第十一話 調査開始! そして、あの場所へ
「――それで、俺らは一体どこに向かってるんだ?」
街に出てきた一行は、とある場所に向かっている。
しかし、アレイシスとフォーティンスはその場所を伝えられていない。
それにツルギは陽気に答えた。
「俺が知ってる、一番物知りな奴がいる。だからそいつを尋ねてみようと思う」
「?」
ツルギが知ってる、一番物知りで、一番信用できる人物、それは一体誰なのだろうか。
―――
「――よぉし着いた。ここだよここ」
「ん? ここって……冒険者ギルド的やつかい?」
「んー、まあ正確には案内所みたいな感じで、クエストとか、そういうのは受け付けてないんだ」
ツルギ達はマラドーラの案内所に来た。
ここの案内所は以前ツルギが訪れたところだ。
「って、おおーっ、すげえ! 文字が読めるぞ!」
ツルギは馬車の時刻表を見て、喜びの声を上げた。
「何をいまさら、なんでそんな喜んでるんだ?」
「いや、前来たときは時刻表の文字とか全く読めなかったからな。少し嬉しかっただけだよ」
この文字が読めるのも、ツルギ達が付けている腕時計のおかげだ。
これがあれば翻訳だけでなく、時間把握、クエストの通知、健康管理もしてくれる。なんとも万能だ。
「さっ、中に入ろう」
そして一行は建物の中に入った。
――
「ひょえー。すげー造りだなぁこれ」
「シャンデリアか。なるほど、粋な内装だね」
アレイシスとフォーティンスは案内所とは思えない豪華絢爛の内装に驚いている様子であった。
「じゃあ俺先に行ってるぞー」
そんな二人を横目に、ツルギはある人物の元へ向かう。
「よう、また会ったな、エルメス」
「ああっ! あなたは昨日のっ!」
ツルギが尋ねたかった人物。それは他でもない、
街随一の案内人、『エルメス・バーニエル』である。
「ああ、昨日はすまなかったな。本当に申し訳ないことをした。だから今日は多めに……」
「ぬおおおおお! 許しませんよぉぉぉ!」
ビクッ
エルメスが急に叫ぶので驚いてしまった。
「あなたは私の尊厳を破壊したのです! 街随一の案内人という尊厳をぉぉ!」
「あなたが逃げてくれたせいで、私の給料が下げられたんですからねぇぇ!? 本部長にもこっぴどく叱られて、それはもう大変だったんですよ!?」
エルメスは思いのままに激昂する。
「ちょっ、待ってくれ、頼むからそんなキレないでくれ」
ツルギが情けない声で呼びかけるも、聞く耳を持たない。
「だから今度こそ、警備の人を……」
「ああっ、待て待て! 話を聞いてくれぇ!」
警備の人と聞いて焦ったツルギは声を張り上げた。
「はい!? なんです!?」
「あのときのお金は今日持ってきた! しかも……」
するとツルギはバッグから大きな袋を取り出した。
「お前が要求してきた金額の五倍の、六百五十アンメダだ!」
ジャラジャラジャラ
そしてツルギは机に硬貨を放り出した。
それをエルメスが事細かに確認する。
「ふーむ。おおっ、確かに六百五十アンメダちょうどですな」
「だ、だろ? だから前のことは免じてくれないか?」
エルメスが腕を組み、ツルギの表情を凝視しながら考える。
「……まあしょうがないですね。前回のことは許してあげましょう」
(よかったぁー。アルネブさん、ありがと!)
