ニルヴァーナとカエンタケの共闘
『はっはっはっはっはぁ!』
「――来るぞ!」
ギルバートの闇が膨らむ。本能に従って二人は木々に飛び移る。直後、地面が爆裂した。
とんでもない一撃だ。
何をしたのかさえ、分からなかった。
「連携を取れなかったら即死するな!」
「まったくだ! これでは接近するのも困難だな! どうにかして背後を取るしかないか? それしか攻撃を当てられそうにもない」
「同意見だ。とはいえ、目的を忘れるなよ」
「分かっている」
二人は一瞬の交差で言葉を交わしつつ、攻撃を回避していく。
闇は次々と襲い掛かって来る。
上空から雷のようにやってこれば、蛇が這うように迫ってくる上に、弾丸も飛んでくる。
見る間に、周囲は枯れ果てていった。
《まさに不毛の大地と化していく……これは、このままでは森が死んでいく》
伊達ではない。《災厄》の二文字は。
アンデッドとなって、その側面が強化されている可能性もあるが、ニルヴァーナは静かに思考を固めていく。現状の目的は、できるだけギルバートを弱らせること。そして坊がくるまでの時間稼ぎと、ハナを守ること、だ。
「それにしても……でたらめだな!」
ギルバートは容赦なく、遠慮なく、狙いなく闇を放っていく。
めちゃくちゃだからこそ、まったく動きが読めなかった。これでは攻めあぐねる。
とはいえ、このまま回避し続けることも不可能だった。
「カエンタケ。でたらめにはでたらめでいこう」
「……! 俺に合わせろというのか」
「お前にしかできないからな」
ふっと笑って、ニルヴァーナは横向けに一回転し、弾丸と蛇のような地上からの一撃を躱して木の幹を飛び回る。その合間に腕を変化させた。
「おおおおっ!!」
腕を無数の木の枝に変化させ、その先端から種を飛ばす。その種がいきなり発火し、雨のようにギルバートを襲い掛かった。
すかさずギルバートは迎撃に出る。腕を振り払い、薙ぎ払うように衝撃波を放って爆破させる。さらにそれはニルヴァーナの腕に侵食し、枯渇させた。
「ぐうっ! しかしっ!」
ニルヴァーナは苦痛に呻きつつも、腕をパージする。同時にカエンタケが奔り、パージして砕け始めた腕に魔力をこめ、蹴り飛ばす。
爆破させた影響で、ギルバートはそれに気付くのが遅れた。
『ほう!』
「猛爆っ!」
轟音が響き渡った。
火炎が飛び散る中、ニルヴァーナは腕を巨大化させながら再生させた。
ギルバートの全身が燃える中、追撃を加えるべく、その巨大な腕で猛威をふるい、周囲の木々を薙ぎ倒す。そのまま丸太のように投げつけた。
すかさずカエンタケが炎を大量に宿す。
ズガン!
丸太が砕けながらギルバートの全身を殴り、そして爆発する。
ギルバートが大きく空中に投げ出される。そこをニルバーナは逃さなかった。全身に稲妻を迸らせ、それを一気に片手に収束させ、一気に解き放つ。
「雷神咆!」
腰だめに放ったが、反動で腕が弾かれ、尻餅をつく。
それだけすさまじい勢いで放たれた雷撃は、世界を白に染めながらギルバートに直撃した。とてつもない電圧と電流がギルバートの全身を襲い、炭化させていく。
『くはははははあっ!』
だが、響いてきたのはギルバートの哄笑だった。
思わずニルヴァーナとカエンタケは苦笑する。
冗談ではない。通常であれば、おそらく、ファルムでも大打撃を受けるだろう連撃だった。それを、笑って済ませているのである。
『面白いな!』
闇の力を放ち、纏う雷を散らす。
炭化していた全身が、即座に再生していく。その速度は、ニルヴァーナにも匹敵する。
「ダメージは、与えられているのか、あれは……」
「確実にな。だが、その限界点は本人を含めて分かっていないのだろう」
ニルヴァーナの分析はおよそ正しい。
復活したばかりのギルバートは、全盛期とは程遠い。しかもアンデッドという状態だ。故に勝手を知らない。だが、ギルバートは全盛期の頃と同じようにふるまっている。
もちろん、その全盛期の頃の攻撃を可能としているのも事実だが。
また襲ってくる闇の攻撃を、二人は回避していく。
『木々が武器になるのであれば、こうしたらどうだ?』
ギルバートは両手をかかげ、ぐっと闇を凝縮した。
ざわり。と全身が凍る。
本能だけでなく、全身が危険を感じ取った。
「――いかんっ! カエンタケ!」
「分かっている! 逃げるぞ!」
二人は全力で地面を蹴る。
それを嘲笑うように、ギルバートは闇を解放した。
――きゅどっ!!
