9 心機一転・・・謎の母子公開
きのうミコさまの社員寮の敷地に車が突っ込んだ、救急車と警察を呼んだ、ドライバーは高齢でケガをしたが命に別条はなく、フェンス代わりの木が傾いた。ローカル新聞も来て写真を撮っていた。ミコさまに写真を送り、顛末を報告した
ガゼボにて
「びっくりしたわ、社員寮が壊れてないかとか心配で、写真送ってくれてありがとう」
「ドライバーは85歳なのでもう返納でしょうね」
「でもここらは車がないと不便だからなかなか進まないわよね、返納」
「一番大きな問題は皆自分が高齢だと思ってないことなんですよ。昨日の今日だから」
「きのうのきょう?」
「私が考えた理論なんですが、人間って一日一日を生きているわけでしょ、昨日の延長の今日として、だからいつの間にかこんな年になったとある日気が付くんですが、気が付かない人もいる」
「まあ、そうね」
「若い時はお誕生会だとか、入学式、卒業式、成人式、入社式なんかがあって、自分が年を取って大人になるってことが分かる瞬間があるじゃないですか。でも大人になったら特にない、還暦とか後期高齢者の通知とか、体の不調とかあるにはあるけど、「昨日の今日」で昨日の延長で生きているから本人は年を取ったことにピンと来てない」
「だから免許返納なんて自分のこととは思わない、オレはまだまだ平気って皆思っているから」
「だから返納せよなんて言われると当然怒るわけ」
「他人から見たら老人なんだけど、中の人はそう思っていない」
「じゃ、やっぱり年齢制限ではなく、様々なテストして受かったら免許更新できるにすべきかな、今のテストって甘いもんね」「知力、体力を持って数値化して本人にわからせることが重要か」
ため息交じりの空気が漂う
「ところで・・」馬場のレーコちゃんが口火を切った
「あの人手不足で工場長経由でね友人のホテルでのバイトを探してるんだけどやらない?
3時間程度なんだけど、来週の連休」
「私はまだギブスがとれないから無理だわ」と仙波レーコ
「私は、家具が届くので家にいないと組み立てとかあるし・・・」と私
ミコさまも会計士か誰かが来るとか会いに行くとかでそれぞれ行けないことになった
「どうしよう、ほんと人手不足で大変なのよ」
「ねえだったら、奥の謎の母子家庭のシンママに頼んでみたら?」「でも、子供いるし」
「私が面倒見てもいいよ、3時間くらいなら」と私
「そうねダメ元で話してみましょうか」と姉御が言った
訳ありだからそっとしといてあげて・・・といっていたミコさまがインターフォンに向かって行った
(訳ありのわけが解明されるのか?)
一度か二度見かけて挨拶したが、いつも帽子を目深にかぶっていて、小さな子供がいるのに庭で遊ばせている様子もない、あまり表に出ず静かにくらしている母子の謎とは?
もともとこの家はその叔母の別荘だったらしく、頻繁にその叔母が来ていて、今日もいるようだった。その叔母とミコさまは隣同士ということもあり長い知り合いのようで、中に入って話をしているようだった
「実はね、あの親子は・・・・」
ところが数日後、その母は幼子を連れて私たちの前に堂々と姿を現した。
若くてきれいな母親だった。
「ずいぶん、ご心配をおかけしましたが、全てが片付きましたので改めてこれからよろしくお願いします」(なんだいい子じゃないの、このお母さん)
「そう、よかったわね」ミコさまはすべてを知っているらしい。
そしてホテルのバイトにも行くようだ。
「叔母が来ますが明日だけは都合が悪いので3時間だけ預かって頂けないでしょうか」
「もちろん、いいですよ、私も東京行きは午後にしましたから、みんなで面倒見ることにしましょう」
「よろしくおねがいします、この子はミキ4歳です。さあミキちゃんご挨拶を」
促された幼子は恥ずかしそうに母親の陰から顔を出した
「ミキちゃん、明日オバサンたちと一杯遊ぼうね」と投げ返したが、初めて見たサンババは幼子にはプレッシャーに違いない。
「そういえば、今夜から雨になるとかで、あした雨だったらどうします?」
「その時は社員寮に広い宴会スペースがあるのでそこで遊びましょ」
(なるほど、そういえばカフェにするとか言っておきながら中は見たことがなかったな)
実はあの母子は元夫のDVから逃げて隠れていたのだった。
物々しい玄関のカメラやライトなどはそのためで、人目につかないように暮らしていたようだ
大変なストレスだったろう、時々叔母が食料などを届けていたようで子供も外にはあまり出さなかったようだ。しかし、その夫が病気か事故で死んだらしく、もう怯える必要がなくなり、一般公開となったわけだ。
ホテルのバイトはまずは本格的社会復帰の肩慣らしといったところだろうか
孤独と孤立。これは一人暮らしのシニアだけの問題ではない、いじめにあっている子供やシングルマザーも、とくにシングルマザーは日本で今一番疲弊しているのではないだろうか
女は結婚しろ、産め、働け、その上家事育児もやらなくてはならない、そしてそのストレスは、幼児虐待や育児放棄につながり、その子たちが大きくなってまた社会問題を起こす悪循環が出来上がってしまう
その夜雨が降り風が強くなって大変なことが起こった。車が衝突して傾いた木がなんと馬場さんの家を直撃したのだった。大きな音とガラスの割れる音にパソコンの手を止めて窓に急いだ




