第3話 花使い選抜試験②
城のような黒い建物、花使い育成機関のロビー。
第1の試験に合格した志願者は残るよう指示され、次の試験を待っていた。
「は〜い、そこの金髪のキミ〜、あっ!入り口で会った子じゃん!」
聞いたことのある職員の呼びかけにトリスは振り返る。
左腕のない職員が目の前で立っており、嬉しそうにトリスに話しかける。
「さっきは災難だったね〜、困った人に絡まれて、トリスくん」
「なんでオレの名前知ってんだよ」
トリスが職員に尋ねた。
すると職員は体をくねらせながら話した。
「いや〜、トリスくんのことがぼくたち職員の間で話題になってさ〜、2回も攻撃を避けて、2回も蹴り入れるなんてすごいね〜。誰かに教わったの〜?」
「いや、別に…」
「…ああ、そう、格闘の才能があるんだね〜。あっそうだ、ぼくの名前はジョニイ。よろしくね〜」
ジョニイは右手で持っていたクリップボードを左の脇挟み、トリスの頭を撫で始めた。
「なにすんだよ!」
トリスは彼の手を振り払った。
「ごめん、ごめん、なんかかわいくて」
「はぁ?」
ジョニイはクリップボードをトリスに差し出し、説明した。
「じゃあ、第2の試験、読み書きを始めるね。ここの空白にトリスくんの名前と生年月日を書いて」
「えっ、それだけ?」
「うん、あと文章を読む問題もあるから。読み書きができないと色々困るからね〜」
トリスは難なく自分の名前と生年月日を書いた。
書いた文字を読んだジョニイは目を細め、また嬉しそうな弾んだ声で話した。
「合格!というか、トリスくんは今日が15歳の誕生日なの〜!おめでとう〜!はい、飴ちゃんあげる〜!」
ジョニイがまたもクリップボードを左の脇に挟み、右手でポケットからイチゴ味の飴を三つトリスに差し出した。
「いらねーよ!さっきからなんで子ども扱いすんだよ」
トリスは飴を受け取るのを拒否した。
「いーじゃん、別に〜。それじゃあ、次の問題だけど、これ読める?」
ジョニイはクリップボードの用紙に書かれた文章をトリスに見せた。
「簡単じゃん…聖花は私たちの命をつなぐ聖なる花、だろ」
「は〜い!トリスくん、第2の試験は合格だよ〜!おめでとう〜!」
「こんな簡単でいいのか」
試験に合格した嬉しさより、あまりにも簡単な内容に拍子抜けするトリス。
そして第2の試験も終了した。
それから40分ほどの休憩を挟んだ後に、スピーカーから第3と第4の試験開始のアナウンスが流れた。
「第3の試験は、一般常識でーす。世の中の常識をきちんと理解されているかどうかの試験でーす。職員からの質問に答えるのみでーす。」
「第3の試験を合格された方はそのまま続けて第4の試験に移りまーす。試験内容は意思疎通でーす。花使いはチームメイトとのコミュニケーションが必須なので、会話が通じるかどうかの試験でーす。こちらも質問に答えるだけでーす。」
「では、試験を開始しまーす」
「また簡単なのがきたな…」
トリスはやや呆れた感じでそう言った。
「また、会ったね〜!トリスく〜ん!」
ジョニイが右手に持ったクリップボードを頭上で振りながらトリスに近づいた。
「また、おまえ?」
トリスは若干嫌そうな顔をした。
「こら、年上におまえは失礼でしょ!ジョニイとお呼び!」」
「イテッ」
ジョニイはクリップボードでトリスの頭を軽く叩いた。
「じゃあ、早速始めるよ〜。準備はいい?」
「どうせ、また簡単なんだろ?さっさとしてくれ」
腕を組んだトリスがぶっきらぼうに言った。
「せっかちだね〜、きみ」
ジョニイはクリップボードに目をやり、試験の質問を読み始めた。
「じゃあ第1問、街の外にある黒っぽい土地はなんていう?」
「不毛地帯」
「正解〜。第2問、水は現在1リットルいくらくらい?」
「⒉23エル」
「は〜い、正解。第3問、大昔なにが起きた?」
「謎の病気が流行って植物を全滅させた」
「うん、正解。そんで、第4問、花使いは何歳からなれる?」
「15歳から」
「はーい、オーケー。第5問、聖花はなぜ必要?」
「生活に必要な水を出してくれるから」
「正解〜!は〜い、トリスくん第3の試験は合格だよ〜!」
ジョニイが嬉しそうに弾んだ声で言った。
「こんなのでも答えられないやつがいるのか?」
トリスはボソッとつぶやいた。
ジョニイは用紙をめくりながら言った。
「よし、じゃあ第4の試験に早速移るね〜。今日の天気は?」
「晴れ」
「ここまでどうやってきたの?」
「歩いてきた」
「どうして花使いになりたいの?」
「金のためだ」
「家族はいる?