闇の閃光。
音もなく地面がめくれあがり、衝撃が全身を叩く。そして爆風が漏れなく周囲を薙ぎ払っていった。ニルヴァーナは抵抗さえ許されず翻弄された。
《これは、まずいっ……!》
全身が焼かれ、殴られ、破壊に嬲られる。
何度も地面に叩きつけられ、内臓さえ焼き払う熱風に持ち上げられ、そしてまた叩きつけられる。それを数度繰り返され、ニルヴァーナは意識を失った。
▲▽▲▽
――。
――――。
「ぐっ……」
鈍い痛みと鋭い痛みが交互にやってきて、ニルヴァーナは意識を取り戻した。指を動かそうとするが、反応がない。どうやら指どころか、腕さえないようだ。
自覚して、ニルヴァーナは再生を始める。
ゆっくりと魔力を吸い上げる。
闇の力によって大地もほぼ枯れているせいか、魔力があまり吸い上げられない。
いつもの十倍は時間をかけて、ようやくニルヴァーナは再生した。
ゆっくり起き上がるが、ぎこちない。
辛うじて四肢が再生できた程度のせいだ。多少の苛立ちを覚えながらも、ニルヴァーナはさらに深呼吸して魔力を集める。
「くそ、カラカラに乾いているな……」
息苦しさを覚え、ニルヴァーナは苦る。これで戦闘など、とても無理な話だ。
それでも本能的に気配を探る。
爆心地の中央、そこに禍々しい闇があった。徐々にだが膨れ上がってきている。与えたダメージの分だけ回復しているようにも見えた。
《魔力の底が見えない、か》
まさか、たった一撃で全部ひっくり返すとは、さすがに思っていなかった。
ニルヴァーナはふらふらしながらも、魔力を求めて外へ動く。すると、背中に柔らかい感触がやってきた。懐かしい匂い。リタだ。
「大丈夫ですか、主様!」
「リタ……! これは、魔力の種子か」
「はい。万が一と思って、作っておきました。お役に立てそうですね」
「助かる」
ニルヴァーナはありがたく受け取って、魔力を補給した。
そして顔を青くさせる。
「そういえば、カエンタケは?」
カエンタケも自分とほとんど同じ距離にいた。あの直撃を受けているとすれば、生きているかどうかさえ危うい。
慌てて魔力を探ると、反応があった。
「無事です。坊さんも駆け付けて、ギリギリで救出に間に合いました」
「そうか……よかった」
一通り安堵しつつも、ニルヴァーナはすぐに顔を引き締める。
最大の難関であるギルバートはまだ健在だ。何も解決していないのである。
「よーし! 坊がきたぞ! もう安心していいぞ!」
暗い雰囲気になりそうなのを打ち破ったのは、やはり坊だった。背中にぐったりしたカエンタケを背負っている。
――これで、役者は揃った。
ニルヴァーナは静かに上空で魔法陣を展開しているハナを見る。視線を感じたハナは素早く頷いた。準備は、整っているようだ。
『ほう、また新手か。いいぞ、いいぞ! どんどんと我を楽しませるがいい!』
歓喜の声をあげ、ギルバートがまた膨張する。
その圧力だけで後退させられそうになるが、ニルヴァーナは踏ん張った。
「まったく……本当に厄介だな」
『はーっははっはっは! 我は精霊王だぞ! 貴様ら雑兵はただ踊ればいいのだ!』
「何やら聞き捨てならないことを口走ってますね」
「時代遅れの挑発だ。そんなものに乗るな。ロートルになるぞ」
痛烈な皮肉をいってから、ニルヴァーナは魔力を高める。
作戦は既に頭の中で出来上がっている。
坊が背中にカエンタケを乗せたまま、ニルヴァーナのところへやってきた。
「カエンタケ、無事か」
「なんとか、な……」
坊の背中からずり落ちて、カエンタケはふらふらと立ち上がる。ダメージはかなり大きいようだ。だが、戦意は何一つ衰えていない。実に頼もしかった。
「よし。それじゃあ始めるぞ」
ニルヴァーナは合図を送った。
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