第9話「冒険者登録? え、なんで?」
──最初の街レグシア、冒険者ギルド。
この街で出会った人、みんなが整った美しい顔立ちをしている。
そう言えば、ダイノスだって頬に傷はあるしがさつそうな話し方だが、顔面偏差値は決して低くはない。むしろ武骨なイケメン風で、いい男じゃないか。
ここに来る道中も、いや、考えごとをしていたからほとんど見てなかったな。
こりゃあ、彼女探しが楽しみだな!
「ようこそ、冒険者ギルドへ。っておーい……」
「あぁ、気にすんなエリス。こいつ、やたらと一人の世界に入りたがるんだ」
「ダイノスさん、こちらの方は?」
「こいつの名はユージ! ここで冒険者登録をしてくれ」
ダイノスの声に気付き、俺の意識は帰ってきた。
そして、ちょっと待て。
「冒険者登録? 俺は冒険者にはならないぞ?」
「何言ってんだ? 身分証は、ギルドに登録しないと貰えないぞ?」
マジかよ。
「ギルドって冒険者ギルドしかないの?」
「そりゃあ、あるにはあるが……貴族や商人、それに街の人たちは商業ギルドに登録してる」
「それと、城の兵士なんかは王城から特別に身分証が発行されてるが」
それだ! 俺は普通の生活がしたいんだよ。商業ギルド。これだ。
危ない危ない、ダイノスに騙されるとこだったぜ。
「俺は商業ギルドに登録しようかな」
「何言ってんだ! ジャイアントボアを単独討伐しておいて冒険者にはならないだと!?」
「──え!? ジャイアントボア? ですか?」
ヤバい。受付嬢が反応してしまった。
誰か、彼の暴走を止めてくれ。
「あぁ、これが……その証拠だ!」
ドンッ──!
ダイノスはカバンから取り出したジャイアントボアの毛皮、そして魔石をカウンターに置いた。
「これは──確かに、ジャイアントボアの素材。
ダイノスさん、アナタではなくて彼が倒したんですか?」
「あぁ、間違いない。俺は、明日行くはずだった討伐隊の下見として、森に入った。
そこでこの世のものとは思えない叫び声を聞き、近付いていくと、すでにユージが奴を倒していた」
えぇ。叫び声はたしかに俺です。でもね? 倒してなんかいませんよ? 勝手に死んだんです。
「そんな……信じられない……」
信じられないのは俺の方です。どうやったら彼の誤解は解けるんですか?
「それが本当なら、絶対に冒険者になるべきです!」
本当じゃないから勘弁してください。
「いや、あの……」
「ところでアナタ、ユージさん? 一体どこの街からやってきたんですか?」
あぁー、これは、どうしようか。
「えっと、に、日本です」
「ニニホン? 聞いたこともない街ですね。
ダイノスさんは知ってますか?」
「エリスもか。俺もニニホンなんて聞いたことないな」
日本です。と訂正したところでだな。さて、どうする? どうするよ、俺。
「えっと、山向こうにある小さな村なんで、知らないと思います、よ?」
これでどうだ?
「山? まさか……ロゼント山脈を越えてきたのか?」
「そう、それです! その、ロゼント山脈?
そこを越えてきて、森で迷ってしまって」
「ロゼント山脈!? ワイバーンの巣じゃないですか! そんな危険な山を……」
うそーん……。そんな危険な山を越えてきて、森で迷ってジャイアントボアを倒したの? 俺。
世間を知らない最強の男、街に現る。じゃないか。
あぁ、エリスちゃんの尊敬の眼差しが痛い……。
「絶ッッ対にっ! 冒険者になるべきです!」
バンッ! っとカウンターを叩いて、椅子の上に立ち上がるエリスちゃん。
か、か、可愛い……。
「は、はい……冒険者になります」
はっ……! しまった、ついうっかり返事をしてしまった。
死んだな、これは。あぁ、俺の異世界スローライフ生活が霧散していく。
「それじゃあ、ユージさんの気が変わらないうちに登録と、ジャイアントボアの素材の査定もしてきますね!」
小さな身体で毛皮と魔石を抱えて、エリスちゃんは奥の部屋に消えていった。
二人残された俺とダイノス。
「冒険者って、具体的に何をするんだ?」
「まぁ、駆け出しの冒険者は大体、薬草採取や街の困り事を解決したりだな! ドブ攫いとか、まぁ、何でも屋みたいなもんだ」
ほうほう、それなら出来そうだな。よし、俺はこの街を出ることのない依頼をこなすとするか。
「ただ、ユージみたいな強者は、基本的に討伐依頼を中心にするといい。
ジャイアントボアみたいなランクAの魔物を倒せるんだ。そっちの方が依頼料の効率もいいしな!」
…………。
「最初は一番下のFランクスタートなんだが、俺が話しつけて一緒のBランクにしてもらおう!」
どんどん話が進んでいく。なにこれ。
「話は聞かせてもらったぞ、ダイノス」
今度はなんだよ。声の聞こえた方へ振り返ると、そこには怖そうな顔をしたおっさんが。
めちゃくちゃガタイがいいな、このおっさん。ダイノスにも引けを取ってない。
「どこの誰とも分からないこんな奴を、お前と一緒のBランクだと? 笑わせるなよ。そんな事、俺は許さないぞ」
「ギルドマスター……」
ギルドマスター!? もう、好きにして……。
次話へ続く




