第91話「日常には戻れない?」
──レグシア、街の駐屯所。
朝日が目に染みる。やっぱり、シャバの空気は違うな……俺はタバコをふかしながらゆっくりと駐屯所をあとに──
「さっさと歩きなさいよ!」
ボカッ──!
「おいっ! 後ろから蹴ることないだろ! 枝が刺さったらどうするんだ!?」
「そもそもなんで木の枝を咥えてんのよ!?」
「雰囲気だよ! 雰囲気!」
「変なことしてないで早く帰るわよ! あーもう! 初めて捕まったわよ!」
「前に王都で捕まったじゃん!」
「あのときは悪いやつに捕まったんでしょ!? 今回はアタシたちが悪いやつじゃない!」
「俺らがいつ悪いことしたんだよ!?」
「巨大なドラゴンに乗って街に降り立ってよく言うわよ!」
「じゃあお前が止めろよな!」
「ハァ!? アタシのせいなの!? 大体、なんでもかんでも仲間にするからこうなるんでしょ!?」
「別にそこは関係ないだろ!?」
「アンタが聖竜と仲良くならなかったらこうはなってないでしょーが!」
「仲良くなってなかったら殺されてるからね!?」
どっちが悪いかをギャーギャー言いながら歩いていると、いつの間にかギルドの前に来ていた。
──ギィィッ。
扉を開け中に入ると、空気が変わった気がする。なんだか、他人の家に来た気分だ。
カウンターへ向かって歩いていると、ヒソヒソとなにかを話す声だけが聞こえてくる。
「なんか……雰囲気が……」
「そうね。いつもと違うわね」
普段は騒がしくしている冒険者たちが、こちらを見て目を逸らす。酒が置かれているテーブルも、まるでお通夜みたいだ。
「なんだ? なんかあったのか?」
しかしカウンターにつくと、エリスちゃんが変わらない笑顔で出迎えてくれた。
「あっ! ユージさん! リディアさんも! おかえりなさい♪」
「ただいま! ねぇ、エリスちゃん。みんなどうしちゃったの? なんかいつもと雰囲気違くない?」
まさか、昨日牢に入れられたことが噂になってる!? 凶悪犯罪者みたいな尾ひれがついちゃった?
「それが……みなさん、その……」
「お前のせいだぞ、ユージ」
タイミングよく、ギルドマスターが階段から降りてくる。本当にいつもタイミングどうなってんの?
どっかから見てるだろ。
「お、俺のせい? なんで?」
「お前は普通にしているだけかもしれんが、周りから見れば異常も異常。ふらっと出ていって戻ってきたら、英雄だなんだと言われている」
たしかに、改めて聞くと意味わかんないな。
「みんなな、どんどん大きくなるお前と、どう接していいのか分からないんだよ。俺も含めてな。もうお前の器の大きさが俺には分からん。ただ大きいとしか……」
なんだよ……そんなの、俺はどうすりゃいいんだよ。俺がしばらく黙っていると、マスターはなにかを察したように口を開く。
「だが、みんなお前のことを嫌いになったわけじゃないってことは分かっててくれ」
「はぁ。にしてもみんな、露骨によそよそしくなっちゃってるから、やりづらいですね……」
「慣れだとは思うんだが……お前、功績の積み上げ速度抑えられないのか? みんな追いつかん」
無理だね。俺は狙って功績を積んでないからな。
みんなには早いとこ慣れてもらうしかないのか。
「それに、お前のためでもあるんだぞ?」
「俺のため?」
「ウチだから一晩頭冷やして終わりだが、他所でやったら下手すると処刑になるぞ?」
「しょ、処刑!?」
「あぁ。処刑はなくても、鉱山での強制労働には回されるかもな」
そんなに悪いことなの!? ただ魔物に乗って帰ってきただけじゃん! あっ……だからか。知らない国からしたら、ただの敵襲だ。
俺が驚いていると、エリスちゃんがカウンターを叩いた。
「マスター! また鉱山の悪評を広めてる! いい加減、訴えますよ?」
か、かわいい……片方の頬を膨らませてマスターを睨みつけるその仕草は、もはや天使だ。
「訴えるもなにも、事実だからな」
ギルドマスターは淡々と話す。
「だとしても! そんな言い方されると、収容者用の鉱山と普通の鉱山が一緒くたにされちゃうんですよ! ドワーフの仕事を奪う気ですか!」
「鉱山? ドワーフ?」
「そっか。ユージさんは知らないんでしたね。ドワーフは鉱山都市を拠点に活動してるんです。私の実家もそこにあるんですよ」
「へぇ。鉱山で働くドワーフって、なんかイメージ通りだね」
「えっ、ドワーフは知ってるんですか?」
まぁ、地球でのイメージだけど……
「ねぇ、ユージ! 次は鉱山都市に行ってみない? エリスちゃん! 鉱石採取の依頼はないの?」
「ありますよー♪ 鉄鉱石に金、銀。レアな鉱石ですと、ヒヒイロカネなんてあります!」
ちょっと、勝手に進めないで。
「ちょっと待って。俺は家を──」
「じゃあ、最初だし鉄鉱石にしとこうかな」
「あの、俺の話を──」
「了解しました! それでは依頼を受理します!」
話を聞けぇぇぇぇぇっ!
次話へ続く




