↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/39

激戦

 ぐ、と、周囲の空気が不穏に引き締まっていく。

 気圧されそうになりながら、ハナは口を開いた。


「あんたたち、正気かい?」

「やるしかないからやるだけだ。俺は俺の復讐のため、森を破壊させるわけにはいかない」


 鬼を殺すのは、ニルヴァーナの使命だ。他の誰にも譲るつもりはなかった。内側で蠢くどろどろしい感情を抱え、ニルヴァーナは前を向いた。

 ニルヴァーナの鈍く重い気迫に、ハナはたじろぐ。

 彼の抱えている、大いなる闇の一端に触れたせいだ。


「あんた……」

「ハナ。いいから多重儀式魔法でもなんでも展開しろ。話は聞こえていたぞ」

「……!」

「確かにお前は魔女だし賢い。だから、俺やカエンタケには分からない部分まで見えてしまって、余計に委縮してしまっている。そこは仕方がないし理解もできる。だが」


 ニルヴァーナは全身から稲妻を迸らせ、静かにいう。


「それで諦めたら、僅かな可能性にさえ気付けず、終わってしまうのではないか」

「僅かな、可能性……?」

「今この現状でしか見えていない可能性だ。個人に目を向けるな、全体に目を通せ。そうすれば見えてくる。俺はもう、策の手は打った。もちろんそこにはハナ、お前の協力も必要不可欠なんだ」


 ニルヴァーナに真っすぐ協力を要請され、ハナは困惑する。

 僅かな可能性さえ見えないことを理解するといっておきながらの要請だから尚更だ。


「闇の力に対抗するには、光の力がいる。その光の力は誰が持っている?」

「……坊か」

「すでに要請はした。敵を蹴散らしたら向かってきてくれるはずだ」

「そうか……坊の力を使えば、可能性は……あるいは」

「分かったのなら準備を始めろ。敵はもう待ってはくれなさそうだ」


 ニルヴァーナがいった瞬間、ギルバートからの攻撃が再開される。

 どん、と足を踏み抜き、また全方位に衝撃波を放つ。

 今度は多分に闇の力が付与されていて、風を受けた木々たちが枯れ腐っていく。


「命の拒絶……とんでもないな! はっ!」


 言いつつ、ニルヴァーナは全身から稲妻を放ち、その衝撃波と相殺させ、前へ突っ込む。その後をカエンタケが追いかけた。するど、二人を温かい何かが包む。

 ハナだった。


「防御系の加護魔法だよ。ないよりかはマシ程度だけどね」


 囁くように風に声を乗せて、ハナは上空へ舞い上がる。急激に魔力が集結し、魔法陣を何重にも発動させた。


『ほう、多重儀式魔法か。我にダメージを与えるならそれしかないな。魔女め』


 ギルバートが早速阻止すべくハナに手をかざす。

 素早く動いたのはカエンタケだった。刀から炎を燃え上がらせ、刀から衝撃波を飛ばす。

 ごう、と凄まじい勢いで炎の斬撃はギルバートの腕を斬った。

 即座にニルヴァーナが動き、回り込むように木々を飛び移る機動へ変化させた。


『ほう?』

「雷神鞭」


 ギルバートの意識がカエンタケへ向けられた瞬間、ニルヴァーナが上から襲い掛かる。


 ――ばぢばぢっ!!


