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第五話 第一回・暴君討伐集会


 (あの女の子は…)


 ツルギが目にした少女、それは他でもない、街でフォーティンスを追っていたあの可憐な少女だった。

 見た目は鮮やかな空色の髪の毛で瞳の色は透き通ったエメラルドグリーン。年齢は十五歳くらいに見えた。その少女はアルネブの隣を見事な所作で歩く。


 「ごきげんよう諸君。否、五人の救世主たちよ」

 

 アルネブがツルギ含む五人の前に立ち、口を開く。

  

 「改めまして、私は『アルネブ・ボルケニス』。この世界を壊す、ただそれだけを我の宿命として戦う、一人の男です。そして、こちらは…」


 アルネブが隣にいる少女に体を向ける。


 「初めまして。私はアルネブ様の秘書をしている者です。なにか困ったことがありましたら、私にお尋ねください」


 (ん?)


 ツルギはなにか違和感を感じた。


 (この子…名前はない…のか?)


 そう、この少女は自己紹介のはずなのに、自分の名前を名乗っていない。そこをツルギはとても不思議に思った。

 そして、アルネブが話を進める。


 「君たちがこの場に一堂に会したのは今回が初めてです。なので、これから『第一回・暴君討伐集会』を始めたいと思います」



 「ーー君たちをこの世界に集めたのは他でもない、諸悪の根源である、『暴君・ニーハル』を討ち倒してもらう為であります」


 「んなもん、百も承知だ。大事なのは、俺らはこれからどう行動するのか、それを教えてくれなきゃ、話になんねぇぜ」

 

 フォーティンスが不安と少しの不満が混ざったような顔つきでアルネブを睨む。


 「そうでしたね。では…」


 「今回の集会では、これからの話…この世界についての詳しい情報、そして、どう行動するのか、それを教えたいと思います」


 

 「ーーまず第一に、この世界は『イデラル・ワールド』といい、『暴君ニーハル』によって創られたことは初対面のとき、君たちに教えましたね。そして、ニーハルを倒してこの世界を壊し、住民を救うと…」

 

 「ですが、実はそのニーハルの根城というのは未だに掴めていません。そこで……」


 「待て待て待て、いきなり話を進めないでくれねぇか? 敵のアジトが割れてないんなら、どう倒せばいいんだよ」


 フォーティンスが疑問に思ったことをアルネブにぶつける。


 「はい、ごもっとも。そのため、これからどう行動するのかを話そうとしてるところです」


 「―――」


 アルネブに論破され、フォーティンスは何も言い返せなかった。そしてアルネブが話を続ける。

 

 「君たちには、この世界に慣れてもらうと同時に、ニーハルの根城の情報収集、あわよくばニーハル直属の部下から情報を聞き出していただきたい」


 「なるほど、つまり敵の情報収集、そして、ニーハル直属部下への尋問が我々の任務ということですね」

 

 アレイシスがわかりやすく噛み砕いてくれたおかげでツルギにも理解できた。


 「ええ、その通り。任務は後ほど、こちらの機器を介して伝えます。この機器は私からの任務を伝えるだけではなく、文字翻訳装置という、この世界の文字が読めるようになる機能も付いているので無くさないでくださいね」


 そして、ツルギたちは一人一人、腕時計のようなものを受け取った。形は腕時計そのものだったが、六角形の中心に時計の針はなく、その代わりに謎の宝石が埋め込まれていた。


 

 「では、次にこの世界の仕組みやプログラム…ルールと言った方がわかりやすいですかね。それを教えます」


 どうやらこの世界にはルール、つまり決まりごとといったものがあるらしい。


 「まず、時の流れについてですが、この世界は現実世界とは別次元です。これは君たちも知っていることだと思います。そして、別次元ですから、時間の進み方も変わってきます」


