第四話 仲間の証
(うっ、眩しっ)
重厚な扉を開けたツルギに逆光が降りかかってきた。
腕で光を遮りながら、大広間の中に入る。
するとーー、
(あっ、あの人たちは)
ツルギは大広間の中央付近にいた四人の姿を目にとらえた。
男が二人、女が二人。いずれもツルギのように現代人の姿とはかけ離れた格好をしているのは遠くからでもわかった。
(ーーあれ…? あいつはたしか…あの時の…)
そこにいた四人、そのうち三人は見覚えがなかったが、一人、見知った顔の人物がいた。
服装は上裸、左目に眼帯をつけており、腰に剣を携えている。そしていかにも凶暴そうな目つき。
そう、ツルギが飲食店街を探していたとき、大通りを猛スピードで突進していたあの人物、それが四人の転生者のうちの一人だった。
(あいつも異世界召喚者だったのか。まあ、殺し屋じゃなくてよかったかな)
ツルギは少し安堵したような表情をした。そして、四人の近くに歩み寄る。近づくと相手もこちらの存在に気づいたようだった。
「よぉ、初めましてだな。みんな、この世界に召喚された人たちなんだろ?」
「あぁん? 誰だテメェ? 知らねぇ顔だな」
ツルギが話しかけると、四人のうち、あの眼帯の男が威嚇をするような態度をとってきた。
「いやいや、知らない顔って、俺ら一回会ってるんだぜ。ほら、大通りでお前が暴れてたとき…」
「…」
眼帯男は顎に手を当て、考える素振りをした。
「ーーいや、知らねぇな」
「思い出せないんかい!」
眼帯男はどうやらツルギの顔を覚えてなかったようだ。
「お前マジかよ。ちょっと前に会ったばかりだろ…もしかして記憶喪失?」
「あぁ!? テメェ俺の記憶力がないって言いたいのか!?」
「えっ!? いや、そんなんじゃなくて…」
「うるせぇ! 一発食らっとけ!」
ツルギの言動に怒り、眼帯男が殴りかかってきたそのとき。
「ちょっと待った」
ガシッ
四人の中にいた、白髪で、いかにも騎士の見た目をした男が眼帯男の腕を後ろから掴み、静止させた。
「おおっ、助かったぜ。仲介サンキュー」
ツルギが感謝の言葉を伝える。
「ーーッ! 何しやがんだテメェ!」
逆に眼帯男はすかさず反発する。
「このような場で争いはいけない。我々、味方側の本部なのだからね。それにーー」
「僕たちはこれから、この世界で行動を共にする、チームであり、仲間だ。最初から争っていたら、この先どうしようもないだろう?」
白髪の男がもっともな言葉を述べる。それに乗じてーー、
「わ、私も、その通りだと思います。会ったばかりなのに喧嘩しちゃうと、絶対、仲良くなれないと…思うから……ね…?」
白髪の男の横から女が弱々しい声で便乗してきた。
容姿は焦げ茶色の髪で、頭にオオカミの耳がついていた。
「…チッ」
すると、眼帯男が白髪の男の手を跳ね除ける。
「今回だけは許してやる。今回だけだからなっ!」
眼帯男はツルギに指差しでそう言った。
「わかったわかった、俺も今後は、お前の地雷を踏まないように努力するわ」
「…そういえば、まだみんなの名前聞いてなかったよな」
「ああ、確かにそうだったね」
白髪の男がツルギに同感する。
「んじゃ、まずは俺から」
「俺の名は、アサヒ・ツルギ。この世界の英雄になる予定の男だ。英雄ってのは見栄張りすぎだと思うけど、まぁよろしく頼む」
「英雄か…いい夢じゃないか」
白髪の男が目を閉じながら頷いた。
「え? そう?」
「あぁ、大きな夢を持つことはとてもいいことだからね」
自分の夢を褒められて、ツルギは思わず口角が上げた。
「俺だって、テメェに負けねぇくらいでっかい夢持ってるからな?」
眼帯男がなぜかツルギに張り合ってきた。おそらく自分のほうが上だと、そう言いたいのだろう。
「そこって競い合うとこなのか?」
ツルギと他の面子が苦笑いを浮かべる。
「ーーでは、私から自己紹介をさせてもらおう」
そして、白髪の男が自己紹介を始める。
「僕の名前は『アレイシス・ホームズ』。アレイシスと、そう呼んでくれると嬉しい」
「アレイシスって言うんだな。ホームズって、もしかしてシャーロック・ホームズの…?」
シャーロック・ホームズとはイギリスの小説に出てくるキャラクターで、世界で最も有名な架空の名探偵のことである。
「あぁその通り。僕はあの小説が小さい頃から大好きでね。推理をするのが得意なんだ。だからこの名前は、現世で好きだった小説の主人公に準えてつけられたのだと思うよ」
