第77話「隠された里」
──レグシア、冒険者ギルド。
「エッ、エルフの里? そんなの本当にあるんだ……」
「え、えぇ。まぁ普段は結界で守られてるので、視認できませんが……」
すげぇ、まさにエルフの里だ。
「それで、一緒に行ってなにをすれば?」
「それは、その……」
なんで口ごもるの? やっぱり断ろうかな。
「……行けば分かります」
絶っ対やだ! 無理難題を押し付けようとしてるに決まってる! いくらエイルさんの頼みでも、危険な匂いしかしないから無理無理!
「ユージ! 行きましょう! エイルさんを放っておけない!」
リディアが話に割って入る。その目は、心配というよりむしろキラキラと輝いていた。
「お前、エルフの里に行きたいだけだろ!」
「は? え、いや、そんなことないし!」
図星かよ! コイツ……冒険に飢えてやがる。
「あのー、やっぱり俺──」
「──ダメでしょうか? 私たちエルフ族にはもうユージさんしか頼れる人がいなくて……」
エイルさんは上目遣いで俺を見てくる。その瞳にはうっすらと光るものがあった。
ズルい。ズルすぎるよ、エイルさん……
「もう、分かりましたよ! 行きますよ……」
俺は渋々頷いた。めちゃくちゃ怖い。なんてったって内容をまったく聞いてないからな。
「それで? いつから行きますか?」
「えっ? 今からですけど?」
「……はい? あの、今さっき帰ってきたばかりなんですけど……」
「ダメ、ですか?」
エイルさんは再び上目遣いで俺を見てくる。クソッ! さっきはその目に騙されて返事をしてしまったけど、今回はそうはいかないぞ!
「……っ! 分かりましたよ……」
「アナタ、チョロすぎでしょ……」
「……うるせぇ」
言われなくても、俺も分かってるよ。
「エルフの里ってここから近いんですか?」
「いえ、かなりの距離がありますよ。ロゼント山脈を越えて、二日ほど歩いた先にある森の中です」
淡々と語るエイルさんを横目に、俺の表情はみるみる曇っていった。
めちゃくちゃハードな旅じゃん。少しはゆっくりしたかったな……
「心配しないでください。なにも歩いていくわけじゃないですよ」
「へっ? そうなんですか?」
「乗り物は手配してますので、私についてきてください!」
パァッと笑顔になったエイルさんは、颯爽とギルドを飛び出していった。
俺たちが行くことがよっぽど嬉しかったんだろう。一体なにが待ち受けているのやら……
「ユージ、リディア。気をつけてな?」
「は、はぁ」
マスターに声をかけられても、気のない返事しか返せなかった。
俺たちは、エイルさんが手配した乗り物を目指して、その後を追った。
◆
──レグシア、街外れの牧場。
「ここです。ここに今回の乗り物がいます」
「なんだ? コイツは……?」
そこには、馬ともヤギとも違う、まるで二頭を掛け合わせたような不思議な生き物がいた。
「こいつはヤルマです。ロゼント山脈のような崖の多い地形でも、平気で走れるんですよ」
「すげぇ。特化型なんですね……」
俺はヤルマを撫でようと、そっと背中に手を近付ける。
『ブルルルルッ! バウッ!』
ヤルマはなぜか興奮して、俺の手を噛もうとしてきた。
「危なっ!? えっ? コイツ、凶暴なんですか!?」
「いや、そんなはずは……ヤルマは温厚な性格なんで人を噛んだりしませんよ?」
「えっ? でも今、明らかに……」
俺がエイルさんと話していると、ヤルマは突然背を向ける。なんだなんだ? なにして──
ドカッ──!
「ごふぁっ……!」
ヤルマの後ろ脚が俺のみぞおちに綺麗に決まる。
俺は、崩れるようにして倒れた。
「ユッ、ユージさん!? 大丈夫ですか!?」
「……大丈夫、じゃ、ないです……なにこれ」
「おかしいな。この子と相性が悪いのかもしれないですね。一人一頭なので、他の子を試しましょう!」
そう言うとエイルさんは次々とヤルマを連れてきた。
そして──代わる代わる来るヤルマに手を噛まれるわ、足を踏みつけられるわ、しまいには唾を吐きかけられた。
「そんな……バカな」
絶望するエイルさんの横で、ぐったりとしている俺。牧場にいる全てのヤルマになぜか嫌われてしまった。
「アナタ、この子たちになにかしたの?」
リディアがヤルマに擦り寄られながら、俺を煽ってくる。
「……なんでお前には懐いてるんだよ! 俺、今日初めて会ったのになんで嫌われてんの?」
「もしかしたら……」
エイルさんが顎に手を置きながら、深刻そうに口を開く。
「シロ君が原因かもしれないです……!」
「シ、シロが!? なんで?」
「仔犬とはいえ、あの子はフェンリル。匂いに敏感なヤルマには刺激が強すぎるのかも……」
「えっ? じゃあダメじゃん。どうします?」
「ユージさんには……歩いてロゼント山脈を越えてもらうしか……」
「えっ?」
「歩いてロゼント山脈を越えてください」
「いや、聞こえてないわけじゃなくて」
次話へ続く




