第8話「ようこそレグシアへ!」
──レグシアへと続く道。
視界の先に現れたそれを見て、俺は思わず足を止めた。
「……いや、デッカい街だなおいっ!」
街。たしかにダイノスはそう言った。
だが、俺の目には街には見えなかった。
巨大な石壁。
何十メートルあるのかも分からない灰色の壁が左右へ延々と続いている。
まるで山脈だ。
壁の上には見張り台がいくつも並び、武装した兵士たちが周囲を警戒していた。
「街っていうか……城じゃないのか?」
「ハハハッ! 初めて見た奴は大体そう言うな!」
ダイノスは豪快に笑う。
いやいや、笑い事じゃない。
日本にいた頃だって城は見たことがある。だが、こんなサイズじゃなかった。
むしろゲームや映画で見た要塞都市そのものだ。
高い壁の向こうには建物の屋根がいくつも顔を覗かせている。
煙突からは白い煙が立ち上り、人々の声や荷車の音まで聞こえてきた。
生きている。
壁の向こうに、一つの世界がある。
「レグシアは冒険者の街だからな。魔物の襲撃も多い。壁くらい頑丈じゃないと困るんだよ」
なるほど。
俺だったら絶対壁の外には住みたくない。
昨日ジャイアントボアに追い回されたばかりだしな。
そんな事を考えながら歩いていると、やがて正面に巨大な門が見えてきた。
これまたデカい。
木と鉄で作られた門は、閉じればジャイアントボア十匹くらい並べても余裕で防げそうだった。
門の前では荷車を引いた商人たちが列を作り、兵士たちが一人一人確認を行っている。
「身分証とかいるのか?」
「普通はな」
普通は?
その言葉に嫌な予感がした。
「ユージ、お前持ってるか?」
「持ってるわけないだろ」
「だよな!」
だよな、じゃねぇよ。俺は転生二日目なんだぞ。
兵士に捕まったらどうするんだ。
そんな俺の不安をよそに、ダイノスは堂々と列へ向かっていく。
「まぁ安心しろ。俺が説明してやる」
その言葉が一番不安なんだが。
巨大な門を潜った瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
「うわ……」
そこには、俺が想像していた異世界よりも遥かに賑やかな光景が広がっていた。
「凄い……RPGじゃん」
「RPG? なんだそれ?」
「あ、気にしないで。それより、兵士は大丈夫だったの?」
「それなら大丈夫だ! 身分証はギルドでも作れる! 素材も売れるし、ギルドに行くぞ!」
おぉ、ギルド。冒険者になるのはご免だが、ギルドは一度見てみたいな。
ジャイアントボアの素材、いくらで売れるんだろうか。服代くらいにはなるといいが……。
いや、服代で消えたら文無しじゃないか。そもそも服屋はあるのか? こんだけデカい街ならあるか。うーん、聞きたいことが山積みだぞ……。
「まーた一人の世界に入ってるのか? ほら、着いたぞ。ここが冒険者ギルドだ」
「おおっ! これが……冒険者ギルド。
デカい西部劇の酒場みたいだな」
「西部劇? お前、ちょいちょい知らない物を出してくるよな」
「あぁ、気にしないで。田舎だからさ、ねっ?」
「まぁいいが。でも、酒場みたいってのは半分正解だ! ここは依頼の受付と買い取り、そして冒険者たちの疲れを癒す飯屋でもあるからな!」
まさに西部劇のそれを思わせるウエスタンドアを通って中に入ると、そこにはテーブルが立ち並び、数人が腰掛け食事をしていた。
想像していたガヤガヤ、ワイワイとはしておらず、どちらかと言うと静かで、なんだか拍子抜けだ。
「昼間はだいたいこんな感じだな! 夜になると騒がしくなるから、楽しいぞ?」
なるほど。夜になると冒険を終えた人たちが帰ってきて酒を飲むのか。
一度見てみたいな。今度、夜にでも来てみるか。
「早速受付に行くぞ!」
「あぁ」
奥にあるカウンターが受付か。ダイノスに付いていこうと一歩踏み出したその時、俺の足は止まる。
テーブルで食事をしている女性の頭に、耳が生えているではないか。しかも顔は物凄く可愛い。
「んっ? どうしたユージ?」
俺はダイノスの鎧を掴み、ゆさゆさと揺さぶる。
「ダイノス、あれ、猫耳! あれ、猫耳!」
「あぁ? なんだ獣人か。って、お前……」
「初めて見た……! 猫耳! 猫耳!」
興奮しすぎて自分でも語彙力の低下は否めない。
「あんまり、物珍しそうに見るなよ?
アイツら、動物的な特徴があるってだけで差別されてきたから、その辺はナイーブだぞ?」
何故、人は差別をするのか。惑星が違っても、それは変わらないのか。
そんな哲学的な思考を巡らせる俺をダイノスは引っ張っていく。
「どうせまた考え込んでるんだろ? さっさと行くぞ」
半ば強引に受付まで連れてこられた俺は、受付嬢を見て、再び固まることになる。
「ダイノス、なぁダイノス」
「今度はなんだよ……あっ、そうか、ドワーフも初めてなのか」
俺の目の前にちょこんと座る受付嬢。これまた美人だが今度は小さい。
顔は大人びている。それでいて少し幼さも残る美しさだが、背は座ってても俺の半分くらいと分かる。
ちょっと待て。この世界、美人が多すぎやしないか? 周りを見渡すと、依頼ボードと思われる紙を貼られた板の前にいる女性。
テーブルに座っている女性。
立ち話をしている女性。
格好こそ、戦う女って感じだが、その顔はどの女性も整いすぎている。
「おーい、ユージ?」
「ダイノス、ここは天国だ」
「ははーん、コイツ、馬鹿だな?」
次話へ続く




