13話 太郎のタックル
吾輩の朝は早い。
毎朝、だいたい五時ごろになると、決まって目が覚める。
理由は簡単である。
腹が減るのだ。
吾輩は、隣で寝ているお父ちゃんの顔を、そっとのぞき込む。
「お父ちゃん……起きてる?」
じーっ。
返事はない。
目も開かない。
どうやら、まだ夢の中らしい。
仕方がないので、もう少し顔を近づけてみる。
それでも起きない。
「ニャー」
まずは、小さな声で呼んでみる。
反応なし。
「ニャー! ニャー!」
今度は、少し大きな声で呼んでみる。
それでも起きない。
こうなったら、吾輩には最後の手段がある。
お父ちゃんの頭へ顔を近づけ――。
ぺろ。
ぺろぺろ。
髪の毛を舐めるのである。
これには、さすがのお父ちゃんもかなわない。
「分かった、分かった。起きるから……」
時刻は、だいたい朝五時半。
吾輩の勝ちである。
お父ちゃんがベッドから起き上がると、吾輩もすぐに後をついていく。
すると、どこからともなく福ちゃんもやって来る。
吾輩と福ちゃんは、お父ちゃんの後ろを並んで歩き、リビングへ向かう。
これが、我が家の毎朝の日課なのである。
リビングへ着くと、お父ちゃんが大きなサッシを開けてくれる。
吾輩と福ちゃんは、すぐにウッドデッキへ飛び出す。
朝一番の仕事は、我が家の周辺を見回ることである。
まずは、畑の方向。
じーっ。
異常なし。
続いて、庭の方向。
こちらも異常なし。
吾輩にとっては、どちらも大切な朝の見回りなのである。
庭の先には、勝手口という扉がある。
そこには毎朝、外で暮らしている猫たちが、ご飯を食べにやって来る。
その日は、懐かしい顔が来ていた。
姫ちゃんである。
吾輩がこの町に捨てられ、食べるものもなく困っていたとき、ご飯をもらえるこの家まで連れて来てくれた姫ちゃん。
あのときの恩は、今でも忘れてはいない。
「姫ちゃん、おはよう」
もちろん、声に出して言ったわけではない。
ウッドデッキから姫ちゃんの姿を眺めながら、吾輩は心の中で挨拶した。
さて。
姫ちゃんが朝ご飯を食べる姿を見ていたら、吾輩のお腹はますます空いてきた。
そろそろ、吾輩も朝ご飯の時間である。
吾輩の大好物は、魚のフレーク。
中でも一番好きなのが――。
マグロだ。
しかし、ただ待っているだけでは、お父ちゃんはすぐに出してくれない。
そこで登場するのが、吾輩だけの必殺技である。
狙いを定めて、お父ちゃんの足めがけ――。
ドン!
体ごとぶつかる。
お父ちゃんとお母ちゃんは、この技を、
「太郎のタックル」
と呼んでいる。
「はいはい。分かったよ、太郎」
お父ちゃんが、マグロのフレークを用意してくれる。
やはり、タックルの効果は絶大である。
ところが吾輩は、時々、毛玉を吐いてしまう。
そのため、お父ちゃんは、一度に全部のフレークをくれない。
三回に分けてくれるのである。
まずは、一皿目。
ぺろぺろ。
むしゃむしゃ。
あっという間になくなった。
「お父ちゃん、次」
ドン!
二回目のタックルである。
二皿目も、あっという間に完食。
「まだあるだろう?」
ドン!
三回目。
こうして吾輩は、毎朝三回、お父ちゃんにタックルをお見舞いし、そのたびにマグロのフレークをいただくのである。
食べ終わった後には、カリカリも少しいただく。
これでようやく、吾輩のお腹も満足する。
さて。
腹がいっぱいになったら、次にすることは何か。
もちろん――。
寝ることである。
人間の世界では、
「猫は寝る子だから、猫と呼ばれるようになった」
という話もあるらしい。
なるほど。
それなら吾輩は、立派な猫である。
朝五時に目を覚まし、お父ちゃんを起こす。
福ちゃんと朝の見回りをして、姫ちゃんに挨拶する。
そして、三回の「太郎のタックル」で朝ご飯をいただく。
吾輩には吾輩なりに、朝からやることがたくさんあるのだ。
すべての仕事を終えた午前九時ごろ、吾輩は再び眠りにつく。
そんな吾輩を見ながら、お父ちゃんは時々言う。
「太郎はいいなあ。食べたら、また寝られて」
何を言っているのだ、お父ちゃん。
吾輩は朝から、こんなにも忙しく働いているのである。
それでは皆さん。
そろそろ眠くなってきたので、今日のところは失礼する。
おやすみにゃ。
ところで――。
毎朝、吾輩と一緒にお父ちゃんの後をついて、リビングへやって来る猫がいる。
そう。
福ちゃんである。
福ちゃんは、吾輩より少し先に、この家の家族になった先住猫だ。
見た目はおとなしくて、かわいらしい女の子。
ところが、一緒に暮らしてみると、なかなかどうして――。
この福ちゃん。
かなりの「お姫様」なのである。
なぜ吾輩が、福ちゃんを「お姫様」だと思うのか。
それは、次のお話でゆっくり紹介することにしよう。
次回――。
第14話 「福ちゃんという猫」
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