第88話「友よ」
──エルフの里、里長の家。
「そ、それで……聖竜をテイムして解決したのですか……?」
「いや、テイムというか……友だちになっただけです」
俺は、例によっていつもの説明を里長にしている。
「それで……一体なぜ聖竜は里を襲っていたのでしょうか?」
きたな……! 絶対聞かれると思ったよ。でも、なんて言おうか。「恋煩いでした」なんて言えるわけないし、言ったら聖竜に殺される。
「それが、なんというか、原因不明の病に冒されてたみたいで……もう治ったんですけど……」
苦しい。我ながら苦しい言い訳だ。でも嘘はついてないから大丈夫だろ。恋の病だって原因不明なんだし。
「その病をユージ殿が治したと……?」
「ま、まぁ。荒治療でしたけど……」
里長はゴクリと唾をのみ込む。その目は恐れと尊敬の眼差しだ。きっと色々と誤解されているが、聖竜が怖くてこれ以上深く言えない。
「ユージ殿を頼って正解でした。今宵は盛大な宴を用意いたします。ぜひ聖竜様をお連れになってご一緒に──」
「いやいや! 大丈夫ですよ! ほら、里の復興が最優先ですし、宴なんて……」
聖竜も一緒になんて無理だろ! アイツ失恋してんだよ? なにを祝っちゃおうとしてんの!?
「ですが、それでは里の者も心苦しいかと。聖竜様に一度聞いてみてはくれないでしょうか?」
「は、はぁ。一応聞いてはみますけど、期待しないでくださいね?」
なんて聞こうか。「今夜宴するけど来る?」なんて落ち込んでるアイツに聞けないよ……
◆
──聖竜の巣。
(なに!? 宴!? いつだ? ……今夜!? よし、行こう!)
「いや、行くんかい! えっ、大丈夫なの?」
(大丈夫もなにも、ハナとは恋仲になれなんだが、友として付き合うことになったからな)
「もう落ち込んでないの!? 早くない!?」
(落ち込む? 我の辞書に落ち込むなどないわ)
いや、めっちゃ落ち込んでたじゃん! 立ち直り早すぎだろ!
「いいんだけどさ、頼むからゆっくり来てくれよな? みんな怖がっちゃうから」
(当たり前だ! 襲うわけでもないのに……)
いや、アンタ襲ってたからね?
◆
──エルフの里、広場。
日が完全に沈み、辺りは無数の灯りに照らされていた。
大きな焚き火を囲むように長机が並べられ、その上には色とりどりの料理が所狭しと並んでいる。
以前エイルさんに作ってもらった木の実のパンに、野菜やキノコを煮込んだスープ。見たこともない果物や、香草の香りをまとった肉料理まである。
壊れた家や倒れた木々はまだそのまま。
それでも広場には、大勢のエルフたちが集まっていた。
「すげぇな……」
「今日は里が救われたお祝いだもの。当然でしょ?」
隣に立つリディアは嬉しそうだけど、俺はそれどころじゃない。
周囲を見渡せば、みんな楽しそうに話している。 子供たちは広場を走り回り、大人たちは料理を運びながら笑っていた。
……本当に呼んで大丈夫なのか?
「ユージさん。聖竜様は本当にいらっしゃるのですか?」
「来るって言ってましたけど……」
エイルさんの問いに答えた、その時だった。
バサッ──バサッ──
遠くから、巨大な翼が空気を叩く音が聞こえてくる。
広場から笑い声が消えた。
「…………」
「…………」
さっきまで走り回っていた子供たちまで動きを止め、全員が同じ方向を見上げている。
月明かりを遮る巨大な影。
白銀の鱗が焚き火の光を反射し、聖竜がゆっくりと里へ降りてきた。
ズゥゥン──
地面がわずかに揺れる。
「せ、聖竜様……」
誰かが呟いた瞬間、エルフたちが一斉に頭を下げた。
そりゃそうなるよな。
昨日まで里で暴れ回ってた張本人だもんな。
(おぉ、ユージ! 来たぞ! 宴はどこだ!?)
……本人めちゃくちゃ楽しそうだけど。
「ここだよ。ていうか、もうちょっと静かに降りられないの?」
(むっ? 我は十分静かに降りたぞ?)
あれで? エルフたちなんて全員固まってるぞ。
聖竜はそんな空気などまったく気にする様子もなく、キョロキョロと広場を見渡した。
そして──ピタリと止まる。
視線の先にはハナ。
「おい、大丈夫か?」
(……大丈夫だ)
「本当に?」
(…………大丈夫だ)
全然大丈夫そうじゃない。
さっきまで上機嫌だった聖竜が、分かりやすく肩を落とした。
ハナがこちらに気付き、翼を上げる。
(おや、アンタも来たのかい! こっちにおいでよ!)
(…………!)
聖竜の顔が上がった。
(い、今行く!)
「切り替え早ぇな!」
聖竜は嬉しそうにハナのほうへ歩いていく。
ズシン──ズシン──
「ちょっ! ゆっくり! 家! 家壊れるから!」
(分かっておるわ!)
絶対分かってないだろ!
そんな俺たちのやり取りを、里長をはじめとしたエルフたちが呆然と眺めている。
「ユ、ユージ殿……」
「はい?」
「本当に……聖竜様とご友人なのですね……」
「だからそう言ったじゃないですか」
「まさか、あの聖竜様にあのような口をきける者がいるとは……」
いや、アンタたちには聞こえてないだけで、向こうも大概だからね?
その時、里長が広場の中央へと進み出た。
「皆の者! 此度、我らの里を救ってくださったユージ殿と、その御一行。そして聖竜様に、心からの感謝を!」
「「「おぉぉぉぉぉっ!」」」
大歓声が夜空へ響く。
聖竜も満足そうに頷いていた。
(うむ! 今宵は無礼講だ!)
「いや、アンタが言うの!?」
こうして、エルフの里を救った祝いの宴が始まった。
原因になったヤツも参加してるけど。
俺がエルフ料理を楽しんでいると、エイルさんが近付いてきた。
「ユージさん。本当にありがとうございました」
「いやいや、いいんですよ」
これでエイルさんともかなりお近付きになれたし、もしかしたらもしかするぞ……!
その時、俺の目に映ったのは、エイルさんの服を掴んで後ろに隠れている子供だ。まさか……
「あぁ! 紹介が遅れました。私の息子です」
「えっ!? けっ、結婚してたんですか!?」
「え? あぁ、はい。今は独り身なんですけどね」
おぉ、セーフ……なのか? たしかに、前に聞いた時も「今は」って言ってたな。
「ねぇ、お父さん。この人だぁれ?」
「この人はね、里を救ってくださった英雄様だよ」
「へぇー! お兄ちゃん凄い人なんだね!」
「そうだよー。凄いんだよー」
って、ちょっと待て。
「お、お父さん!?」
エイルさんがお父さんって……えっ? えっ?
男だったのぉぉぉぉ!?
次話へ続く