ツルギは金の供給源であるアルネブに感謝するのであった。
「ただぁし!」
「今度はなんだよ……」
「次からは一回の依頼につき、料金を倍にしてお支払いいただきますよぉ!」
なんとエルメスは次からツルギのみ、料金を倍にすると言い出したのだ。
「ええっ……くそぉ、しょうがないな。わかったよ」
ツルギは悩んだが、承認するしかない。
と言っても、この街で頼れるのはエルメスただ一人だからである。
「なら良いのでぇす」
エルメスが笑顔になるのを確認すると、ツルギは本題を話し出す。
「で、今回の依頼なんだが、昨日の魔獣騒動についてのことなんだ」
「ああ、昨日の騒ぎのことですねぇ。何せ、何十匹もの魔獣が出たと言うので、私も気になって調べていたところなんですよぉ」
「え? そうだったのか。じゃあ話が早いな」
どうやらエルメスも魔獣騒動について調査を進めていたようだ。
「うちのボスが、どうやらあの騒ぎは人為的なものなんじゃないかって、推測してるんだ」
「えっ? ホントですか? それが事実なら、なんとも悪質でありますね」
エルメスは驚いている。魔獣についての知識はあまり詳しくないようだ。
「ああ、だから、騒動を起こした人物に心当たりはないかなって」
「ふむ、なるほどそういうことですかぁ……」
エルメスは顎に手を当てて、心当たりを探る。
すると、
「ああっ、そういえば」
「えっ、もしかして何か知ってるのか?」
エルメスが何か思い出したような顔になった。
その人物に心当たりがあるのだろうか。
「……確証はないのですが、昨日、この案内所に怪しい男が来ましてね」
「その男の特徴は?」
「長身のタキシード姿の金髪の男でした。人探し、という目的でここを訪れたようなのですが、『早くしてくれ』と、我々を急かしてきましてね。全く大変でしたよ」
「ですが、急いでいると言っている割にはずっと笑みを浮かべており、焦っている様子なんて微塵も感じませんでした」
「結局探している人の情報はこちらではなかったため、その男は足早に帰ってしまいました」
十分怪しいが、これでは確証がない。
もう一つ、確認しなければいけないことがある。
「その探している人の名前って、誰だったんだ?」
「ほう、名前ですか」
エルメスは記憶から絞りとるように思い出す。
「ああ思い出しました。確か、『カナリアさん』と『クレアさん』だったはずです」
「――ッ」
その名前を聞いてツルギは確信し、拳を握りしめた。
(多分、犯人はその金髪男で確定だな)
「だからとても怪しかったんですよ。どちらも女性の名前ですから、誘拐犯なんじゃないかってね」
「ああ、そうなのかもな。助かったよ。いい情報がもらえた」
ツルギはエルメスに感謝を示した。
犯人の情報が得られた、大きな進歩だ。
「ならいいんです。では……」
するとエルメスは手を差し出して、やはりあれを要求する。
「言ったとおり、倍の料金二百六十アンメダ、きっちりいただきますよぉっ!」
「げっ、そうだったな。まあ今回は逃げやしないから、安心してくれ」
そしてツルギは渋々エルメスに硬貨を渡した。
(かなり金使っちゃったな……。生活できるだろうか)
多少の心配はあったが、カナリア達を救うためだ、と言い聞かせるしかなかった。
「じゃあな、また依頼することもあるだろうから、そのときはよろしく」
「はい、あなたに女神様のご加護が恵まれることを、心から祈っておりまぁす」
エルメスは手を合わせ、ツルギに一礼をした。
(女神様、か。この世界の信仰対象なんだろうな。
まあ、心の拠り所になることも、これからあるかもな)
この世界にも、神様というのがいるらしい。
人々の思想であるのは変わらないとは思うが。
そうしてツルギはエルメスと別れ、アレイシスとフォーティンスのところに戻った。
―――
「――あれ? 二人がいない」
案内所の広間に戻ってきたツルギだったが、いるはずのアレイシスとフォーティンスの姿が見えない。
(どこ行ったんだ? まさか勝手に外に出て、『迷子になっちゃったぁー』とかないよな……あいつら多分ここらへんに詳しくないだろうし……)