 「時間の進み方?」


 「この世界では一日の時間の長さが現実世界のおよそ『二十四分の一』、つまり、この世界で一日経過しても現実世界では一時間しか経過してないことになります」


 「君たちは現実世界では二四時から朝の八時まで眠る設定になっている。これはこの世界に来た瞬間発動するものです。途中で目覚めることはできません」


 「つまり、今日含めて八日間、この世界で敵の情報収集や部下達の討伐をするということでしょうか」


 「はい、そういったところです」


 アレイシスがまたもやわかりやすく弁明してくれた。推理小説を読んでいたから情報の整理も得意なのだろうとツルギは思った。もっとも、情報整理はツルギも得意としてることなのだが。


 「じ、じゃあ、八日過ぎたら俺らはどうなっちまうんだよ」


 フォーティンスが焦った様子で質問した。正直、ツルギも八日間しかこの世界に居ることができないのかと焦っていた。


 「八日間が過ぎたら、君たちは時空のねじれに吸い込まれます。そして現実世界で目覚め、元の生活に戻る…しかし、私がまた、君たちをこの世界に招集します。クールタイムがあるため多少の期間がありますが…、そのため、君たちはこの八日間で終わるわけではないということは頭に入れておいてください」


 (そうだったのか、よかったぁー。俺の英雄譚がたった八日で終わるのかと思ったぜ…)


 アルネブの話が終わるとツルギは安堵した表情を浮かべた。それは他の面子も一緒である。


 (でも、ずっとこの世界に居られないってのはちょっと悲しいな…)


 ツルギは現実世界にはあまり戻りたくなかったので、わずかな悲壮感に襲われた。


 しかし、この世界を救い、英雄になること。それは人々の願いでもあり、ツルギ自身の願いでもある。その願いを叶えるためにこの八日間を少しでも今後の糧にする、そう決心してツルギは前を向いた。



 「――では、続いて彼女から『スピリット』について説明してもらいます」


 するとアルネブの後ろからあの少女パッと出てきた。一体、『スピリット』とは何なのか。


 「この世界では、常に『スピリット』というものが飛び交っています。もちろん、私たちの体の中にも存在します。スピリットというのは、いわば魂の供給源のようなもので、魔力などの様々なエネルギーの元です。これが枯渇してしまうと、体が動かせなくなったり、最悪の場合死に至ります」


 「ふぇっ!? そんな危険なやつなの?」


 カナリアが驚きと不安で、思わず声を出す。


 「ええ、しかし、スピリットは睡眠や食事で回復できます。ですから、普段からしっかり睡眠をとったり、運動や食事を欠かさないようにして、生活してください」


 「なるほどなぁ、この世界でも生活習慣は大事ってわけだ」


 ツルギが柔らかな態度で言葉を発する。しかし彼女には反応されなかった。ツルギは表面上は笑顔を浮かべたが、心の奥底ではひどく落ち込んでいた。

 

 「私からは以上です。他に聞きたいことがありましたら、後で直接お尋ねください」


 そして少女からの説明は終わった。

 


 「――では、最後にこのアルネブから、最も重要な話をさせてもらいます」


 「重要な…話?」


 そしてアルネブがその口を開く。

 


 「もしこの世界で、死んでしまうと…君たちは……――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」


 「あっ……」


 アルネブが発した言葉によって、一瞬、時が止まり、全てを悟った。ツルギはそんな感覚がした。

 そしてこの集会は幕を閉じた――――。





*************************





 「――さて、これからどうするか…」


 集会が終わり、アルネブと少女もこの場から去ってしまい、ツルギはこれから何をすればいいか、悩んでいた。


 「まあ、あいつらもどっか行ったことだし、飯でも食いに行こうぜ。スピリットとやらの回復もできるらしいからな」

 

 フォーティンスが提案する。


 すると、とても嬉しそうな顔でカナリアがツルギ達に何か伝える。

 

 「ーーッ! なら、私いいとこ知ってるよ!」


 「…?」

 




