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第80話「エルフの里」


──里へと続く道、森の中。


「すげぇ、空から見たらまるで道じゃん」


 俺は、ワイバーンのハナに乗って空から森を見る。エイルさんの笛の音で左右に分かれるように霧が開き、里へと続く道が現れていた。


「あとはこの道をひたすらまっすぐに進むだけです!」


「まっすぐっていっても……先が見えないんだが」


 俺たちは、霧が開いた道に沿って森の奥へと進んでいく。

 半日ほど歩いていると、周囲の雰囲気が少しずつ変わってきた。


「……ん? なんか、さっきまでと違わないか?」


 鬱蒼と生い茂っていた木々の間から、柔らかな光が差し込んでいる。足元には小さな花が咲き、どこからか鳥のさえずりも聞こえてきた。


 木々の幹には蔦が絡まり、その隙間から淡い光が漏れている。


「……すげぇ。なんか、森が生きてるみたいだな」


「ふふっ。もうすぐですよ」


 エイルさんは嬉しそうに微笑んだ。俺はハナの背中から辺りを見渡す。


 さっきまであれほど濃かった霧も薄くなり、木々の輪郭がはっきりと見えるようになっていた。


 ……おっ、ようやく抜けるのか?

 そう思った、その時だった。


「うわっ!?」


 目の前に、真っ白な霧の壁が現れた。

 左右を見ても、上を見ても、どこまでも白い。さっきまで続いていた道が、そこでぷっつりと途切れている。


「……行き止まり?」


「いえ。ここが里の入り口です」


「こっ、これが!?」


 どう見ても、ただの霧の壁なんですけど。

 エイルさんはヤルマから降りると、霧の前に立った。


 そして、胸元に手を当て、静かに一礼する。


「……ただいま戻りました」


 その声に応えるように、霧の壁がゆっくりと揺れ始めた。


「おぉ……?」


 白い霧が左右へ流れ、少しずつ視界が開けていく。

 やがて、目の前の霧が完全に消えた。


「……うわぁ」


 そこには、森の中に隠されていたとは思えないほど、美しい里が広がっていた。


 巨大な木々の間には、木造の家々が立ち並んでいる。太い幹に寄り添うように建てられた家もあれば、枝の上に造られた家もあった。


 それぞれの家は木の橋でつながれ、地上には石畳の小道が緩やかに伸びている。


 木々の隙間から差し込む陽光が、地面にまだらな模様を描いていた。


「……すっげぇ。こんな場所があったのか」


 森を切り開いて造った街というより、森の中に家を溶け込ませたような里だった。


「ようこそ、エルフの里へ!」


 エイルさんが振り返り、両手を広げた。

 俺たちはその案内に従い、霧の壁があった場所を通り抜ける。


 ハナもゆっくりと翼を動かし、里の中へと進んでいった。


 ……ついに来ちまった。


 俺はもう一度、目の前に広がる里を見渡した。

 こんな綺麗な場所で、聖竜が暴れてるのかよ……


「でも、暴れてるって割には、綺麗だな」


「ここはそうですが……里の奥は……ユージさん、着いて早々で悪いのですが……」


 えっ? もうドラゴン退治しろってか? まだ心の準備が……


「里長に会っていただきたいのですが……」


「あっ、そっちね」


「えっ? そっち?」


「いやいや、こっちの話です。行きましょう里長のところへ」


「は、はぁ」



◆



──エルフの里、里長の家。


 俺たちは、エイルさんの案内で里長の家に入っていく。

 奥の部屋には、白髪混じりの髭を蓄えた、小柄なおじいちゃんが座っていた。


「里長、ただいま戻りました!」


「おぉ、エイル。よくぞ戻ってくれた! して、この方が……?」


「はい。里を救えるのは、このユージさんしかおりません」


 里長は目を見開いて、俺を見てきた。


「ユージ殿、どうか里をお救いくだされ」


 そう言うと里長は、その場に膝をつき、深々と頭を下げる。


「いやいや、頭を上げてくださいよっ!」


 俺はどうすればいいか分からず、同じように土下座をする。大の大人が二人、お互いに土下座をする、なんともシュールな光景だ……


「アンタたち……なにしてるの? ゴホンッ!

 里長さん、ドラゴンはなんで暴れてるんですか?」


 リディアは俺たちの土下座を無視し、話に割って入ってきた。

 里長は、ゆっくりと頭を上げ、口を開く。


「それが分からんのじゃ。唯一ドラゴンと話のできた者は、里を出てから久しく帰ってきておらんからの」


「ドラゴンと!? 話が!? そんなスキルがあるんですか?」


 リディアは目を丸くして驚く。そんなに珍しいのか。たしかに、そのスキルがあればシロたちと話ができるから便利だな。


「スキル? いやいや、スキルじゃないぞ。

 魔物と会話できる魔導具なんじゃ」


「そんな便利な魔導具があれば聖竜と話して解決できるじゃないですか!」


 俺も頭を上げ、会話に加わる。


「それが、その者は冒険者をやっておったのじゃ。

 “念話のブレスレット”を装備したまま、どこで何をしているやら……」


 そのブレスレットめっちゃ欲しい! 極運パワーで帰ってこないかな……そりゃ都合良すぎるか。


「里長! 大変だ!」


 里長の家に、若い男のエルフが血相を変えて入ってきた。


「どうしたのじゃ!?」


「聖竜様がまた……暴れています! このままじゃ里は……!」


「なんと! ユージ殿っ!」


「えっ!? もう!?」


 まだ心の準備ができてねぇよ!




 次話へ続く

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