フォーティンスだけならまだしも、アレイシスが付いているため、そんなことはないと思いたいが……。
「とにかく、外に行ってみるか」
とりあえず外に行ってみることにした。
しかし、どうやら外は騒がしいようだ。
「――何だか騒がしいな……って、なんじゃこりゃあ!」
外でツルギが見たもの、それはむさ苦しい男達の決闘大会だった。武器は使わない、拳のみの闘いだ。
なぜこうなっているのかわからない。ツルギはただ唖然とその光景を眺めていた。
「なんだよこの状況……ん? あれはもしや!」
決闘の渦の中に、既視感のある人物がいた。
アレイシスとフォーティンスだ。なぜか戦場に巻き込まれていたのだ。
ツルギはすぐさま駆け寄る。
「おーい、二人ともー!」
「あっ、ツルギ! 来てくれたか!」
聞く耳を持ってくれたのはアレイシスのみだった。
フォーティンスは闘いに集中しているようで、見知らぬ男と殴り合っている。
「一体どうなってるんだよこれっ」
「僕もわからないんだ。外で急に雄叫びが聞こえて何かと思って出てみたら、殴り合いに巻き込まれてしまって」
アレイシスもこれが何なのかわからないらしい。
ツルギが考えを巡らす。
すると戦っている男達にとある共通点があることに気づいた。
「ん? そういえば闘ってる人たち、全員人ではないな」
よく見てみると、男達は全員、ツルギ達と同じ人族とは違う系統であった。
獣人、ツノが生えている人(多分鬼族)、トカゲ人間など、殴り合っている人の大多数が亜人だった。
そして闘っている人は皆、顔を赤らめているようだ。
(全員普通の人間じゃなく、必死に勝負に勝とうとしていて、顔を赤くしている……。つまり)
ツルギが出した結論、それは、
「発情期だな。これ」
「え」
驚きの回答にアレイシスも顔が固まる。
「今なんて?」
「発情期だよ。あいつら全員、人族じゃない、亜人ってやつだ。亜人ってのは動物の血も入ってるから、発情期もある。あそこの異性を奪い合うために闘ってるんだろ」
ツルギは遠くに亜人の女達が戦闘を見ているのを視界にとらえていた。
「なるほど、そういうこと……なのか」
アレイシスは理解が追いついていないようだが納得してくれた。
すると一人の獣人らしき、頑丈そうな男がこちらに向かってきた。
「やい貴様ら! 我と勝負するがよい! 負けたら大人しく降参してやる!」
その男はなんと決闘を申し込んできた。
「ええっ、マジかよ……。あのな俺らは人族なんだ。闘うつもりなんかねえよ」
「知るか! 我は気合に満ちているのだ! 貴様らが退くのは許さない!」
顔もかなり火照っている。どうやらかなりの興奮状態のようだ。聞く耳もやはり持ってくれない。
(これだと、言葉でどうこうするなんて出来ないな。絡まれた以上、こうするしかないか)
そしてツルギは大きくため息をついた。
「はあ、しょうがねえなっ。受けてやるよ、決闘」
「大丈夫なのかツルギ」
「なあに、心配いらねえよ。俺はあの魔獣を倒したんだ。地球のときよりは力は強くなってるはずさ」
ツルギは三人がかりともいえど、あの巨躯の魔獣を撃破した。
あの力がみなぎる感覚は今でも忘れていない。
すると獣人の男が話に割り込んでくる。
「覚悟が決まったようだな」
「ああ、決まったぜ」
「では、構えろ」
獣人の男は覚悟が決まったと聞くな否や、体を低くし、構えの体勢に入った。
そしてツルギも拳を前に出して、構えの姿勢をとる。
ふと横をチラッと見ると、遠くでフォーティンスが戦っている。
(フォースすまない! 今は耐えてくれ)
心の中でフォーティンスに謝罪すると、ツルギはすぐに正面を向き、相手を睨む。
ツルギの約十メートル手前には、獣よりも獣らしい男。鋭い目つきをしている。
そこから少しの間、沈黙が続いた。
両者とも、一歩も動かない。
こちらが先に動くか、相手が先に出るか、果たして――。
――カァーッ
「フンッ!」
バシュン!
一羽のカラスの鳴き声を合図にして、二人は同時に前に出た。
(まずは相手の動きを見ろ! 拳を握っていたら、間違いなく攻撃、手を開いていたら、受け流しからのカウンターを狙っている可能性が高い!)