 雷鳴が轟き、稲光と共に閃光がギルバートを殴りつける。

 ギルバートは大きく吹き飛ばされ、そこへニルヴァーナはさらに追撃を放つ。

 鈍い音を何度もおこしながら、ギルバートは木の幹に大きくめりこんだ。


『なるほど、素晴らしいな』

「まさか敵に褒めてもらえるとは思わなかったな」


 互いに笑みを交わし、ニルヴァーナはさらに雷の鞭を振るう。ギルバートは素早く木の幹から脱出し、電撃を回避すると同時に闇を弾丸のようにして放つ。

 ほとんど反射でニルヴァーナは回避する。

 自分のすぐ傍で闇が炸裂し、周囲を殺していく。


 《これは、掠めるだけで危険だな》


 ニルヴァーナは認識しつつ、稲妻を放つ。

 闇の弾丸を幾つか撃墜し、稲妻は消滅した。全力の一撃だったが、ギルバートに届くことさえできない。

 それだけで、魔力の差も明らかだった。


『さぁ、どれだけのものを見せてくれるか、楽しみだな!』


 ギルバートが地面を蹴る。

 一瞬で距離が詰まる。かなりの巨躯らしい荒々しい機動だが、ニルヴァーナに観察するだけの余裕はなかった。ほとんど身を投げ出すようにして右へ回避し、拳の直撃を避ける。

 破砕音と爆裂音が重なり、周囲を薙ぎ払う。

 拳の一撃とはとても思えない威力だった。


「とんでもないな」


 ニルヴァーナは苦笑した。

 ファルムの時も感じた戦慄を味わいつつ、ギルバートの起こした衝撃波に乗って姿勢を整えて着地。


 《破壊力も何もかも、ファルムと比べてでさえ規格外だ》


 ギルバートは追撃に迫る。ニルヴァーナは反射的に地面を殴り、土中から大量の植物を生やしてギルバートを拘束する。だが、即座に枯れ果てて朽ちた。


「拘束もできないか」


 耐性を持たせたつもりだったが、そんな小手先では通用さえしないようだ。

 それでも一瞬だけ稼いだ時間で、ニルヴァーナは距離を取っていた。いれかわるように、カエンタケが火の斬撃を何発も放つ。


『最初から命を全力で賭せ。そうでなければ、小指の先でさえ、我に触れることはかなわんぞ』


 ギルバートは片手を振るって盾を生み出し、火炎の斬撃を弾く。

 一歩、進むだけで周囲が枯れ果てていくその様は、まさに恐怖という《災厄》だ。ニルヴァーナは次々と木々の間を飛び移りながら、魔力を溜める。


 《奴に弱点というか、付け入る隙があるとすれば、その傲慢さか》


 ギルバートはほとんど回避行動をとらない。基本的に迎撃するか、受けるかのどちらかだ。特に、初撃に関しては受け止める傾向があるようだ。

 理由は、圧倒的すぎる魔力だろう。

 闇の力という特性も大きく手伝っている。あれは生半可な攻撃は全て排除してしまう。


 《だが、アンデッド故の弱点は露呈したままだ》


 アンデッドは凶悪だが、弱点も多い。

 カエンタケの攻撃を迎撃しているのも、炎が効果的だからだ。電撃もそこそこの効果があった。つまり、坊は特攻的存在だ。


 《だが、坊をそのまま突っ込ませても、恐らく負ける。それまでにどれだけ削れるか》


 ギルバートの闇の弾丸をアクロバットな宙返りで回避し、反撃に電撃の鞭を放つ。

 鋭い一撃だったが、ギルバートは二本の指で受け止め、そして握りつぶした。


 《多少のダメージもいとわない、か。だとすれば、丙子椒林剣が通用するか》


 とはいえ、それで仕留められなければニルヴァーナは即座に終わる。

 ハナの多重儀式魔法を重ねて、更に坊の一撃と咥えて叩かねば効果は怪しい。

 思考の合間に、闇が迸った。

 空中からの槍だ。


「こんな芸当もするのか!」

「どうする? 接近戦を仕掛けるしかないと俺は思うが」


 回避しつつ、カエンタケが耳打ちしてくる。


「それしかないな。距離を取っての攻撃はもうほとんど意味をなさないようだし」

「どうにかして隙を作るしかないか」

「攪乱するぞ」


 短いやり取りで、二人は頷いて地面を蹴った。

 左右に分かれ、木々を飛び回ってから互いに接近していく。


『それで接近できるのか?』


 ギルバートは分かっていたかのように、何度も腕を振って衝撃波を何重にも放つ。ニルヴァーナは稲妻を何発も放って衝撃波に穴をあける。カエンタケも刀を振るい、炎を放って衝撃波に穴をあけて接近していく。

 それを見て、ギルバートは薄く笑った。

 ざわり、と全身から力を放ち、地面を蹴って姿を消す。


 空気が、固まった。


 瞬間だった。

 空気さえ乗り越えて、ギルバートがカエンタケの背後に姿を見せる。驚く暇さえない。

 ギルバートは全身から闇の力を迸らせつつ、その拳を容赦なく放った。

 ドス、と重い音を一つたてて、カエンタケの腹に拳が貫通する。漏れ出るのは、血――ではなかった。


 顔色を変えたのは、ギルバートの方だった。


 ぎゅる、とカエンタケの全身が変異し、燃え上りながらギルバートに纏わりつく。

 呼応するように、横手からカエンタケが姿を見せ、ありったけの炎を宿しながら斬りかかる! その鋭い一閃は、ギルバートの首を深々と切り裂いた。


『これはっ……!』

「猛爆っ!」


 有無をいわさず、カエンタケは発動させた。直後、ギルバートの全身が爆発し、更なる炎に包まれていく。そこにニルヴァーナも追いついた。


「これなら、効果があるだろう! 雷神鞭!」


 ニルヴァーナも全身から電撃を放ちつつ、鞭を振るってギルバートを殴りつけた。

 声なき悲鳴があがり、ギルバートが炭化していく。


『……――なる、ほど、な』


 目を覆う程の光と炎の中、炭化しながらもギルバートは嗤った。


『素晴らしい』


 ――閃光が、弾ける。

 膨張した闇の力が渦を巻き、炎も稲妻も全て呑み込む。否、空気さえ、世界さえ呑み込んだ。それは根源的な恐怖を呼び覚まし、カエンタケとニルヴァーナは同時に飛び退く。

 だが、間に合わない。

 闇が暴発したように炸裂し、周囲を呑み込みながら破壊した。


「ぐはぁっ!」

「ぬうっ!」


 まるで隕石が落下したかのようなクレーターを作り上げながら、破壊は周囲を全て薙ぎ払った。直撃を受けた二人は木の葉のように踊らされながら、地面に叩きつけられる。


「うぐっ……!」


 ニルヴァーナは即座に全身を再生させる。

 その腕の中で、カエンタケは辛うじて無事だった。ダメージは受けているが、まだ致命傷ではない。咄嗟にニルヴァーナが庇ったのだ。

 ニルヴァーナと違い、カエンタケは再生能力がない。


「すまん……」

「構わん。だが、これは本当に厄介だな」


 あらかた再生の終えたニルヴァーナは起き上がりつつ、表情を硬くさせる。

 視線の先には、先ほどよりも強い闇を纏ったギルバート。

 地面が軋み、あまりの魔力の密度のせいか、ゆらりと空中に僅か浮いている。禍々しさが膨張し、霊魂のようなものさえ周囲に浮かび上がっている。


『はっはっは。素晴らしいぞ、貴様ら』


 ダメージは与えた。

 同時に、どうやら本気にさせてしまったらしい。



次回の更新は明日か明後日です。


応援、お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。