第2話 初めての夜
車の赤い灯りが見えなくなっても、吾輩はその場から動くことができなかった。
「店主……どこへ行ったの。」
そう心の中で何度も呼んでみた。
返事はない。
静かな住宅街には、北風の音だけが響いていた。
二月の夜風は、凍えるように冷たかった。
吾輩は不安でいっぱいになり、辺りを見回した。
その時だった。
遠くの暗闇の中に、二つの眩しい光が現れた。
光はどんどん大きくなる。
「何だ、あれは……。」
次の瞬間――
「ピーッ! ピーッ!」
耳をつんざくような大きな音が鳴り響いた。
見たこともない巨大な塊が、ものすごい速さで吾輩に向かってくる。
「怖い!」
考えるより先に体が動いた。
吾輩は夢中で飛び跳ね、道路脇の側溝へ飛び込んだ。
巨大な塊は、風を巻き起こしながら目の前を走り抜けていく。
しばらくの間、吾輩は震えながら身を縮めていた。
「ここなら見つからない……。」
そう自分に言い聞かせながら、その夜は冷たいコンクリートの側溝の中で過ごすことになった。
眠れない夜だった。
お腹は空いている。
喉も渇いている。
何より、店主が恋しかった。
施設にいた頃は、毎日決まった時間にご飯が出てきた。
雨にも濡れず、暑さ寒さも気にする必要はなかった。
「もう、店主は迎えに来ないのだろうか……。」
そんなことを考えているうちに、いつの間にか夜は明け始めた。
恐る恐る側溝から顔を出す。
そこには昨日とは違う景色が広がっていた。
見たこともない建物が並び、どの家も静かに朝を迎えている。
吾輩の目の前には、黒くて硬い広い道が続いていた。
その道の上を、昨日の巨大な塊が次々と走り抜けていく。
「ビューン!」
「ゴォーッ!」
風が吹きつけるたびに吾輩のひげが揺れる。
「怖い……。」
こんな場所にはいられない。
吾輩は道路を避けながら走り出した。
すると、大きな庭のある立派な家が目に入った。
「ここなら隠れられるかもしれない。」
そう思って庭へ忍び込んだ、その時だった。
「ワン! ワン! ワン!」
腹の底まで響くような声。
大きな犬が牙をむき、吾輩に向かって激しく吠えている。
「ひえぇ!」
吾輩は一目散に塀へ飛び乗った。
犬は塀の下で何度も吠え続けている。
心臓は飛び出しそうだった。
塀の上を夢中で走りながら、安全な場所を探す。
すると、周りの新しい家々とはどこか違う、不思議な空気をまとった古い建物が目に入った。
長い年月を生きてきたような木造の建物。
静かで、どこか温かい空気が流れている。
「……ここなら、大丈夫かもしれない。」
吾輩はそっと塀を降り、その古い建物の敷地へ足を踏み入れた。
その時、吾輩はまだ知らなかった。
この古びた建物との出会いが、吾輩の運命を大きく変えることになるとは。
※続きが気になる方は、ブックマークをお願いします(=^・^=)