以前バトル漫画で相手の手の構えから、どのような技を仕掛けてくるか、大体判断できることを知った。
ツルギはその知識を使う。異世界転生ならではだ。
(奴の手は……開いてる! カウンターだ!)
獣人男の手は両方とも開いている。
ツルギはカウンター狙いだと判断した。
その読みが当たったのか、獣人男はツルギとぶつかる寸前、勢いを殺し、手を曲げて受け流し体勢に入る。
「そっちの考えは、読めてんだよ!」
シュッ
「――ッ!? 何ッ!?」
ツルギは受け流しからのカウンターを防ぐため、
あえて攻撃はせず、相手の側方に身を捩る。
そうすることで、獣人男はツルギに触れることが出来ないため、一気に体勢が崩れる。
「これでも食らえや!」
ドゴッ!
「ぐぅぅ!」
ツルギは獣人男の横腹に渾身の一撃を叩き込んだ。
そしてその男は転がりながら、ツルギから距離をとる。
「くっ、中々のっ、攻撃だっ」
(おおっ、結構効いてそうじゃん)
ツルギはそれを見るなり、少しだけ調子に乗ってしまった。
「だがまだだ! 我は腹に一発食らった程度で負ける気はない!」
しかし一発食らった程度で、この頑丈そうな男が
へこたれるわけがない。
「次だ! うおおおおおっ!」
獣人男が再び立ち上がると、ツルギめがけて突進してきた。
今度は拳を唸るほどに強く握っている。
(殴り合いに持ち込む気だな)
「いいぜっ、受けて立ってやる!」
それにツルギも血が沸き立つ。
そして、両者の間隔がゼロ距離になった瞬間、決死の殴り合いが幕を開ける。
「オラララララララララララララララララッ!!」
「どりゃあああああああああああああああっ!!」
ドゴドゴドゴドゴッ!
拳同士がぶつかり合う音が周囲に響き渡る。
両者とも、一歩も退かない。一進一退の殴り合いだ。
「オラララララララララララララララララッ!!」
「ぐうっ、どりゃああああああああああああっ!!」
ドゴッ、ドゴドゴドゴッ!
しかし、時間が経つにつれて、ツルギの攻撃の手が衰えていく。
体の大きさも、筋肉量もやはり獣人男の方が上手だ。
顔面への打撲も増えていくのはツルギのみである。
(くそ、このままじゃ押されて負けるっ、どうしたら……)
ツルギは戦いの中で思考を巡らす。
(足を使うか!? いや、俺にはそんな技術はない足蹴りを入れたところで、俺が体勢を崩して、死体蹴りされるだけだ!)
一ついい考えが浮かんだが、かなりリスクがあった。
(くそっ、働け! 俺の頭っ!……ん? 頭……?)
そのとき、ツルギの脳内に電流が走った。
(――ッ! あるじゃねえか! まだ使えるやつが!)
――殴り合いは佳境に入ってきていた。
「オララララララララララララララララァァッ!!」
(いけるっ。我の勢いを乗せ、押し込むっ!)
優勢になってきた獣人男は勢いのまま、強引に押し込むつもりだ。
「――へへっ」
「――ッ?」
殴り合いの最中、ツルギはニヤッと笑みを浮かべた。
そのときだ。
「よいっとぉ!」
シュンッ
「――ッ!? なんだと!?」
ツルギは突然、足を後ろに回し、一歩だけ下がる。
後方に退いたことで、不意を突かれた獣人男の攻撃が空振った。
「からのー」
その一瞬で生まれた、僅かな隙を存分に利用する。
「フンッ!」
ドンッ!
「な、何ぃッ!?」
ツルギは大地を両足で、力の限り踏み抜いた。
そして自らの体は宙を舞う。
(ちっ、やっぱりそんな高くは飛べないよな)
しかしあまり高さは出ない。
足から地面の高さは、約五十センチ。かなり低い。
この高さでは、踵落としといった、強力な技は到底放てない。
(でも、それでいい! これでいいんだっ!)
