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第6話 吾輩二代目太郎となる

あの日以来、吾輩はこの家で朝を迎えるようになった。


けれども、すぐに家猫になれたわけではない。


知らない場所。


知らない匂い。


そして、見たこともない人間たち。


吾輩は怖くて仕方がなかった。


昼も夜も、ご主人のベッドの下に隠れ、一週間ほどほとんどそこから出ることはなかった。


食事もベッドの下でいただいていた。


ご主人一家は無理に引っ張り出そうとはしない。


「大丈夫だよ。」


「ゆっくり慣れればいいから。」


そう優しく声を掛けるだけだった。


その言葉が少しずつ吾輩の心を安心させてくれた。


一週間ほど経つと、お腹が空けばキッチンまで行き、猫用のカリカリやフレークを食べられるようになった。


少しずつ家の中を歩き回り、ご主人のそばへも近づけるようになった。


そして、ついに抱っこまでできるようになったのである。


その頃、ご主人一家は吾輩の名前を考えていた。


実は、この家には三年前まで「太郎」というヒマラヤンの雄猫が暮らしていた。


家族みんなに愛され、幸せに暮らした猫だった。


その初代太郎は天国へ旅立ってしまったが、家族の心の中では今も大切な存在だった。


そんなある日、突然現れた一匹のヒマラヤン。


最近ではペットショップでもほとんど見かけなくなった珍しい猫。


しかも、不思議なくらい自然にこの家へ通うようになった。


「もしかしたら……。」


奥さんが静かにつぶやいた。


「太郎の生まれ変わりなのかもしれないね。」


その一言に、家族みんながうなずいた。


こうして吾輩は、「二代目太郎」と呼ばれるようになった。


けれど、その呼び名は長くは続かなかった。


いつしか誰もが、ただ「太郎」と呼ぶようになっていた。


吾輩は、その名前にどんな思いが込められているのか知らなかった。


けれど、「太郎」と呼ばれるたび、ご主人の声はどこか懐かしく、とても優しかった。


だから吾輩は、その名前をすぐに好きになったのである。


名前をもらって間もなく、ご主人は吾輩を猫用のケージへ入れた。


「今日は病院へ行こうね。」


吾輩には、まだ挨拶をしていない先住猫が三匹いた。



挿絵(By みてみん)



長老猫の大吉。


福ちゃん。


銀君。


この三匹との出会いは、また後のお話である。


そんなある日、不思議なことがあった。


この家の猫たちは、病院へ行くためにケージへ入ると、みんな決まって寂しそうな声で鳴くらしい。


「ニャー……。」


「帰りたいよ……。」


そんなふうに鳴くのだという。


ところが吾輩は違った。


ケージへ入れられても、一度も鳴かなかった。


暴れることもなく、静かに座ったまま外を眺めていた。


ご主人は不思議そうに笑いながら言った。


「太郎は本当に肝が据わっているな。」


しかし、その日の動物病院で、ご主人も吾輩も思いもよらない事実を知ることになるのである。


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