第76話「また会う日まで」
──王都グランシア、城門。
俺たちは、レグシアに帰るためディーノが用意した馬車に乗り込もうとしている。
「それでは皆さん、ありがとうございました」
馬車の外で俺たちを見送るアルフが頭を下げる。
「あっ、ユージさん! ちょっといいですか?」
俺は、アルフに呼び止められた。
「妹を、リディアのことを、よろしくお願いします」
「なんですか、そんな改まって……」
「アイツが十四の時に突然スキルが発現して、それ以来あんな穏やかな顔をしたことはなかったんです」
そりゃあ、ある日突然自分のせいで周りに不幸が降りかかったら、笑ってらんないよな。
「家族の反対を押し切って、泣きながら家を飛び出したリディアと、あんな顔して再会できるなんて思ってもみませんでした」
「家族が味方でいてくれたことが、何より彼女を救ったと思いますよ」
俺がそう言うと、アルフの目に涙が溜まりだした。おいおい、また泣きながら離れるのか?
でも、七年前とは違う涙だな。
「うっ……ユージさん……」
「はい」
「リディアは、笑って冒険者してますか?」
「そりゃあもう。誰よりも楽しそうに冒険してますよ」
「うぅっ……! リディアのこと、よろしくお願いします……」
涙でろくに前も見えていないアルフに手を振りながら、俺たちは王都をあとにした。
「ねぇ、ユージ。お兄様となにを話してたの? めちゃくちゃ泣いてるけど……」
「お前のこと、よろしくってさ」
「えっ? それだけ? それであんなに泣けるの?」
「……いい兄貴だな」
「……そんなこと、アタシが一番知ってるし」
リディアは頬を膨らませながら、顔を背けた。アルフと一番遊んでたって言ってたし、大好きなんだな。
「さぁ、帰ろう。レグシアに」
◆
──レグシア。
馬車を降り、門を通って街へ入る。
懐かしい匂い、懐かしい風景、そして人々。
「くーっ! 帰ってきたー!」
俺は、大きく背伸びをしながら無事に帰ってきた喜びに浸る。
ギルドへと向かう通りで、会う人みんなに「おかえり!」と声をかけられ、やっぱりここが俺の帰る場所なんだなと実感した。
「よし、さっさとギルドで挨拶すませて、換金しにいこう」
王都で貰った報酬と、ニニホンの小判。合わせたら楽勝で家が建つだろ。
換金して、その足で大工のところに行って……ワクワクが止まらんですな。ハッハッハッ!
「なんだか、ユージがご機嫌だな」
「えぇ、そうね。嫌な予感しかしないわ」
「……まったくだ」
やめろ、二人して。フラグ回収率百%なんだから、変なこと言わないでくれよ。
せっかく機嫌が良かったのに。水を差された俺は、冒険者ギルドへと向かった。
◆
──レグシア、冒険者ギルド。
ギルドの中に入ると、冒険者たちの視線がこちらへと向けられた。
みんな、驚いたような顔をしている。
えっ? 俺、なんかしました?
「うおぉぉっ! 帰ってきたぞ!」
「キャッ! こっち見た!」
「すげぇな。俺もいつかあんな冒険者に……」
なんか、ギルド内がお祭り騒ぎになっちゃった。王都の噂がもう届いてるの?
「あっ! ユージさん! それにリディアさんも! おかえりなさい!」
聞き覚えのある懐かしい声に振り返ると、そこにはエリスちゃんが、めちゃくちゃ可愛い笑顔で出迎えてくれていた。
「エリスちゃん! ただいま! なんだかギルドが騒がしいね……」
「……ユージさん? アナタのせいですよ?」
「えっ?」
「なんで王都に行っただけで国を救っちゃうんですか!? 毎日ユージさんの噂がレグシアまで届いてましたよ!?」
あちゃー。
「闘技大会を破竹の勢いで勝ち進んで、魔族を追い払って、猿獅子を従えたって……冗談ですよね?」
「破竹の勢いってわけじゃあ……」
「否定するのそこなんですか!? じゃあ、全部本当だったんですね……凄すぎます……!」
エリスちゃんの目が、眩いほどに輝いている。
「そっか……ニニホンのことまでは流石にみんな知らないみたいだな……」
「ニニホン!? ってユージさんの故郷の?
もう、これ以上伝説を増やさないでください!」
俺は全部巻き込まれただけだっての! 自分から増やしに行ってないよ!?
「おいおい、なにをそんなに騒いで……ってユージじゃないか!」
出たよ。ギルドマスターが二階から降りてきた。
勘違い拡声器の登場ですよ……
「お前は本当に、大したやつだよ……Bランクじゃあ収まりきらない器だな」
「えっ?」
「王都でのことは本当なんだな? ダイノス」
「あぁ! 俺が証人だ! 何だったらグランシアに確認しても大丈夫だぞ!」
「いや、いい。ユージのことだ、全部事実だろう。
よしっ! お前は今日からAランクだ!」
──ウォォォォォッ!
ギルドが盛大に盛り上がった。歓声の中、俺はただ佇んでいる。
マスターは、リディアに視線を送る。
「リディアも、スタンピード阻止の功績で今日からBランクにしよう! エリス、頼んだぞ」
「はいっ! すぐにカードを作り直します♪」
半ば強引に俺たちの冒険者カードを取り上げ、エリスちゃんは奥へと駆けていった。
「なんだか、怒涛の展開ね……」
「本当に……なんなんだよ……」
俺たちが呆然と立ち尽くしていると、今度はエイルさんが二階から降りてくる。
「ユージさんじゃないですか! 帰ってきたんですね……」
……相変わらずお美しい。エルフは長寿だったよな。この美貌をずっと見ていられるのか……
「なぁ、エイル。あの件、ユージならなんとか出来るんじゃあないか?」
「……そうですね。ユージさんなら……」
……おや? なんだか様子が……
「ユージさん、一緒にエルフの里に行っていただけないでしょうか?」
……はい? あのー、今帰ってきたばかりなんですけど?
次話へ続く