だが、ツルギには考えがあった。
自分の頭で考えた、自分の頭を使った方法が。
(一体何をする気だ? 否、大丈夫だ。この高さ、そしてこの姿勢だと強力な技は打てないはず)
獣人男は高さと、ツルギの体勢から、繰り出す攻撃の強さを見極めた。
そして腕で自らの体を守ろうと構える。
だが、男が守っているところに、ツルギが狙う場所は
入っていなかった。
それを確認したツルギはニッと笑い、腕の力を抜いた。
頭を前方へ、体を斜めにして、突撃する。
「俺が腕と足だけを使うとでも、思ったかぁ!」
「――ッ! まさかっ!」
ツルギが見出した作戦。それはずばり、頭突きだ。
昔からツルギは石頭であった。
二歳のときにコンクリートに頭をぶつけても、たんこぶで済んだこと、
階段で頭から落ちても、鼻血が出る程度だったことなど、話を挙げたらきりがなかった。
ツルギは額に力を込める。
「これが、俺の渾身の一撃だぁぁぁぁ!!」
ドンッッ!!
「ぐはぁっ!」
二人の額が当たった瞬間、途轍もない爆音が鳴った。
だが、頭がぶつかる鈍い音ではない。
爽快感のある音だった。ツルギにはそう聞こえた。
ドサッ
「―――」
「―――」
両者とも地面に倒れ込んだ。
(くそっ、体が動かないっ……)
ツルギは落下の反動により体が動かせなかった。
何より頭が痛すぎてたまらない。
(これじゃもう……戦えないな。そういえばあの男は……)
自分はもう戦う体力は残っていない。
だが、獣人男はどうなったのだろうか。気絶してるのではと思い、首を男が倒れているであろう方へ向ける。
しかし、
「な、なんだと……」
なんとその男は力強く、大地に立ち上がっていたのだ。
(あの頭突きを当てたのに、なんで……。
あっ、そういえば、あのとき)
ツルギは男が立っていられる理由に心当たりがあった。
(あいつは俺の頭がぶつかる直前、自らの頭を前に突き出していた。反対側からも力を加えることで、
威力を相殺したってわけか)
相手も咄嗟の判断だったのだろう。だがそれが勝敗を分けたのだ。
「くそぉ」
ツルギはただ悔しかった。悔しかったのだ。
悔しさで半べそをかいた。
すると嘆いているツルギに獣人男が近づいてきた。
(――ッ! 何する気だ? まさか殺すのか!?)
ツルギは身の危険を察知する。
そして咄嗟に自分の身を守るため、必死に体を丸めた。
――しかしそんな懸念は不要だった。
驚くことに、獣人男は倒れているツルギに手を差し伸べてきた。
「貴様の術、実に見事であった。あんな攻撃を食らったのは初めてだ。今回は我の勝ちであったが、本当に紙一重の勝負だった」
「あっ」
ツルギは不意を打たれたような顔になる。
そしてよく見ると獣人男の顔は赤くなっていない。
発情期による暴走が、戦闘により少し治ったのだ。
「我も発情期のため、少々荒ぶってしまっていた。すまない」
「いやっ、いいんだよ。気にすんな」
ツルギはそんなことはないと、擁護する。
本音は「知るかボケ」の一言であったが。
だが、男の手は真っ直ぐ、真摯であった。
本心で手を差し伸べているのだとツルギは気づいた。
(――やっぱり、俺よりも何枚も上手だったんだな。
気合いも、根性も、リスペクトも)
そしてツルギは激痛に耐えながらも、男の手を取り、よっこいしょと立ち上がった。
「ありがとな。おかげで俺も、自分の実力が身に染みてわかったよ」
獣人男は頷くと、口を開けた。
「我の名は、『ライブス』と言う。是非覚えておいていただきたい」
「ああ、もちろん覚えるさ。というか多分、忘れられないと思うけどな」
彼の名は、ライブスと言うらしい。
後に聞いたことだが、獣人は相手を認めると、自分の名を名乗るとのこと。なんとも興味深い習性だ。
「ツルギ、無事でよかった」
「あっ、アレイシス。そういえばフォースは?」
「フォースなら、さっき決着が着いて、なんとフォースが勝ったんだ!」
なんとフォーティンスが勝ったらしい。
