


 他にも家族がどう思うかを考える必要がある。僕は一人っ子だが、生まれる時には相当心身ともに負担が大きかったらしい。そういえばこのことについて凪ちゃんに聞いていなかった。自分は、彼女が生まれた時何か問題が起こっていなかったか聞いてみた。


「私が生まれたときに死産になりそうだったって話は聞いてないかな。千織もそうだったと思う。少なくとも言い聞かされた記憶はない」


 彼女はそう言った。自分が世界からいなくなれば家族は悲しむし、レイも大村も本郷もショックを受けるだろう。


「まぁそれは凪ちゃん世界でも同じことだよね」


 自分はそう言った。凪ちゃんは、それは認めざるを得ないと言っていた。


「正直、僕はそっちの世界に揺らいできてるんだけど、凪ちゃん的にはどう?」


 僕は聞いてみる。彼女はこの世界の方が良いというのは変わらないようだ。それもそうだろうと思う。凪ちゃんの視点から見てこっちの世界に魅力的だと思えるところがあるかと言われるとないと思う。それでも僕はこの世界で生きてきたということに意味を感じているのも現状だ。


 自分は、正直どうしたいのかよくわからなくなっていた。

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