*************************





 「――なあ、街に出てきたのはいいが、一体どこに向かってるんだ?」


 ツルギ達はカナリアに連れられて、アルネブの拠点近郊の城塞都市マラドーラに出向いた。


 「まあ、さっきの会話に割り込んできたことから推測するに、十中八九食い物関係なんだろうけど」


 ツルギの言葉にカナリアは「せいかーい」と愉快に返答した。


 (…あの人が来てくれなかったのが、ちょっと心残りだけどな……)


 ツルギは心残りがあった。

 年齢二十代くらいの五人目の転生者。彼女を連れてくることができなかったのだ。

 

 彼女は集会が終わるとそそくさと大広間を出て行ってしまったため、声をかけることができなかった。

 せっかく五人集まったのだから、一緒に連れて行ってあげたいと思っていたが、それは叶わなかった。



 しばらくカナリアに着いていくと、前方に一際目立つアーケードがあった。そして入り口の大きな門には『マラドーラ・フード・ライン』と書かれていた。


 「あれ? もしかしてここが飲食店街ってやつか?」


 「え? ツルギ君も探してたんだ。そう、あれがマラドーラの飲食店街だよ。」


 「こんなとこにあったんだなー。逆方向で探してたからそりゃ見つからないわけだ」


 そしてツルギ達は飲食店街に入る。





*************************





 「あっ! あったあった。ここだよ、ここ」


 「おっ、これは…」


 「そう! ここは私が異世界に来たときに真っ先に見つけたレストラン。お店の前通ったらめっちゃいい匂いしたから、匂いに釣られてつい入っちゃって。もう五回も来てるんだ」


 なんとカナリアはもうすでにお気に入りのレストランを見つけていたのだ。


 「お前…もう、行きつけの店を見つけたのか。さすが大食い系なだけあるわ」


 ツルギは苦笑いでそう言った。それにカナリアはヘヘッと笑った。


 「このお店はイタリアンでね。私はピザを食べたんだけど、めっちゃ美味しかったよ」


 「へー、この世界にもイタリアンってあるんだな」


 ツルギは現実世界の食べ物が別世界にも存在する事実に驚いた。

 すると、

 

 ジュルリ

 と、よだれが垂れる音がした。そしてツルギ達が音のした方向を向くと、


 「あ、アレイシス? どしたの?」


 よだれを垂らしていたのはアレイシスだった。

 クールなキャラだと思っていたツルギはとても驚き、見た目とのギャップで笑いそうになった。


 「おっと、僕としたことが。すまない、ちょっとお腹が空いていてね」


 アレイシスが顔を赤らめ、よだれを拭き取りながらそう言った。


 「アレイシスも腹減ってるんだから、早く店ん中入ろうぜ。俺も早く飯が食いてえ」


 フォーティンスが促し、ツルギ達は店の中へ入った。


 店の内装は本場さながらの雰囲気で、中央にバーカウンター、窓側にはテーブル席が置かれている。照明はランタンが用いられており、どこか落ち着く空間であった。


 ツルギ達は四人だったのでテーブル席に座った。


 

 「じゃあ、何食べたいか決まったら教えてね」


 すると、ツルギは早速食べたいものが決まったようで、カナリアに注文する。


 「俺はやっぱり、王道を征く、カルボナーラが食いたいかな」


 「おっ、いいねー。アレイシス君は?」


 「そうだな…僕はさっきカナリアがお勧めしてくれた、ピザを食べようかな」


 「オッケー、オッケー。フォースきゅんは?」


 「俺はせっかく異世界に来たんだから、なんか珍しいものでも食いてえな。なあそういうのないのか?」


 フォーティンスは目を輝かせてカナリアの方をまじまじと見る。


 「ええ…珍しいものぉ? うーん…そうだなぁ……

あっ、そういえば、これは多分フォースきゅんも食べたことないんじゃない?」


 カナリアがメニュー表を指差す。


 「ホタルガイのグラタン…? なんだこれ」


 「ホタルガイってのは殻が発光する貝らしくて、この地域ではよく獲れるんだって。味は食べてみたけどホタテみたいだったよ」


 「おおっ、いいじゃねぇか。俺、それにする!」


 フォーティンスは威勢よくカナリアに注文した。どうやらフォーティンスはホタテが好物らしい。


 「りょーかい。じゃあ、ツルギ君はカルボナーラ、アレイシス君はピザ、フォースきゅんはホタルガイでオッケーかな?」


 三人同時に頷き、カナリアは三人が頼んだものと、自分が食べるボロネーゼを店員に注文した。



 


