↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/12

第12話 大脱走

吾輩は認めよう。


先住猫の銀君とは、あまり仲が良くない。


理由は簡単だ。


吾輩と銀君は、同じくらいの歳のオス猫だからである。


オス猫同士というのは不思議なもので、お互い何もしていなくても、つい意識してしまう。


そんな銀君には、お父ちゃんが付けたあだ名があった。


「マイケル」


どうやら、人間の世界で有名な「プリズン・ブレイク」という外国のドラマに登場する、脱獄の天才の名前らしい。


吾輩は見たことはないが、その名に恥じないほど、銀君は脱走の天才だった。


ウッドデッキを囲むネットを毎日少しずつ噛み続け、小さな穴を広げていく。


アルミサッシのクレセント錠にはぶら下がって鍵を外し、重たい引き戸まで自分で開けてしまう。


人間より頭がいいのではないかと思うほどだった。


そして、ある夜。


とうとう事件が起きた。


その夜、お父ちゃんは寝る前に、サッシの鍵を掛け忘れてしまったのである。


夜中、銀君は音もなくサッシへ近づいた。


器用にクレセント錠を外し、体重をかけて引き戸を少しずつ開けていく。


ガラッ……。


開いた隙間は、わずか十センチほど。


だが、猫にとっては十分だった。


銀君は、するりと外へ出た。


そして、そのあとを福ちゃんが続く。


さらに吾輩も。


最後には、大吉さんまで。


気が付けば、家の中から猫が一匹もいなくなっていたのである。


翌朝。


目を覚ましたお父ちゃんは、いつものように吾輩たちを探した。


「太郎?」


返事はない。


「福ちゃん?」


どこにもいない。


「銀君?」


姿が見えない。


そして、大吉さんまでいなかった。


ふとサッシを見ると、十センチほど開いている。


「しまった!」


お父ちゃんは顔色を変えた。


「お母ちゃん! 猫たちが全員逃げた!」


その頃、吾輩はというと、裏のお宅の庭をのんびり散歩していた。


初めて見る景色。


初めて嗅ぐ草の匂い。


少しだけ冒険気分だったのである。


やがて、お父ちゃんとお母ちゃんの呼ぶ声が聞こえてきた。


福ちゃんは、その声を聞くと真っ先に家へ戻った。


銀君も、お母ちゃんにあっさり捕まり御用となる。


吾輩も、お父ちゃんに抱きかかえられ、無事に帰宅した。


しかし――。


大吉さんだけが帰ってこない。


家の周りを探しても姿はない。


名前を呼んでも返事はない。


「大吉ー!」


「大吉、どこにいるのー!」


お父ちゃんとお母ちゃんは必死になって探した。


しかし、どこにも大吉さんの姿はなかった。


二人とも仕事へ行かなければならず、後ろ髪を引かれる思いで家を出た。


夕方。


仕事から帰ったお母ちゃんが留守番電話を確認すると、一件のメッセージが入っていた。


「大石さんのお宅でしょうか?」


聞き覚えのない名字だった。


お母ちゃんは、間違い電話だと思った。


ところが、その時だった。


電話が鳴った。


「もしもし」


「大吉君をお預かりしています」


「えっ! 大吉ですか!」


電話をかけてくれた方は、大吉さんが付けていたネームプレートの「大吉」という文字を、「大石」と読み間違えて連絡してくれたそうだ。


大吉さんが見つかった。


その一言で、お母ちゃんは飛び上がるほど驚いた。


そして、急いで車に乗り込み、教えられた家へ向かった。


そこは、新しく建てられたばかりの立派なお宅だった。


玄関を開けてもらうと――。


挿絵(By みてみん)


高級そうな玄関マットの上で、大吉さんがのんびりくつろいでいた。


「大吉!」


お母ちゃんが呼んでも、大吉さんは知らん顔。


まるで、


「何か?」


と言わんばかりの表情だったという。


あとで分かったことだが、大吉さんが歩いた道のりは、実に不思議なものだった。


家を出ると、東側にある側溝を南へ進む。


突き当たりから外へ出ると、そこはアパートの駐車場。


その駐車場を横切り、そこから右へ曲がれば我が家へ戻れたはずだった。


ところが――。


大吉さんは、なぜか左へ行った。


その先には、普段なら交通量の多い道路がある。


幸い深夜だったため車は少なかったようだが、大吉さんはその道路を横断。


さらに広い空き地をまっすぐ進み、急な斜面を下り、新しくできた住宅地まで歩いていたのである。


家から直線距離なら、わずか五十メートルほど。


しかし、車で向かうには大きく回らなければならず、二百メートル近くもある場所だった。


昔から、


「大吉は帰巣本能をどこかに忘れてきた」


と言われていた。


散歩へ行けば、家とは反対方向へ歩いて行く。


そして今度は、家のすぐ近くまで来ても、やっぱり反対方向へ進んでしまったのである。


さすが、大吉さん。


十五歳になっても、そこだけは何も変わっていなかった。


それでも、無事に帰ってきてくれた。


あの日、お父ちゃんもお母ちゃんも、そして吾輩たちも、ようやく胸をなで下ろしたのである。


この事件以来、サッシのクレセント錠は、寝る前に必ず確認するのが我が家の決まりになった。


もっとも――。


「マイケル」こと銀君が、この程度で脱走を諦めるはずもない。


どうやら吾輩たちの平穏な暮らしは、まだまだ先のようである。


※続きが気になる方は、ブックマークをお願いします。(=^・^=)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。