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番外編1-3 研究室のために


 お互い話すこともなく黙々と食べている。約10分後、同じくらいのタイミングで二人が食べ終わった。私たちは、ごちそうさまでした、と言って店を出て行った。


 お腹いっぱいになってきたとこで、近くのカフェでも行かないかと彼は誘ってくれた。


「家どの辺なんでしたっけ」


 私は彼に聞いてみる。彼の最寄駅は自分の家の最寄駅の2駅隣のようだ。とは言っても、その駅に何かしらのいい感じの店があるというわけでもない。私たちは、武蔵小杉駅の方まで電車で向かって行くことにした。


「もう社会人ですよね、わざわざきてくれたんですか?」


 彼は私に聞いてくれた。私は学会があるため、卒業後にも研究室と関わる機会があった。研究ポスターを研究室に戻しに行くついでに、せっかくなので発表を軽く行うことにしたことを伝えた。


「なるほどです。手話認識、難しそうです」


 彼はそういった。実際、最初の方は何も分からなかった記憶がある。色々調べて論文を読み進めて行く中、今思うと直接は関係ないことにも手をつけながら理解して行ったものだと思う。


「何か今のうちに勉強しておいた方がいいことってありますか?」


 彼はそう聞いた。私は、研究室のみんなが最低限知っている知識のTransformerや、MAMBAという概念の存在など簡単なフレーズだけ伝えた。彼はメモをとっているようだった。


「ありがとうございます」


 彼はそう言ってくれた。私は、入ってからちゃんと学ぶ機会があるから、今そこまで無理に理解しようとしなくても良いということを伝えた。


「自分は入った頃は何も分からなかったですが、色々触っているうちに覚えてきましたね。一見自分がやりたいことと関係なさそうでも興味を持っておくということのほうが大事かもしれません」


 私はそういった。自分も最初、手話は日本語を身体の動きで表したものだと思っていた。紙に書いてある日本語も、音声で発された日本語も、同じ言語の一側面であり、音声であれば感情や抑揚、文字であればレイアウトやフォントなどはさておき、意味としては全く同じ内容を伝えることができる。読み上げられた文章は書き起こすことができ、書き起こされた文章は読み上げることができる。そして、それは手話でも同じで、手話で伝えられた内容を、音声をひらがなに書き写す(Transcribe)かのように、手話をひらがなに書き起こせ、音声で読み上げられるのだ、と考えていた。しかし、実際はそうではない。手話というのは日本語とは本質的に異なる言語であり、それを「ひらがな」、特に日本語の書記体系にに書き写す作業は翻訳の一種類と解される。初めて手話認識の話を振られたとき、自分はそれを理解していなかった。


 彼が手話認識をするかは定かではないが、その手の勘違いは起きうると伝えておいた。

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