第81話「エルフとドラゴン」
──エルフの里、奥地。
森を抜けた瞬間、地面が大きく揺れた。
「うわっ!?」
足元がぐらつき、慌てて踏ん張る。その直後、少し離れた場所から轟音が響いた。
──ズドォォォォンッ!
「な、なんだ!?」
視線を向けると、森の先に小さな村が見えた。
いや、それよりも──
「……デカすぎるだろ」
村の中央に、一頭の巨大なドラゴンがいた。
白銀の鱗に覆われた巨体。背中から伸びる大きな翼は、広げれば村そのものを覆ってしまいそうなほど大きい。
聖竜は天に向かって咆哮を上げる。
『グォォォォォォォォッ!』
空気が震えた。木々がざわめき、家の窓がビリビリと音を立てる。
「うおっ……!」
耳を塞いだ、その時だった。
聖竜が突然、頭を大きく振った。
長い尻尾が地面を薙ぎ払い、近くにあった木をまとめてへし折る。
──バキバキバキッ!
倒れた木が一軒の家に直撃し、屋根が崩れ落ちた。
「家がっ!」
けど、聖竜は家なんて見ていない。
村人を追いかけてもいない。
ただ苦しそうに首を振り、地面を前脚で何度も叩きつけている。
そのたびに地面が揺れ、石畳が割れ、近くの家々が軋んだ。
『グルルルル……グォォォォォッ!』
今度は大きく翼を羽ばたかせる。
「うわぁぁぁっ!?」
猛烈な風が村を駆け抜けた。
屋根の板が吹き飛び、木箱や樽が宙を舞う。逃げていたエルフたちは、その場にしゃがみ込んで必死に風に耐えていた。
……なんだこれ。
襲ってるっていうより──
「ただ暴れてるだけじゃねぇか……」
誰かを狙っているようには見えない。ただ、あまりにもデカくて、あまりにも力が強すぎる。
暴れるたびに、その近くにあるものが勝手に壊れていく。
これじゃあ、村のほうがもたないぞ……
「ユージ!」
リディアが俺の名を呼ぶ。
「いや、無理だろ! 話なんて聞いてくれないって! ていうか、通じねぇよ!」
これはいくらなんでも運でどうにかなる相手じゃない。ただ、立ち尽くしている俺の肩に、ハナがクチバシをトントンと当ててきた。
『クワッ!』
「えっ? まさか乗れって? 乗ってなにするつもり……おいおい、戦う気か!?」
『グワッ!』
ハナは一言鳴き、じっと俺を見てくる。
「あー、もう。分かったよ! 乗りゃいいんだろ!
もう、知らねぇからな!」
俺がハナに飛び乗ると、勢いよく空へ舞い上がった。聖竜の後方から、ゆっくりと近付いていく。
「ユージ! 気をつけてね!」
「なにを!? どうやって!?」
徐々に聖竜へと近付いていく。いや、それからどうすればいいの? 攻撃なんて絶対に効かないだろ……そもそも、俺には攻撃手段がないし。
そうこうしているうちに、再び聖竜が暴れだした。
左右に振られた尻尾が俺たちを掠める。
攻撃を当てようなどとはしていない。ただ、その尻尾の動線に俺たちがいただけだ。
「危ねぇ! ハナ! 大丈夫か!?」
『グワッ!』
ハナは暴れる尻尾をギリギリで避けながら、体勢を整える。
しかし、しがみついている俺の腕力には、とうに限界がきていた。
「もっ、もうダメ……かも……」
なんとか掴んでいた手が力尽き、バランスを崩した俺は、真っ逆さまに落下していく。
「うわぁぁぁぁっ!」
「ちょっ、ユージ!」
「ユージさん!」
エルフの家に激突する寸前で、ハナが俺の足を咥え、逆さまのままなんとか助かった。
「あ、危なかった……ハナ、ありがとう!」
『ウアッ!』
空中でぷらんぷらんとしていると、最悪のタイミングで聖竜が俺たちに気付く。
振り返った聖竜とバッチリ目が合ってしまう。
「あっ……」
『グルッ……』
あれ? 目、合ってるよな? なにこの時間……
『ガァルルルッ! グオォォォォッ!』
今日一番の咆哮とともに、俺の身体は左右に揺れる。
「危なっ! ちょっ、イテテテ……ハナ、牙が足に食い込んで……アタタタッ!」
激しく揺れる身体。逆さ吊り状態のまま絶体絶命のピンチを迎える。
背負っていた鞄が開き、中身が落ちていく。
ガシャン、パサッ、カラカラン──
あぁ、俺の回復薬が……ハナの牙で怪我した足すら治せないじゃん……
『グオォォォォォッ!』
再び咆哮が飛んでくる。でもなんか、これ……
「ねぇ、エイルさん。聖竜、明らかに怒ってない?」
「……ですね。ユージさんを見た瞬間から、様子がおかしいです」
リディアとエイルさんの声が聞こえてくる。いや、俺もそう思ってたところだよ。
「なぁハナ、そろそろ降ろしてくれないだろうか?」
『ウアッ!』
地上に降りたものの、聖竜の怒り? は収まっていない。なんで俺? 意味わからん……
『ガァルルルッ!』
聖竜は怒りに任せて突進してくる。ちょっと待って。その巨体でぶつかったら、村どころか森が無くなるって!
徐々に迫る聖竜の巨体が、俺たちに影を落とす。
ダメだ……逃げようがない……
『グワッ!』
ハナが俺の前に立ち、翼を大きく広げる。
「ハナ!? 危ないから逃げろ!」
『グワッ!』
『グオォォォォォッ!』
次話へ続く




