第89話「誓い」
──エルフの里、広場。
「そんな……嘘だ……嘘だと言ってくれ……」
俺は地面に両膝をつき、うなだれていた。
まさか、エイルさんが男だったなんて……
「ちょっと、ユージ!? どうしたの!?」
「大丈夫ですか!? ユージさん!」
リディアとエイルさんが心配そうに駆け寄ってくる。
「大丈夫。俺は大丈夫だから、少し一人にしてくれない……?」
俺がそう言うと、二人は不思議そうな顔をしながら離れていく。
それを見ていた聖竜がニヤリと笑った気がした。
ドシン──ドシン──。
(我が友よ、女はあのエルフだけではないぞ。おっと、あのエルフはそもそも男だったか)
「……うるさい……あっち行ってろよ」
聖竜は俯く俺に、そっと指を添えてきた。
……あったかいな。
(こういう時は、友と遊んで忘れるのが一番らしいぞ)
コイツ……。そっか、コイツなりに励まそうとしてくれてるのか。
「そういえばお前、名前は?」
(我に名はない……そうだ、我が友よ。我に名を与えてはくれぬか? 友情の印だ)
名前がないのか。名前を呼ばれる人生じゃないなんて可哀想だな。みんな、コイツのことを恐れていただけなのか……だったら、怖くない名前がいいな。
「じゃあ……大福、なんてどう?」
(大福ぅ? ……よいではないか!)
よかった。気に入ってくれたみたいだ。
なんかご機嫌だな。よっぽど名前が嬉しかったのか。
(それで、ユージよ。そなたらはずっとこの地におるのか?)
「いや、明日にでも発つよ。エルフのお願いを聞きにきただけだし」
(お願い?)
お前のことだよ。まぁ、死人も出てないし、宴に呼ばれてるからエルフからも嫌われてはいないんだろう。このまま黙っとこう。
「もう解決したから大丈夫。それより大福、お前はどうする? もう夜も遅いけど……」
(なにを言う! 初めてできた友と夜明けまで語り明かそうではないか!)
「そうこなくちゃ! ちょっと待ってて! お酒もらってくるから!」
(我の分の樽も頼んだぞ!)
こうして俺たちは、男同士の友情を確かめ合うように語り合った。
エルフの里にあるお酒が底をついた頃には、広場で大の字になり、仲良く眠りについた。
◆
──エルフの里、翌朝。
「本当にもう行かれるのですか? もう少しゆっくりしていっても……」
「あまり長居すると寂しくなるので」
俺は里長に挨拶を済ませ、帰る準備をしていた。
大福は広場でまだ寝ている。飲みすぎなんだよ、まったく……みんな広場に集まってるのに起きやしない。
「本当にありがとうございました。ユージ殿のことは、未来永劫語り継いでいきます」
「そ、そんな大層な……友だちもできたし、いいんですよ」
『グォァァァァーッ!』
巨大な咆哮とともに、エルフの里がざわめく。大福が背伸びをしている。どうやら目覚めたようだ。
「お前……ただのあくびかよ! 紛らわしいな!」
(おっ? ユージよ、もう行くのか?)
「あぁ! また飲もうな!」
(フハハハッ! 楽しい夜であったぞ!)
俺の隣では、リディアが冷や汗をかいている。
「アンタ、昨日殺されかけてたのになんでこんなに仲良くなってんのよ」
「男の友情だよ! なっ? 大福!」
(おうとも!)
「は? 大福ってなによ……」
「あぁ、コイツの名前だよ。昨日大福ってつけたんだ」
「またそんな適当な名前を……」
「めちゃくちゃ考えた上でつけたんだよ!?」
里長が一歩、また一歩聖竜へ近付いていく。
「おぉ……大福様……良い名じゃ……」
「でしょ? 大福は怖くなんかないです。皆さんを守ってくれますから」
再び、広場がざわめく。
「大福様……」
「なんて神々しい名前だ」
「大福様! 大福様!」
気付けば、広場は大福様の大合唱になっていた。
ほらな、みんな親しみやすい名前がよかったんだよ。
『グワッ! グワッ!』
『……ッ!』
ハナがなにかを大福に伝えると、大福は照れた様子で俯いた。おいおい、なにを言われたんだ? 念話で喋ってくれよな。
まぁ、ハナのことだ。「アンタ凄いじゃないか!」とでも言ったんだろう。
照れちゃって、可愛いな。ていうか、吹っ切れてねぇじゃん。
「おーい、大福! 俺たちそろそろ行くからな!」
(あっ! おい、ユージ! お主にこれをやる)
そう言うと、大福は指先の小さな鱗を一枚剥がした。渡された鱗は、俺の手のひらに収まるほどの大きさだ。
「綺麗な鱗だな。ありがとう! これ、なんに使うの?」
(それを握りしめて魔力を込めれば、我がすぐに駆けつけよう)
「マジで!? ありがとう!」
魔力の込め方なんて分かんないけど……そもそも、魔力……七しかないんだけど。
あとでリディアに聞こう……
「じゃあそろそろ行くよ!」
(なにを言っておる。お主の街まで送っていくぞ)
「えっ! いいの!? リディア! 大福が送ってくれるって!」
「……えっ? 聖竜に乗って、レグシアに帰るの?」
次話へ続く




