第75話「正直者は馬鹿を見ない」
──王都グランシア、王城。謁見の間。
俺とリディア、そしてアルフは、使者に連れられて王城へとやってきた。
謁見の間に入ると、そこにはすでに両手を後ろに縛られ、床に跪いている貴族がいた。
「なんでお前たちがここに!? まぁいい。そうやってしていられるのも今のうちだ。すぐに釈放されるから、覚悟しておけよ!」
コイツ……この状況でも諦めてないの?
俺に気付いたディーノさんが近付いてくる。
「これはこれは、ユージ様。ご足労いただき感謝します」
「あっ、ディーノさん! お久しぶりです!」
俺たちのやり取りを見て、貴族の顔色が変わる。
「なっ、なんであんな冒険者風情にディーノさんが話しかけている!?」
突然、謁見の間の空気が引き締まる。すると扉が開かれ、王様──アルヴェリオ三世が入ってきた。
その姿を見た瞬間、誰も言葉を発しなくなる。
さっきまで騒いでいた貴族も口を閉ざし、深々と頭を下げた。
静かだ……
広い謁見の間に、王様の足音だけが響いている。
王様は玉座まで歩くと、ゆっくりと腰を下ろした。いつもの穏やかな笑顔はない。
……なんか、怖いんだけど。
しばらくの沈黙のあと、王様が静かに口を開いた。
「さて……今回の件について、話を聞こうか。
シルホーク家の者よ。なにか申し開きはあるかの?」
「はっ! 王よ、誤解でございます。全て賊が仕組んだ事です。わっ、私も被害者なのです!」
「なにを……! そんなのデタラメだ!」
貴族の言葉に、アルフが反応する。
「そうです! ハートクラン家が賊と共謀してシルホーク家を陥れようとしているに違いありません!」
「お前……いい加減にしないか!」
「だってそうだろう!? 我々がハートクラン家のような弱小貴族を相手にするはずがない!」
貴族とアルフが言い争いをしている横で、王様は明らかに苛立っている。こんなに怖かったっけ?
「──双方、静まれ!」
空気を察して、ディーノが声を荒げた。さすが、シゴデキ側近だな。
「シルホーク家の言い分は分かった」
「お、王よ!」
貴族の言葉に王はキッと視線を送る。
「では、この書簡はどう説明する?」
王様が懐から書簡を取り出す。あれ? モモのやつ、ちゃんとディーノさんに渡してくれたんだな。
「そ、それがなぜそこに!? ……ハッ!」
「これは、昨夜儂の寝室に突如として猿獅子の子が現れてだな……」
王様は俺を見て小さく笑った。んっ? モモのやつ……まさか直接王様に!?
「この書簡には、そなたが賊と謀ってハートクラン家を陥れようとした計画が書いてあるのだが。
わざわざ誘拐までして脅迫とは……」
「そんなもの偽物です! コイツらが偽造してるんです! 信じてください!」
これは……さすがにムカついてきたぞ。
「お前なぁ、いい加減認めろよ……」
「うるさい! 黙れ! たかが冒険者がっ!
お前もハートクランの差し金だろ!」
コイツ……! 俺はチラリと王様に視線を送る。
あー、ヤバい。キレてるー。
「王よ! 信じてください! こんな嘘つき冒険者なんか──」
「──黙れ」
謁見の間に、これまでにないほどの緊張が走った。
「貴様、この国を救った英雄が嘘をついていると?
そう申したのか?」
「……は? 英雄?」
「まさか、この国にいて魔族襲撃事件を知らぬのか?」
「あんな大事件知らないわけ……えっ、まさか……」
貴族は口を半開きにしたまま、ゆっくりと俺に顔を向ける。
いや、そんな顔で見られても。
「……ふぅ。シルホーク家の領地及び事業は全て没収する。連れていけ」
「そ、そんな! いくら英雄でも、たかが冒険者でしょう!? 信じてくださいよ! 王よ!」
「……たかが冒険者? 貴様、それ以上口を開くな。たかが一貴族の分際で」
「し、しかし!」
「賊どもの証言もすでに取れておる。王城内でそなたから金を受け取っていた者もな」
「あ、あぁ……終わりだ……は、はははっ……」
貴族は肩を落とし、乾いた笑い声を漏らす。
両脇を兵士たちに抱えられ、謁見の間から連れ出されていった。
「ユージ殿。国のゴタゴタに巻き込んでしまってすまない」
「は、はぁ。俺は全然、仲間のためにやっただけですし……」
貴族が出ていった後、王様はいつもの表情に戻っていた。いや、どっちが本当の顔なんだ? 掴めない人だな。
「どうじゃ? シルホーク家の領地経営をしてみらんかの?」
「いやいやいや! 俺なんかが領地経営なんて務まりませんって!」
「フッフッフ。冗談じゃよ」
王様は笑っているが、多分半分本気だっただろ。
「アルフ=ハートクランよ」
「……はっ!」
「シルホーク家の残した領地及び事業は本日をもってハートクラン家に任せる!」
「わ、我々の家には、とても……」
「だからじゃよ。欲に目が眩まず、国のために新たな物流の仕組みを考えたそなたたちだからこそ任せるのだ」
「し、しかし……」
「アルフさんなら大丈夫ですよ」
俺はそっとアルフの背中を押した。こんな真面目で家族想いの人が報われない世界なんて嘘だ。
「は、はい……謹んでお受けいたします……!」
「ハッハッハッ! そう気負わずともよい!
ディーノよ、ハートクラン家に使者を回して支援してやれ」
「はっ……!」
こうして、リディアとハートクラン家を巻き込んだ騒動は幕を閉じた。いやぁ、みんな無事で良かった良かった。
「して、ユージ殿よ」
「あっ、はい」
「次からはいきなり寝室に従魔を寄越すのは勘弁していただきたい。生きた心地がせんかったわ……」
「いや、ホントすいません」
次話へ続く