何人も相手しているように見えたため、ツルギはとても驚いた。
「マジか、すげえなあいつ。流石だわ」
肉体の力なのか、精神力なのか、おそらくフォーティンスの場合はどちらも強いから勝てたのだろう。
最も、彼の姿は見当たらなかったが。
「――ああっ、そういえば、俺、名前言ってなかったよな」
相手が名を名乗ったのに、自分が名乗らないのは失礼だと思ったのだ。
ツルギは親指を自分に向け、自己紹介をしようとした。
だが、戦いの傷は、癒えたわけではないのだ。
それを、自覚できていなかった。
「俺の名前は、アサヒ……――あれ?」
自分の名を名乗ろうとしたそのときある異変を感じ取った。
否、感じ取ったというより、目に見えたのだ。
(やばい、なんだ? 目の前が暗くなって……)
ツルギの視界が、徐々に闇に包まれていっている。
その理由は自分でもわからなかった。
徐々に聴覚や手の感覚も消えているのがわかった。
(まずい、意識がっ……)
「アレイシスっ……ごめん、やっぱ俺、やばかった、わ……」
ドサッ
その瞬間、意識が途絶えた―――。
*************************
「――ん……あれ? 俺は……ここは、どこだ?」
目を覚ますと、見知らぬ天井が目に入った。
「そうだった、俺、気絶して。うっ、痛って」
ツルギは自分が気を失っていたことは覚えていた。
布団から起きあがろうとすると、頭が痛むが、耐えられる痛みだ。
「あっ、二人とも」
ふと横を見ると、アレイシスとフォーティンスが、眠りについていた。
その隣には、置き手紙が置いてあった。
その手紙を手に取り、読んでみる。
『ツルギへ。
これを読んでいるということは、おそらく目が覚めたのだろう。でもとりあえず状況を説明しようと思う』
『君は戦いが終わった後、突然気を失ってしまったんだ。僕はすぐに助けを求めた。アルネブ様の基地に連れて行こうかと思ったが、幸いにも、近くに病院があったから、そこで診てもらった。
ちなみにここは、病院の近くの宿泊施設だ』
『医者によると原因は、スピリット不足による一時的な意識障害らしい。スピリットというのは、前にクレア様が言っていた、魂の供給源であり、エネルギーの元になっている物質だ。
それが戦いによって枯渇し、意識を保てなくなった』
『だが、命に別状はないらしい。記憶障害も起こらないと言っていたから、安心してほしい。
だから今日と明日はゆっくり休んでくれ。
アレイシス・ホームズより』
「――なるほどな。それなら安心か」
ツルギは手紙を読み終わると、安心したようにそれを机の上に置いた。
そして二人を見る。さぞ疲れていたのか、熟睡しているようだ。
「二人で俺を助けてくれたんだよな。本当にありがとう」
ツルギは二人には感謝仕切っても仕切れない。
命を救ってくれたのだから。
「――あっ、もう朝か。結構寝てたんだな、俺」
窓から外を見ると、少し明るくなっている。
もうすぐ、夜明けのようだ。
「……日の出でも見にいくか」
ツルギはふと、日の出を見たいと思った。
何故なのか。それは多分、かなりの時間、闇に飲まれていたからであろう。
ツルギは明かりを求め、着替えて部屋を出た。
「――あそこが入り口かな」
階段を降りると、すぐにロビーがあり、玄関が見えた。
(受付の人もいないし、出ていっても大丈夫か)
ツルギは玄関の扉に近づいた。このホテルの扉は
手をかけると、チェーンがかかってないのがわかった。
(チェーンがかかってないのか。こんなんで大丈夫なのだろうか?)
防犯性がなってないなとツルギは思ったが、この地域は元々治安がいいらしいので、これが普通なのだ。
そしてツルギは扉を押し開けた。
隙間から入ってくる光はなぜか異様に明るかった。
ガチャリ
―――
サァー
「――は?」
扉を開けると、そこにあったのは、街中の風景ではなく、一面に広がる花園だった――。