「そうなんだな。俺の名前は…まぁそのままというか、元の名前から一部を取ってつけられたみたいなもんだから、違和感マシマシなんだよな…」
「そうかもしれないね。でも、この世界で暮らしいていくうちに慣れていくさ」
アレイシスは微笑みながらそう言った。
「まぁそうだな。じゃ、これからお互い、共に生き抜いていく仲間として、よろしくな」
ツルギはアレイシスに手を差し出す。
「あぁ、こちらこそ」
そしてツルギとアレイシスは、仲間の証として握手を交わした。
「じゃあ次は…、そこのケモ耳の女の子だな!」
ツルギは獣人の女を指差して自己紹介を促した。
「ええっ、私!? そんな、名乗るほどの者でもないけど…」
すると女は顔を赤らめ、照れくさそうにうつむいてしまった。
「何言ってるんだよ。俺らはチームであり仲間だ。そしてもちろん君も同じさ。だから、名前はもちろん、他のこともたくさん、聞かせてくれよ」
ツルギが優しい口調で話しかける。おそらく、女性だからという理由で多少の下心もあるのだろうが、それ以上に心の底から親しみの感情が溢れている、そんな話し方だった。
パァァッ
それを聞いた獣人女は顔を輝かせ、
「んえぇ、そんなっずるいよぉ…ツルギ君ったら、女たらしなんだからぁ」
ツルギのことをじーっと見つめてきた。
「えぇ…」
(こいつ、案外ちょろいな…)
ツルギは不覚にもそう思ってしまった。
「じゃ、自己紹介頼むわ」
「はい! 私の名前は『カナリア・メルフェッサ』っていいます。えーっと、食べることが大好きです! だからこの世界でも、いーっぱい、色んなものを食べたいなぁって、思ってます」
「おおっ、大食い系か。俺も食べるの好きだから、今度一緒に、レストランとか行こうぜ」
「ええ!? やったー! じゃあ、いつか絶対行こうね! 言っとくけどツルギ君の奢りだからねぇ」
「ええ…俺が奢るのかよ…」
そうしてツルギは、カナリアとも握手を交わした。
「ーーで、次は…」
「次は俺様だな」
「あっ、そういえばお前の名前まだ知らないんだったな」
「ーーッ! 勝手に知った気になってんじゃねぇ!」
「あーすまんすまん。このとおりだ、許して」
(またぶん殴ってくるとかやめてくれよ…)
ツルギはまた殴りかかってくる可能性があることを恐れ、ちゃんと謝った。
「はぁっ、俺は『フォーティンス』。呼び方は…別にどうでもいい。よろしくな」
「…んー、フォーティンスか…」
ツルギが少し考える素振りをする。
「んだテメェ、なんか不満か?」
「…呼び方はなんでもいいんだよな?」
「あぁ、そうだぜ」
すると、ツルギは何か閃いたのか、フォーティンスに指差しでこう言った。
「じゃあ、『フォース』だな!」
「ふぉ、フォース?」
フォーティンスがとぼけた顔をする。
「あだ名だよ、あだ名。そうした方が呼びやすいし、名前もすぐ覚えられそうだからな。それに、フォースって、英語で『力』って意味にもなるから、お前にさ、ピッタリだろ?」
「フォースか。いいあだ名じゃないか」
「私も私も! めっちゃいい名前だと思うよ!」
アレイシスとカナリアもあだ名に興味津々の様子で、耳を傾けてきた。
「…」
しかし、何故かフォーティンスは下を向いたまま動かなくなってしまった。
「ん? どした?」
ツルギがフォーティンスに歩み寄る。するとーー
グスッ…
フォーティンスから鼻をすする音が聞こえた。
「ええっ、お前泣いてるのか?」
ツルギはとても驚いた。なぜならフォーティンスは強気で泣くような性格ではないと思っていたからだ。
アレイシスとカナリアも驚いた様子であった。
「なっ、泣いて゛ねぇよ! ただ…か、風邪がひどいだけだ!」
「いや、強がるなってー。泣いてるの、バレバレだぞ? あ、もしかして、そんなに俺がつけたあだ名がよかったとか?」
ツルギが少しでも場を盛り上げ、泣き止ませようと明るく接する。
すると、フォーティンスが涙を拭い、顔を上げた。
「ふっ…まぁ、案外そうなのかもしれないな」
「あっ…」
そして、フォーティンスが語り出すーー。
「俺ってさ、実はこう見えてあだ名で呼ばれたこと、これっぽっちもなくてよ。現世だと、こんな格好じゃなくて、もっと地味な見た目なんだ」
「けど、心の中の俺は、明るくて、熱血な性格でよ。だから、見た目と性格の振れ幅がデカすぎて、元の自分を、さらけ出せなかった。」
