第82話「はじめてのダンジョン報酬」
──エルフの里、奥地。
『グオォォォォォッ!』
さっきまでただ暴れていた聖竜が、明確に俺を狙って突進してくる。
俺の前には、ハナが守るように立って聖竜を睨みつけていた。
「ハナ! 危ないから早く離れろ!」
『グワッ!』
俺もリディアも、エイルさんも。その場にいた全員が目を閉じた。
しかし──
「……っ! ……あれ?」
聖竜の突進が来ない。遅れて、強風が顔に当たった。
聖竜はハナの目の前で急停止し、こちらを睨みながら歯ぎしりをしている。
ハナも目を逸らそうとはしない。
「……マジでなんなの? これ……」
聖竜は尻尾を振り上げ、一度だけ地面に叩きつける。ドォン、という音とともに、俺の身体がふわりと浮いた。どしん、と尻もちをつく。
聖竜は静かに空へ舞い上がり、遠くに見える山の方へと向かって飛んでいった。
「ユージさん! 大丈夫でしたか!?」
駆け寄ってきたエイルさんに肩をワシワシとされると、リディアも心配そうに近付いてくる。
「ユージ! ケガはないの!? ……ってか、なんで無事に済んでるわけ!?」
「おっ、俺に聞かれても……」
「聖竜、行ってしまいましたね……」
エイルさんはすっと立ち上がり、小さくなっていく聖竜を見ている。
「なんで暴れているのか。それが分からないことには解決しないわね」
リディアが小さく呟く。
「そうだな……。あっ! そういえば、俺の荷物……」
俺は辺りを見渡す。無残にも散らばった鞄の中身を一つずつ拾っていく。
回復薬は……ほぼ全滅だな。瓶が粉々だ。
辛うじて無事だった一本を拾い上げる。
ハァ……そんなに安くなかったんだけどな、トホホ……
「あっ、私も手伝います!」
エイルさんが駆け寄り、一緒に拾ってくれる。
「ありがとうございます」
「いえいえ。割れた回復薬はエルフの里で補充しましょう」
さすがだ。美人で、気が利いて、優しい。
「ところで、エイルさんは恋人とか、いないんですか?」
「ははは……お恥ずかしいですが、今は独り身です」
……チャンスだ。“今は”が気になるが、女性にこれ以上深く質問してもな。それに今は、それどころじゃないし……
カツン──
荷物を拾っていると、足元にあったブレスレットに気付かず蹴ってしまった。
「あっ、これは……はじめてのダンジョンで手に入れた人生初アイテムだ」
それは、金色に輝く綺麗なブレスレット。あの時、鑑定に出そうとして忙しさのあまりすっかり忘れてたな。
というか、忙しいとかじゃなく、次々と不幸が舞い込んできてただけだが。
もしやあの怒涛の展開はリディアのアンラッキーのせいなのか? アイツのスキルが俺を殺そうとして……相当危なかったんだな……
「これは、どこにしまおうかな……」
俺が鞄にブレスレットを入れようとしていると、エイルさんが血相を変えて俺の腕を掴む。
「ちょっ、ちょっとユージさん!? これは……」
エイルさんの視線は俺ではなく、手に持っているブレスレットに注がれる。
「ちょっとこれ、見せてください!」
「は、はぁ」
エイルさんはブレスレットを受け取ると、まじまじと眺めている。そんなに珍しいやつなの?
「ユージさん。どうしてあなたがこのブレスレットを持っているんですか?」
「へっ? どうしてって、ダンジョンの宝箱に入ってたんだけど……」
「そうですか……。実は、ドラゴンと話せたエルフとは、私の弟だったのです」
「えっ!? あの、どこで何してるか分からない冒険者の?」
「そうです。そして、弟が装備していたのが、このブレスレットです……!」
エイルさんの手がわずかに震えているように見えた。
「ダンジョンの……宝箱に……。ということは、私の弟はすでに……」
エイルさんの目から、小さく光るものが落ちる。
そうか、そこで亡くなったから宝箱に……
「で、でも! まだ亡くなったとは言い切れないんじゃないですか?」
リディアが割って入る。
「ダンジョンの宝箱は不純物。どこかでなくしたブレスレットを誰かが拾って、たまたまあのダンジョンに紛れ込んだ可能性も……」
「いいんです……! 彼も冒険者。十年も帰って来なかったんです。家族である私たちも、最悪の事態は覚悟の上でした……」
エイルさん、強い人だな。相当心配していたはずなのに……
んっ? いや、待てよ?
「そのブレスレットを弟さんが持ってたってことは、それって……」
「はい。これが“念話のブレスレット”。これがあれば聖竜と話ができます」
マジで? 帰ってくるどころか、すでに俺が持ってたの?
えっ? どこから繋がってたの? ……はい?
次話へ続く