*************************





 「お待たせしました。ボロネーゼと、カルボナーラと、マルゲリータと、ホタルガイのグラタンです」


 二十分ほど待つと、頼んだメニューが来た。


 「うほぉぉ! うまそぉぉ!」


 ツルギと、カナリア以外の二人はお腹が空いていたので頼んだものが来た瞬間、嬉しそうな表情でよだれを垂らした。


 「みんな、ゆっくり味わって食べるんだよ?」


 「わかってるって」


 「へへっ、いっただきまーす」


 ツルギがナポリタンを口に運ぼうとした、まさにそのとき――。


 ドッカーン!!


 「――ッ!? なんだ!? 爆発!?」


 店の外から爆発音がした。それも相当大きな音だ。


 すぐにツルギ達は店の外へ出て、状況を確認する。すると目に飛び込んできたのは――、


 「なっ…何だあれ!? く、熊!?」


 そこにいたのは、熊のような見た目の生物であった。見た目は熊そのものであったが、二足歩行で、体になんとダイナマイトが刺さっている。否、埋まっていると表現した方がいいかもしれない。


 「あいつが爆発を? だとしたら放っておけないな」


 フォーティンスが顔をこわばらせ、熊を鋭い目つきで睨む。すると、それに呼応するように熊も雄叫びをあげる。そして、なんと――、


 ズバッ!

 熊は体に埋まっていたダイナマイトを勢いよく引き抜いたのだ。そしてそれをツルギ達めがけて投げる。


 「――ッ! 避けろぉぉ!!」


 ツルギが持ち前のよく響く声で叫ぶ。


 ドッカーン!!


 咄嗟に横に飛び、ごろっと転がったおかげでツルギ達は爆発に当たらずにすんだが、元いた場所はレンガ造りの通路が木っ端微塵になっており、地面も一メートルほど深く抉られている。


 「くっ…あのダイナマイト、相当火薬が詰まってる。当たったら、おそらく即死だ」


 アレイシスは爆発の威力から火薬の量と即死の威力であることを推測した。


 「だけどよ、おかしいことがあるぜ…。あんなどデカい爆発だったってのに、火薬の匂いが一切しねえ」


 「なにっ。……確かに、火薬の匂いが全くしない…」


 フォーティンスの言葉に促され、アレイシスも匂いを嗅ぐと、火薬の匂いがしないことにはすぐに気づいた。それはツルギとカナリアも同じだ。



 ピーッ! ピーッ!


 すると、集会でアルネブから貰った腕時計が突如、光りだした。


  そして、その光がディスプレイのように変形し、アバターが出現した。


 『緊急任務! 緊急任務! マラドーラ・フード・ラインに出没中の『ボンバーベアー』を討伐せよ!』


 「緊急…任務だって!?」


 いきなり始まった任務に、ツルギは動揺を隠さなかった。その肩をアレイシスがポンと叩く。


 「大丈夫だ。みんなで力を合わせれば、きっと勝てる」


 アレイシスはツルギの背中を押すような言葉を投げる。


 「最初の任務が緊急とは、これまた厄介なことだなおい」


 「もう! せっかく美味しい料理食べるところだったのに! 許しません!」


 フォーティンスとカナリアも戦闘体制に入る。


 「みんな…!」


 三人の心構えにツルギも応えなければいけない。そして、周辺の人々も守らないといけない。そう、自分に言い聞かせて、英雄になるための第一歩だと信じて、『ボンバーベアー』に立ち向かう。


 「ここは俺たちで、片付けるぞ!」



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