「そして、異世界に来て、見た目も現世とは見違えるくらい男前になって、かっこよくなって、めっちゃ嬉しかったんだ。それでも俺は怖かった。恐れていた。またあのときみたいに、自分の気持ちを、性格を、認めてもらえないんじゃないかって、だから強がってたんだ」
「でも、ツルギがあだ名で、『力』って意味の言葉で、俺のことを呼んでくれた。それで、ああ俺は認められたんだ。俺の性格を理解してくれたんだって、実感して思わず男泣きしたってとこだな」
「フォース…」
「今はただ、この言葉しか見つからないけど、」
「ありがとな、ツルギ。俺をあだ名で呼んでくれて、俺を、認めてくれてーー」
そして、フォーティンスがツルギに感謝の言葉を述べた。その目は先ほどの鋭い目つきとは違い、真っ直ぐで、透き通った目をしていた。
「ーーフォース…」
「お前、なんて悲しい過去持ってるんだよぉ!」
フォーティンスの話を聞いたツルギは急に泣き出してしまった。
「ちょっ、急に泣かないでくれよ…なんか、ちょっと恥ずかしいわ…」
「いや、こんなことがあったなら話してくれればよかったのによぉ」
「フォースよ…今まで…よく、耐えてたな…」
「ぴぇぇぇん! フォースきゅん、めっちゃ可哀想じゃないのぉぉ!」
ツルギに続いて、この話を聞いていた他二人も泣き出してしまった。
「えぇ!? お前らも? 勘弁してくれよ…」
フォーティンスがどうしたらいいか分からず思わず戸惑いの色を浮かべる。
「ーーでもまぁ、ありがとな。みんな」
戸惑いながらも、フォーティンスが改めて感謝を述べる。
「グスッ。ああ、もちろんだ。仲間なんだから、困ったら助け合うのが当然だよ」
ツルギも涙を拭い、フォーティンスと向き合う。
そしてーー
「んじゃ、ほいっ」
ツルギは手を差し出した。
「…?」
フォーティンスはそれをよくわかっていないようだった。
「なにとぼけた顔してるんだよ。握手だよ。アレイシスとカナリアともやってただろ? 仲間の証さ」
「ああ、そういうことか。さっき大泣きしちまったから、すっかり忘れてたわ」
そして、二人は互いに笑い合って、仲間の証をその手に掴み取ったーー。
「ーーあれ? そういえば、もう一人いなかったっけ…」
ツルギは感動的なシーンの後で、忘れかけていたが、もう一人、女の転生者がいることを思い出した。
そして、辺りを見回してみると…
「あっ…あの人…」
大広間の端っこのソファにもたれかかっている一人の女が目に入った。年齢はおそらく二十代くらい。
彼女こそが最後の転生者である。
(俺が来た時はみんなの近くにいたのに…いつの間に移動したんだ?)
「…なあ、あの人も俺たちと同じ転生者なんだよな?」
「ああ、そうだ。でもよ…」
フォーティンスが曇った表情で彼女について話す。
「ツルギより前からいるってのに、話しかけても相手にしてくれなくってよ…目も合わせようとしないんだ。顔の表情も変わんないし、ほんと、不気味ったらありゃしねぇぜ」
「そうなのか…」
ツルギは状況を知って、フォーティンスと同様に曇った表情になった。
(でも、転生者ってことは、俺らの仲間であることには変わりないからな…)
どんなに不気味で、無表情でも、この世界に召喚された仲間として、友達になるかもしれない存在として、ツルギはどうにかして話さないといけないと思った。
(よし、話しかけに…)
ツルギはその女と話すために、一歩踏み出した。
そのときーー、
「ごきげんよう、五人の救世主たちよ」
大広間の奥の大きい扉から、落ち着いた声でツルギ達に話しかける人物。アルネブである。
(アルネブさんか…多分これから集会でもするんだろうな)
ツルギは大広間に転生者がいることをアルネブから教えてもらったため、アルネブがしようとしてることは大体想像はついていた。
すると、ツルギはアルネブの隣を歩いてくる人物が目に入った。
「あっ…」
(あの女の子…)
その人物をツルギは知っていた。
鮮やかな空色の髪の毛。透き通ったエメラルドグリーンの瞳。カサブランカのような花の髪飾り。
服装は絢爛な白いブレザーとスラックスを見に纏い、洗練された姿だったが、どこか無鉄砲な雰囲気を醸し出している少女。
その少女は、街でフォーティンスをツバメのような姿で追いかけていた、その人だった。