「姉が一人だけ」
「よ〜し!第4の試験も合格だよ、トリスくん!よかったね、次の試験に進めるからここで待っててね〜!」
ジョニイが体をくねくねさせながら、嬉しそうに言った。
トリスは次の試験という言葉に驚いた。
「まだ試験があるのかよ」
「あるよ〜。慎重に人を選ばないといけないからね〜」
そう言いながらジョニイは別の志願者の元へ移動した。
試験が終了するまで暇になったトリスはロビーの隅に置かれているベンチに座った。
「すげー簡単だったな…、これでも不合格になるやつがいるんだよな…。次も超簡単なのか?」
トリスは今までの試験を振り返って思った。
花使いになるには選抜試験に合格しなければならないと聞いていた。だが、まさかこんなにも簡単だったとは思わなかった。
「姉ちゃんどうしてるかな…。ちゃんと飯食ってるかな…」
そう思いながらトリスは時間を持て余していた。
どれくらい時間が経っただろうか。突然、ロビーのスピーカーからアナウンスが流れた。
「今日は志願者の皆さま、お疲れさまでした。第4の試験まで合格された方々はおめでとうございます」
トリスはロビーを見渡した。志願者の数が来たときの半分ほどに減っていることに少し驚く。
「どんだけ簡単でも落ちるやつは落ちるんだな。勉強を教えてくれた姉ちゃんには感謝しかねーな」
姉のことを思い浮かべるトリス。
するとスピーカーから再び職員の声が流れた。
「それでは第5の試験をお伝えします!内容は時間厳守です!花使いはチームワークが欠かせません。明日の午前8時45分までにこのロビーで待機してください!1秒でも遅れたら失格となりますので、がんばってください!」
また簡単なものがきたな、とトリスは思った。
「明日も引き続き試験があるんで、覚悟してください!明日はもっときつい試験になります!では、解散!」
志願者たちが施設をぞろぞろと出ていく。
外はすっかり暗くなっていた。
「やべっ、もうこんな時間かよ!なにも言わずに出かけたから姉ちゃん怒ってるかも!」
そう思い、焦ったトリスは全速力で家に帰った。
「ただいまー!」
トリスは勢いよく家の玄関を開け、中になだれ込んだ。すると目の前に広がる光景に少し驚いた。
キッチン脇のテーブル上にケーキとスープが並べられていた。ケーキにはクリームもトッピングもない、質素でいかにも手作りなケーキである。
テーブルの席にはルシルが座っていた。トリスを見るなり微笑み、手を振る。
「…おかえり、トリス、おたんじょうびおめでとう」
トリスはルシルの前の席に座った。
「姉ちゃんが作ったのか?」
「うん、トリスのためにつくったの。たくさんたべてね」
「ありがとう、姉ちゃん…。すげーうれしいよ」
トリスはケーキを一口食べる。バナナの味がしたが、甘くなく、中は生焼けであった。
スープの具は豆しかなく、薄味で冷めていた。
他人が食べれば、どちらもマズイと感じるだろうが、トリスからしてみれば姉が一生懸命に作ってくれた美味しいごちそうである。
「ごちそうさま。すげーうまかったよ」
トリスはスープもケーキもあっという間に完食した。




